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☆本#188 奔放で純愛「ナニカアル」桐野夏生著を読んで

林芙美子の本はいつか読みたいと思いつつまだ読めていない。この作品はその林芙美子が主人公の評伝。姪が最初と最後の語り手で、中間部分は林芙美子自身が語り手で話が進む。

39歳で戦地に赴いた林芙美子は、新聞社の特派員と恋をし、色々事情もあって(ダブル不倫だし)別れることになる。けど孕っていて、子供が欲しかったので産むことを決意。母親以外には内緒で、公的には孤児を養子にしたことにする。

が、自身は47歳ぐらいで早逝し、その後子どもも事故で亡くなる。

育てていた子供は実は実子だったということを姪は林芙美子の夫で、後に自分の夫の死後知る…。
文中で度々「作家の書くものは残る」という表現が出て来て、林芙美子としては子供の父親との関係はひた隠しにしたかったようだけど、亡くなった後でこういうのを書かれてしまうのは人気作家故か。

この本での相手はリアルでも恋人と噂されていた男性だった。7歳年下で、海外にいた時期や戦後新聞社を退職した。この小説でも同じ設定。

林芙美子は1903年生まれ。篠田桃紅より10歳年上。けど、その半分も生きてない。この小説では、一家の大黒柱として働きまくって、恋に生きた。どうやら夫も浮気には目をつぶっていたようだ。稼ぎ手が妻というのもあるのかな。

この本の林芙美子は思ったよりフェミニンな人で、著者の「顔に降りかかる雨」の主人公を思い出した。この女性は探偵だけれど、タフなタイプではなかった。この本で描かれる林芙美子は恋多き女。奔放だけどちょっと違う描き方をしている。恋に溺れても、決別に涙しても後に引かない潔さがあった。

さて、林芙美子自身の代表作「放浪記」を読もうかな、という気分になった。ついに。

この小説も長編だけど、「密林の夢」より100ページ以上少なく、会話が多いので読みやすかった。

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