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☆本#232 変わらないこと「ヴェネツィアの宿」須賀敦子著を読んで
この本を10数年前に読んだのは、自分のように海外で暮らしていた人に興味があったころ。その時は内容の面白さに惹かれたけど、今回改めて読んで著者が1929年生まれなことや、ほかにもいろいろ気付きがあった。
あとがきを読むと、この作品を「小説」らしい。
ずっとエッセイだと思っていたけど、そう言われると私小説風?
この本には12作品入っていて、表題は著者が20歳のとき、父親の入院と彼の愛人との遭遇を軸に、それを思い起こす数十年後の著者の、主に2重構造。最後の作品は、父親の死で終わる。
つまり二十歳過ぎから、父親が亡くなるまでの話。
著者がヨーロッパと深くかかわるきっかけのひとつは父親だった。
この作品にはほかも死がいくつも含まれる。結核や病気で亡くなったのが主で、著者の夫も結婚後4年で亡くなる。夫の家系は短命だった。病気で亡くなるのは、時代も大きいと思う。もしかすると今なら医療で治るかもしれないけど、著者が20~30代の1950~1960年代となると話が違う。
著者は修道会のネットワークで留学する。この宗教ネットワークってすごい。そういえば、アメリカでもアジアからの留学生のキリスト教ネットワークが印象的だった。祈りをささげるような活動はあるとはいえ、仲間の助けはありがたいと思う。とはいえ、著者がイタリアに留学した際、学校の寮の仲間の中国からの留学生がメンタルをやられてしまって、帰国することになった。今と違って、すぐ帰国できない環境だったことも大きいかもしれない。
著者の文章は描写が読みやすく、内容は人についてだからきっと古びず、読者が感じることは不変だろうと思う。
著者が翻訳以外を書き始めたのは、50代半ば以降。もっと作品を残してほしかったなと思う。
この本の表紙を見ると、天童荒太の小説を思い出す。たぶん同じ人の作品。
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