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非常勤講師として勤務している短大の授業が始まりました。
担当する科目は『日本語表現2』(大まかに分類すると、日本語表現1が文章表現、2が音声表現の講座ですかね)
今年で7年目になります。
試行錯誤の様子は以下の記事の「先生時代」をご参照ください。

青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラムを受講中、実際に体験したワークショップに『住民会議』というものがありました。

私の場合はオンラインでの体験でしたが、すごく衝撃を受けました。

というのも、上記の「先生時代」に試行錯誤した際、「演劇」を使ったらいいのではないかと演劇のワークショップに参加して体験しつつ学ぶものの、ファシリテーターが複数人いないとできないプログラムだったり、内容も私の授業に取り入れるにはちょっと合わないかもと感じたり。
もちろん、さまざまに応用させてもらい学生同士の関係構築などには大いに役立ったのですが、学習到達目標に直結するものではない気がしていたんです。

でも、「住民会議」はドンピシャでした!
これはまさに演劇的手法を用いたコミュニケーションの練習です。
どうしても私の講座の学生の皆さんと一緒にやってみたくて、考案者の内山厳さんに「アレンジしてやらせてもらってもいいでしょうか」とお願いし、OKをいただきました。

厳さん考案の「住民会議」はちょっと大人向けな気がして、私の授業でやるにはより学生に近い設定でやった方が効果的だろうと、最初はグラウンドの使用日を決める会議にソフトボール部から誰を出すか話し合うという設定にしました。
登場するキャラクターにはそれぞれ思惑があるんですよ。
「出ると負けの野球部より、全国大会出場を控えたうちの部がグラウンドを多く使って何が悪い。部長、しっかり練習日を確保してきてよね!」
「私は部長だけど強く言うのは苦手なので、押しの強いA子に出て欲しい」
「実はサッカー部のBくんと一緒に帰りたいから、特に役職はないけど会議には私が出たい!出るからにはがんばって練習日を確保するから」
などなど。
学生たちはそれぞれに割り当てられたキャラクターとして話し合いに臨みます。
このワークを通して学んでほしいことは
1、合意形成
2、他者理解
3、メタ認知
です。
さっそく授業でやりました。
盛り上がりました!
そして、実は当初考えていなかった副次効果がありました。

・自分の意見ではなくその役の意見だと思うと気が楽になって、いつもより安心して発言できた。
・安心して言っていい雰囲気があれば言葉がスラスラ出てくる。
・普段だとそれぞれの思惑があっても周囲の様子を見ながら誰かの意見に同調しがちだが、反対意見でも堂々と言い合えた。

学生の感想

世代の問題なのか、性別の問題なのか、地域性なのか、うちの近所の学校では高校生、短大生(特に女子)の周囲への気の遣い方はすごいです。
グループワークの時には
「自分の意見がどう思われるか心配で言えない」
「誰もなんにも言わないから勇気を出して口火を切ったけど、「アイツ調子に乗ってる」と思われている気がする」
「反対意見を言われたらショックだから言わない」
「みんなが盛り上がってる意見に異を唱えるのは申し訳ない」
などなどなど…。

でも、「キャラクターの意見だから!みんな安心してなんでも言っていいよ」(実際はもっと丁寧に説明しますが)というと、みんなちゃんと意見を言えるんです。
もしかしたら「キャラクターの意見」を隠れ蓑に、自分が普段言えないことを言えた子もいるかもしれません。
アンケートをとった結果、7割の子が「キャラクターの意見の方が言いやすかった」と言っていました。

学生たちにとって苦手意識があるグループワークでとても活発な意見のやり取りができて、安心安全な場作りにフィクションが大いに役立つと実感した次第です。

実は面白いことに、大人(特にご高齢の方)では割合が反転して「自分の意見の方が言いやすい」が8割くらいになるんです。
でも、「自分の意見がはっきりしすぎていて他者の気持ちに入りきれないところがあった。けれど、それはつまり現実でも他人の立場で物事を考えることが苦手ということとイコールだと思う。他者になりきるのが難しかったということは、自分はこれまで他者の考えを理解しようとしていなかったということに気づいた」という感想を寄せてくれた方もいて、このプログラムの効果を感じています。

さて、長い前置きでしたが、昨日の授業の振り返りです。
取り上げた題材は「新聞」。
夫が「高校の新聞部が存続の危機にあるという記事を読んだ。これ、題材にいいんじゃない?」とアドバイスをくれました。
そこで考えた設定はこちら。

S高校新聞部は創部98年目。
しかし、部員はだんだん減り現在4人だが、毎年すばらしい実績を積み重ねている。
年に2回発行され全校生徒に配られる「S高新聞」は、世界情勢から社会課題まで記事は多岐に渡り、高校生が作っているとは思えないクオリティの硬派な新聞。今年の夏は全国で最優秀賞を受賞した。
それだけに文化系部活の予算のうち新聞部の取り分がかなりあり、たった4人に高額な予算が割り当てられている現状に、他の部活動から不満が出ていた。
生徒会が全校生徒にアンケートをとったところ、S高新聞を読んでいるという生徒は全校の20%。8割の生徒が全く読まずにゴミにしているという実態が明らかになった。
その結果を受けて、生徒会から新聞部に対し以下のような提案があった。

1、全校生徒が興味を持てるような柔らかめの記事(ファッションや音楽、おいしいお店情報など)を大幅に増やしてはどうか。
2、今の方向性のまま続けたいなら読みたい生徒にだけ配る方式にし、部費を半分に。
3、この際ネット配信にしたら印刷代、紙代がかからず、部費は1/3程度ですむのでは?

しかし、新聞部は「バカな!うちの部の価値をなんだと思っているんだ!」と、真っ向から対立。
このままでは平行線なので、生徒会長が新聞部に乗り込んで説得にあたることになった。

「新聞のミライ」より

登場人物の思惑もさまざま。
「譲歩してアイデアを出しているのになぜ新聞部は歩み寄らないのか?」と思っている生徒会長。
「社会情勢に興味が持てないとは、S高生も落ちたもんだ」という新聞部部長。
「全国最優秀賞は甲子園優勝と同じだ!うちの学校にそんな部が他にあるか?実績に見合った部費で何の問題もない」
「このままだと新聞部がなくなっちゃう。いいじゃん、ネット配信でも」
などなど。
それぞれの思惑を抱きつつ、グループでは活発な対話が行われました。

さらには、新聞を読んでもらうためのさまざまなアイデアも出ました。

・印刷にこだわるなら、全員に配るのではなく校内のあちこちに貼り出してはどうか。そこにQRコードを載せてネットでも見られるようにする。
・紙にこだわっているが、ネットなら過去の記事も遡って読めたり、メリットもあるのではないか?
・新聞をしっかり読まないと答えられないクイズを出し、正解者には文化祭の割引券を配る。
・年に2回発行なら、1回目の新聞は今まで通りの硬派な記事、2回目の新聞はやわらかい記事というようにしたらどうか。

学生の意見

なるほど。おもしろいねー。

ちょうど2日前に軽井沢で新聞大会が開催されていて、地元紙にはこんな記事も載りました。

実は「そもそも新聞の価値って何?」って話もしてもらいたかったのです。

・紙の新聞で読む記事とネットで読む記事は同じか違うか
・いい新聞とはどういう新聞か
・新聞は何のためにあるのか
・伝統を守ること、新しいものを取り入れること、どちらがいいのか
                             など、など

でも、残念ながら時間がなくて、そこまでいきませんでした。
次回の授業で振り返る際に、少し触れられたらいいなと思います。

そんなわけで、この会議のワークですが、楽しくて楽しくてじゃんじゃん設定を考えたので、いろいろなバリエーションがあります。

もともとは高校の野球部向けに始めたので、野球部の価値観を揺さぶる系のものが複数あり、他には、仕事と家事育児の両立に関するとある家の家族会議、シンデレラ一家に扮して問題を話し合うもの、などなど、だんだんストックが増えてきました。

一番は野球部でやりたいんだよなぁー。
以前ある野球部でやったら部員の皆さんが「すっごく楽しかった。クラスでもやりたい!」と言ってくれました。
顧問の先生は最初「楽しかったのはよくわかりましたが、これが部活動に生かされるといいんですけどねー」と、楽しいだけじゃ意味ないよね的な感想をお持ちだったようですが、生徒の皆さんの振り返りアンケートを見たら私の想像以上にさまざまなことに気づいてくれていてびっくり!
さらには、翌日顧問の先生から「ミーティングが変わりました!痺れました」ってメールをいただいて、私としても大感激でした。
でも、それ以降野球部からは依頼がないんですよー、残念なことに。
ご興味ある野球部がありましたら、ぜひご連絡を!





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