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聞かせて、内山厳さん! 企業研修にワークショップはどう活かせますか? 

Genさんの呼び名で親しまれる内山厳さんは、企業研修、演劇、大学という3つのフィールドで活躍する、WSDを代表する講師のひとりです。「俳優×研修講師」という独自の強みを磨いてきた内山さんだからこその”場づくり”には学ぶべきところが多く、WSDではオンデマンド型、リアルタイム型のどちらにも講師として登壇いただいています。とくに企業系の受講生から人気を誇る内山さんならではのスタイルはいかにして生まれたのか、研修にワークショップを活かすとはどういうことなのか等について、改めて聞いてみました。

青山学院大学社会情報学部プロジェクト教授 G office 代表:
内山厳 Uchiyama Gen


ーワークショップデザイナーとしての内山さんの強みは、どのように培われてきたのでしょうか?

学生時代から俳優の仕事をしていた当時の私にとって、ワークショップといえば演劇ワークショップ、いわゆる演劇の勉強会を意味していました。大学卒業後、俳優の仕事に加え、縁あって研修講師の仕事も担うようになり、2つのフィールドを行ったり来たりしながら10年が経ったころ、ニューヨークとロンドンの演劇学校に留学。帰国したあたりから、自身の強みというものを改めて意識するようになっていきました。俳優の道、研修講師の道、それぞれを深めていくこともできるけれど、俳優×研修講師のシナジーこそが、内山厳という人間の強みになるのではないかと。それこそ数えきれないほど見てきた演劇教育と企業研修、そのふたつの掛け合わせを自分の専門性にできないか、ワークショップというもので焦点化できないだろうかと考えるようになったんです。

なぜそう思うようになったのかというと、演劇教育が上手な演出家は、場のつくり方がすばらしいんです。ワークショップを学習プロセスととらえて、俳優自身にシーンの解釈をまかせ、どう演じたいかを考えさせ、トライさせ、俳優同士が意見を出し合ってシーンをつくりあげられるようにサポートする。しかも俳優個人の力量に関する評価がない、安心で居心地の良い場であることを徹底するんです。それによって、俳優が萎縮せずにのびのび挑戦できる。もちろん実際の作品づくりであれば演出家が意思決定をしますが、演劇ワークショップは俳優たちが自由に意見を表明しあいながらつくりあげていく、まさに合意形成の場にほかなりませんでした。こうした演劇ワークショップのプロセスは、研修という場においても活用できる可能性があるなと思うようになったんです。

そんなタイミングでWSDを受講、修了後は苅宿先生とコラボレーションすることが増えたこともあって、より学びを深めようと大学院にも進学しました。ただそれも、ワークショップそのものを学びたいというよりは、より大きな視点での学びの提供の仕方というか、演劇教育と企業研修のシナジーの先にあるものを探求していたといえるかもしれません。

現在の仕事としては、アート的な活動や大学教員としての仕事もありますが、教育ビジネスを中心としています。人材開発における集合研修やe-learningの学習プログラムを制作・販売、自身で登壇するだけでなく、WSDの修了生を巻き込んで実施を任せるといったケースもあります。もうしばらくしたら、俳優の仕事も増やしていきたいとも思っています。

WS実践後の振り返りの様子


ー企業研修講師として、具体的にどのような研修をされていますか?

あくまで一例ですが、管理職向けのマネジメントや若手向けの成長力向上を目的とした研修等があります。こうした研修をどのようにデザインをしているかというと、知識習得の部分は、集合研修の事前事後の学習にするブレンディッドラーニングを基本にしています。具体的に言えば、該当の映像を観る、参考書籍を読むことを事前課題にしておいて、研修の入口の足並みを揃え、集合時にはインプットの時間を極力少なくするんです。集合研修をするからには、集まったからこそできることに集中するのが好ましいであろうという考え方です。

しかも知識提供みたいなことに関しては基本、私は行いません。人材開発の分野でいえば、経営学や心理学、教育学といった特定領域の専門家、いわゆるSME(Subject Matter Expert)の理論をベースに学び合おうという仕立てにします。

「私がSMEにならない」ということが大事なんです。というのも、どんなに優れた理論であったとしても、「そうはいっても、うちは違うんだよ…」という反応をする人が必ず出てくるからです。私がSMEになると、講師として目の前に立つ私に対して批判的な意見を出しづらくなってしまうことは容易に想像できます。ところが、「こういう理論があるんですが、テーブルに載せてみませんか。私はSMEではないので解を持っていませんが、この理論をベースに、みなさんにどう応用できそうか一緒に考えてみませんか?」というと、考えてみようじゃないかという気になる。もちろん私も理論を知っているという状態で、「こんなふうに話し合ってみてください。こんなアウトプットを期待しています」と手順を示し、コミュニケーションをとりやすい場をつくることに徹します。こうした学びの場づくりの専門家であることが、研修を生業とするワークショップデザイナーに求められることではないかと私はとらえています。事前課題ができない等、参加者の状況に濃淡が出ることも想定し、現場の状況にフィットしたフォローなどもワークショップデザイナーとしての腕の見せどころです。

WS実践でのフィードバックの様子

ー研修にワークショップを活かす意味はどんなところにあると考えていますか? 

あくまでワークショップがうまくいったという前提ですけれど、企業の直接的な利益に数字として直結しないインタンジブル的な効果というものは大きいと思っています。従業員のエンゲージメントが高まるとか、会社のビジョンへの理解度が深まるとか、教育の機会を好意的に受け止めるようになるとか。ナレッジマネジメントなどもついシステム的な話になりがちですが、研修内の対話のプロセスから知識創造みたいなものが起こることも珍しくありません。簡単に言えば、「そんなことをそっちの部署ではやっているんだ。ならうちでもやってみるか。」というようなことですね。研修の主たるテーマであるなしに関わらず、暗黙知が形式知化し、横展開して、会社全体としてのノウハウが蓄積していくことは大いに期待できます。

研修というとどうしても個人学習の面がありますが、組織開発面での効果を期待するのであれば、なおさらワークショップの考え方や技術が大事になってくると思っています。職場のメンバーとともに受講し、対話をするという機会は、確実に職場の活性、組織開発につながってきますから。

ただひとつ言っておかないといけないのは、研修にワークショップを活かす際には、あくまで研修という本来の目的を無視してはいけないということです。研修として大事なのは、研修前後で頭の中に変化が起こり、現場での行動へと結びつくこと。1on1、プレゼンといったコミュニケーションや機器操作のスキル、いわゆる運動技能的な研修は分かりやすいですが、そうではない知的技能の研修では、どう変化があったのかを追えるようにすることが大事です。そうでないと、「楽しかったですが、何だったんですか?」という評価になってしまうことも。ですから、研修”後”のアクティビティがすごく重要なんです。事後課題を出すとか、その後の参加者同士での対話の場を用意しておくとか、変化をクライアントに提示できるようにする、そこまでデザインすることを忘れてはならないと思っています。

ーGenさん、ありがとうございました!

(聞き手)WSD事務局スタッフ