見出し画像

『株式会社リストラ』

残業からの帰り道。

赤信号で立ち止まると、どこからか小さな声が聞こえてきた。

「あの、僕のこと分かりますか?ここです、ここ!」

見下ろすと、そこには小さなアリがいた。

「同じ部署の有井です。働きすぎて、アリになっちゃいましたよ。」

「ついに君もか。」

自分らしさを忘れた者は、人間界から追放される。

生きざまは死にざまだと聞いたことがあるが、生きざまは、次の命も決めてしまうのだ。

「先輩、空から手紙が!」

ひらひらと舞い落ちながら、手元に届けられたその手紙は、信号に照らされて真っ赤に染まっていた。

差出人は、株式会社リストラの閻魔となっている。

時が来たようだ。

「有井、この手紙を読んでみるよ。またどこかで会おうな。」

青に変わった信号を横目に、開いた手紙には、こう書かれていた。

「あなた様以外の人間は、全てリストラいたしました。こちらの世界へお戻りください、社長。」と。

#ショートショートnote杯

この記事が参加している募集

私の作品紹介