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☆本#231 人は変われる 「なぎさ」山本文緒著を読んで

2013年に著者が15年ぶりに書いたという長編。
ストーリーの主な語り手は、30代主婦の冬乃と、夫(佐々井)の部下、川崎25歳。と、モリ。連絡の途絶えていた冬乃の妹からの連絡で始まる。

この著者を知った時、直木賞受賞後に鬱になったことも知ったので、主人公が人が良くてちょっとおどおどしたタイプだとつい著者を想起してしまう。実際どんな感じかは、一度テレビで見ただけなので多分違うだろうけど。

休職中だったけど、あまり積極的に仕事を探していなかった冬乃は妹の出資でカフェを初める。妹は元漫画家で資金があった。地元を離れて以来初めて開放感を感じて、やる気も出て、少しずつ勇気を得て変わっていく主人公。いいほうに。
川崎も、ブラック企業で過労死しそうな経験や、模索・迷走しつつ、成長していく。

長編なので、山あり谷あり。
例えば、穏やかな性格の夫も過労死しそうなほど仕事が大変で、身体を壊しそうになり、ついに退職するも、鬱になりかけたり、地元の長野を離れた理由が終盤に明かされ、妹のやけどの原因となぜ疎遠だったのに来た理由もわかる。
わき役の登場人物もよくて、冬乃がメンタル弱っているとき支えてくれる人たち。近くの他人の方が心に寄り添ってくれた。

冬乃と夫は夫妻で何か仕事をしようと思う。冬乃は、カフェ経験から自分への自信がついてきていた。
なにかをやりとげるってやっぱ大事だなと思う。

地道に誠実に頑張る人がいる一方、対極の人物も登場する。
それが、モリ。どうやら妹の元カレ?彼は人の懐に飛び込むのが上手で、いいとこどりして、飽きる前に去っていく。人の家を転々として、荷物が増えたら箱にまとめて入れて捨てて、持てる範囲の量で移動する。誰とでも仲良くなれて、誰とでも深く付き合わない。
世間には、ほんとうに人との付き合いが苦手で人里離れたところに1人で暮らす人がいるけど、モリはそういうのではない。ただ飽きっぽいのだ。こういう人、一定数いそうだな。

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