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☆本#198 家族のかたち「花の子ども」オイズル・アーヴァ・オウラヴスドッティル著

早川のサイトで見つけて、なんとなく惹かれて読んでみた。
著者はアイスランド人で、日本ではまだアイスランド作家の本はあまり翻訳されていないらしい。翻訳も、アイスランド語から英語にされたものを訳しているようだ。その場合ってなんかニュアンス変わんないのかな。

この作品は2007年ごろ発表され、アイスランドだけじゃなく、ヨーロッパでも発売され、40万部以上売り上げたらしい。

主人公22歳の男性。母と植物の世話をしていた温室での一夜の出来事で2歳年上の女性を妊娠させてしまう。けど、この女性は別に結婚を迫るわけではなく、偶然彼の母親が事故死した日に子供を産む。
そして、彼の遺伝子を継ぐ子なので子育ての手伝いは望む、状況的に。

偶然、外国で仕事をしていた彼のもとで、ふたりは子育てすることになり、恋愛に発展する。といっても、女性は大学院に行くための勉強をしているので、そこは妥協しない。家族になりたい彼と、まだそこまで望んでいない彼女は距離を置くことにする。
彼は子育てや彼女との暮らしを通じて、なんとなく精神的に成長していく感じで、料理の腕も上達していく。

中をチラッと見て、あとがき等読んで、この世界観好きかもと気付き、好きな本だとあっという間に読み終わるのがもったいなくて、途中何度も休憩をとりつつ時間をかけて読んだ。
そういう読み方でも、ついに読み終わる...。
ラストはちょっと微妙な気もするけど、この小説が現代ヨーロッパで受けたのはわかる気がした。劇的なことやミラクルなことは起こらないけど、多様で、主人公の22歳の男性は悩みながらも自分の好きなことを選び、地に足がついている感じ。そして、舞台は田舎というのもあるかもだけど、ひとりも悪人が出て来ない。母親が事故で亡くなってしまっていないので、残った父親も心配性でいい人だ。

主人公は「新しい男性像」って現地では言われたようだけど、アイスランドでは、出会い→妊娠・出産→同棲、という流れは比較的自然というかよくあるようだ。結婚してもすぐ離婚したり、ヨーロッパでは多い事実婚も多いらしい。

ちなみに、アイスランドは北海道ぐらいの大きさで、人口は47万人弱。

この作品が独特な世界観を醸し出しているのは、舞台がヨーロッパのどこかの田舎で、テクノロジー:携帯等、が出て来ず、公衆電話が出てきたりする点。大型ショッピングセンターはなく、どれも個人商店という感じ。

主人公がひとりで淡々と生きていく様はちょっとだけ村上春樹の世界っぽい。別に、アンダーワールドへ行くことはないけれど。

ラテン語では天才の主人公も、現地語はそうでもないなりに、肉屋やレストランのコックに料理を教わったり、子供服店で子供の服一式つい買っちゃったりして微笑ましい。

そもそも彼は教会の有名なバラ園再生のために雇われているんだけど、牧師との映画を通じてのやりとりもいいなと思う。

子どもの描写がとてもかわいく、本当かわからないけど、この子はどうやら他人を癒してくれる力を持っているらしい。老人の思い過ごしの可能性が高いけど、存在がある意味プラセボ効果的か?
ちなみに、著者も大学院か博士課程のころ子育てしていたらしい。

原題は、「挿し穂」、「特定の場所に続く脇道」という意味。どちらも内容にリンクしている気がする。「花の子ども」とはえらく違うタイトルけど、表紙を見ると確かにこっちのほうがいいような。どういう経緯で決まったんだろう。
ちなみに、英語版では「greenhouse」だった。これも大事なキーワードではあるけど、微妙な気も...。

最後にプチ知識。
アイスランド人の名前は長く発音が難しく、名前だけで性別が判断しづらいと思ったら、ファミリーネームの代わりに、両親どちらかの名前にドッティルかソンをつけ、前者なら娘なので女性、後者なら息子なので男性という意味。
この著者も女性ということがわかる。

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