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☆本#89 記憶が消えていく不思議な島「密やかな結晶」小川洋子著を読んで

この小説は、ざっくりいうと「記憶狩りによって、物や思い出だけでなく、本人の消滅も静かに進む」島の物語。筒井康隆の「残像に口紅を」を想起したけど、こっちは言葉がなくなっていく話(だったと思う)。なので、ジャンル的には同系でも、世界が違う。

と思ったら、「残像~」のほうはwikipediaのほうによるとSFだった。ので、同系ではないのかな。

ちなみに、「残像~」ほうの読後感は、言葉がなくなっていく話自体が斬新で、こういうのが書けるなんてすごい、ラストも完璧という感じだった。

けど、「密やかな~」のほうは、まず独特の世界観が印象的だった。村上春樹の小説で出てくる違う世界の中の感じ。

楽しみも、悲しみも、人とのかかわりも別れも、感情の起伏が激しくなくゆるやかな印象で、自然に本の世界に入り込めて物語自体を楽しめた。
とはいえ、脳出血でおじいさんがなくなるシーンはさすがに悲しい気持ちになった。

もしかして、主人公の悲しみの深さと比例しているのかもしれない。

主人公は記憶がなくなっていくこと、身体の一部が消滅することを淡々と受入れ、最期までも受け入れる。

そして、主人公が匿っていた「記憶が消えない」ひとが外にでるところで物語は終わる。

その先に希望が持てる。


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