義理歩兵自伝(7)

義理歩兵自伝(1)はこちら!

クラブでのホステス業が想定外に軌道に乗ってしまってからも
私が唯一好きだったのは、歩兵と一緒の普段の生活でした。

 
特にたまらなく好きだったのが、バイオハザードやファイナルファンタジーなどのテレビゲームと、窓割れアパートの室内改造でした。
  

窓割れアパートは二階建てのオンボロアパートで、一階はスナックになっていたため夜中までカラオケの音が止みませんでした。
このスナックは営業時間を大幅に過ぎてもカラオケで周辺に騒音被害を撒き散らしていて、それは法律に抵触するため、そして音痴なオッサンの唄う大音量の演歌がほとんど暴力に近かったため、私たちは何度かやめてくれとお願いしました。

しかしそこのママさんは、小さなお皿に残り物の崩れた煮物などを持ってきて謝罪の意を表すも、一向に事態を改善させませんでした。

そして、隣には若い男性がひとりで住んでいて、彼のアパートのドアには「さの」となぜか平仮名で書かれた紙の表札が貼られているのでした。

その「さの」の「の」に一本線を加えて「さめ」に変えた真犯人が大卒歩兵だと鋭くも気づいたからなのか、彼は私たちを猛烈に毛嫌いしていて、部屋で音楽をかけたり、大笑いしたりするだけで壁をドカドカと殴って怒りに満ちた重低音サウンドを叩きつけてくる短気な人物でした。

 
当時、健様気取りが少々行き過ぎて健全な判断力を失っていた私は、その度にカッとなって渾身の力で壁を叩き返し、そこにさめが道具を使ってさらに大きな音で壁を叩き返したりすると完全に我を失い、
「白黒はっきりさせてやらァ」などといって部屋を出ようとし、歩兵に止められたりしていました。
(※健様はこのような浅はかな行動には出ません)
 
我に返ると、着物用の極妻姐さん風のヘアセットにTシャツ短パン姿だったりして、そんな自分に、歩兵とともに呆れました。
 
 
このように、相変わらず社会不適合者ど真ん中の私でしたが、
歩兵を喜ばせたくて、ただ君の笑顔が見たくて(笑)、
部屋のレイアウトを変えて新鮮にしたり、あっと驚く部屋に変えたりするのが何よりの喜びでした。
あまりにも頭の中で空間をいじりすぎて、もうイメージの中でルービックキューブ解いてんのかい!
というくらい、目を閉じて何十通りもの家具の置換えを行っていました。
ある意味一種の瞑想でした。(笑)
この間、このあと私にとって非常に役に立つ、ある特殊な能力が磨かれていきました。

 
そうして頭をひねって作ったアイデアを形にして見せた時に、
またやったの!すげえな!面白れぇな!
などと言われるとクッソ嬉しくて、色白浮きパーマのように自分も地面から浮きそうでした。
 
 
お店を辞めたら、昼間寝て夜活動しなくてもいいんだ・・・・!
ホームセンターや東急ハンズが開いている時間に材料の調達にいけるんだ・・・!
そしてアンカーもビスもヤスリも木材も買える・・・・・
俺の大工能力、見くびんなよ・・・・!!
 
 
ニートだった頃、実は大工になろうと決心したことがあり、
本気で工務店などに電話して修行を兼ねて仕事をさせてくれないかと当たってみたのですが、すべて断られた過去がありました。
このため長年のフラストレーションが溜まっていて、ガテン系・肉体系労働への欲望がふつふつと釜の底でくすぶっていました。
 
 
お店でお客さんが増えすぎて仕事環境が異常だったこと、
お金もある程度は貯金できたこと、
将来に向かって二人だけで頑張ってみたい気持ちが抑えがたいこと、
 
ここに加え、

・「壁叩きのさめ」の横にいつまでも住んでいることはできない、いつかドンパチやっちまう
・とにかく大工能力を発揮しないと欲求不満で気が狂いそうだ

という2つのかなり個人的な理由も重なって、私はついにお店を辞める決心を固めました。
歩兵も危険を承知の上ですべてを理解してくれ、私たちはそれを店側に伝える覚悟を決めました。
 
ジュニアがっぱ社長があの界隈を縄張り下に置く裏稼業のお偉いさんとつながっており、そのコネがあるからこそ長年最高の立地で夜の商売を続けてこられたこと、もちろんJrがっぱはその売り上げのうち、それ相当のしのぎを裏上納していることは周知のことで、その売上を作っているのは他でもない私でした。

私はさめとの壁叩き抗争に決着をつけようとしている場合でもなければ
バイオハザードのゾンビ犬をナイフのみの装備で倒せないことに悩んでいる場合でもなく
 

どうやって無事にこの事態をくぐり抜けるのか、それを考えなくてはなりませんでした。
正直、ビビっておりました。
しかし、ここを通らなければ、お天道様の下での日曜大工は夢のまた夢・・・
 

数日間悩んだ結果、二人でベスト・オブ・ベストと思われる答えにたどり着きました。
 
 
それは、
「とにかく正直に言ってみんべ」
というもので、これ以外の作戦を練ることができませんでした。

 
私たちはその後、まずは浮きパーマに、そして藤岡揚げに要望を伝えました。
これで自動的に首固定と白魚長にも知られ、すみやかにボス敵であるJrがっぱにも伝わって、いよいよ事態はシリアスなものになりました。
 
 
私たちはすぐさま呼び出され、別々の離れた場所に連れて行かれました。
 

なぜ別々にする?
その必要性はどこに?
なんの目的で店から離れる??
 
移動中、疑問が吹き出しては心臓をつつき、不安を煽りました。
しかしもう、この期に及んでどうにかなるものでもない・・・
ここは武士らしく腹をくくるしかない。
好きにするがいい!
煮るなり焼くなり、コロ助なり・・・・・・・・・・
 

私たちはそれぞれ個々に事情を聴取され、
柔らかく言えば裏の掟を説明され、言い方を変えれば脅しを受けて
 

二度と都内で夜の仕事に携わらないこと、
お客さんはすべてお店に返し、二度と関わらないこと、
離れた場所で水商売をする際にも、現在のお客さんには決して連絡を取らないこと、
 
こうしたことを約束させられ、そののちに解放されました。

「これだけ稼いでいい思いをして、金の蜜の味を知って、水商売から足を洗えると思うかい。どの女もまた夜に戻る。君だってそうだ、賭けてもいいよ?どこかでまた必ず始めるから。でも君はこの界隈には戻れないし、おかくさんも切ってもらう。わかるよね、破ってもすぐに見つけるよ」
by jrがっぱ

先に解放された私は、歩兵が電話で
「別の話があるから場所を変えて付き合ってもらうと言われた、まだ戻れない」
と小声で連絡してきてから、心配で心配で心配で心配で、
家にも戻らず幹線道路脇に佇み、ムンクの叫び状態で待っていました。
 

歩兵・・・歩兵・・・!いつ戻るんだよ、歩兵・・・・・・・・!!
 
 
途中でもうたまらなくなり、こんなところでなす術もなくウダウダしているくらいなら、自分が鉄パイプでもかついで店に殴り込みに行くより他ないのでは・・・!などと本気で考え始めたとき、
 
歩兵がタクシーに乗って戻ってきました。

聞けば、なんとあの藤岡揚げが、気に入っていた歩兵との別れを惜しんで
店の事務所でサシで飲みながら話したかったとのこと・・・・
すまぬ、藤岡揚げ・・・・・・・・!涙
  
 
無事に帰ってきた歩兵を見て、
 
さあ、今夜も明日も、なんの予定もないぞ!
今から、居酒屋に行っちゃったりできるぞ?!

そう思ったときにやっと、晴れてまた、ただの無職の平民歩兵×2に、しかし+ある程度の貯金、になったことを実感し、嬉しさ解放感幸福感が一気に押し寄せてきて、もうたまらずにツイストダンスをしながら
 
歩兵!俺たちこれで自由になったよ!!好ぎなごどできるどーーーーー!!!
どうする、どうする!!やった、やったぁああーーーーー!!!!
まんず、なんだ、いきなりモツ煮込みでも食うか?!
うぉあぁあ嬉しいな~~~!!!
 
 
と言って、夜空を仰いで喜びました。
この時の気持ちは、あんまりにも星のように輝く気持ちで、今思い出しても泣けてきやす。 
  
 

このあと私たちは、世話になった窓割れアパートを去って、私の実家に一時的に引越し、心躍る小さなビジネス作りに取り掛かりました。
 

しかし、今までにも幾度も幾度も押し寄せてきた「波乱の波」は
 
このあとに津波級の大きさでやってきて私たちに襲い掛かり、
見事にすべてを飲み込んで奪っていきました。

 
2人の歩兵はモツ煮込みの湯気の中、小さな幸せを心に収めておけず、
基地作りの計画を練る小学生男子×2のようなディスカッションに夢中になりました。

このあと、この「自分史上、最低最悪だったといえる地獄のモーメント」を味わう事になるとはつゆ知らず・・・
 
 
 
つづくーー! 

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