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ボーダーラインを進め

シカゴの春が不安定すぎる。4月、気温が25度近くにのぼった上旬。夏じゃん、つい数日前まで真冬だったのに!と大慌てで衣替えをしたら、翌週には雪がちらちらと降った。もう。うちに巣を作っていた鳥たちもさぞかしびっくり。

冬と春、夏の境界線があいまいなまま、気付けば5月になっていた。年明けからここまでの記憶はひどく朧げで「慌ただしかった」というおおざっぱな感想しかない。何をしていたんだっけ。そうそう、ハイライトは長男の発達に関することだった。

あれ?この手がかかり過ぎる様子はもしや?と疑い始め、書籍やWeb記事に目を通し、うっすら確信をつかんで、学校の先生に面談で話したのは、まだ雪に凍える真冬だった。

その後、病院で初診を受けた。担任、副担任、私たち親がレビュー(行動アンケート)を記入し、それぞれの項目を集計した結果、医師が見解のもと診察を行う。

診断の結果「彼は、ボーダーライン上にいる」らしかった。ボーダーライン。たとえば、10段階として7以上なら該当する中で、彼は6.5〜7.5だという。そう聞いた瞬間、以上や以下はその数字を含み、未満は含まない、と遥か昔に混乱しながら覚えたルールが頭に浮かんだ。

医師はギリシャ出身の女性。長男は人見知りゆえにひそひそ話ぐらいの声で質問に答えていたのだが、そんな彼にグイグイ迫っていて頼もしかった。

日本語の学校も行っているんだってね、私もギリシャ語の学校に通ったのよ、当時は本当にいやだったけれど、今は行ってよかったと思ってる。だからあなたもがんばるのよ!ほら、おっきな声でね!背中バシッ!!実際は英語なので雰囲気。

明るい励ましに親が救われる。元気だいじ。


最近の長男は、学校から戻るや否や「いってきまーす!」と出ていく。同じ敷地に住むクラスメイトと遊ぶためだ。ランドセルをポイッと玄関先に投げる小学生のイメージそのもの。

雨のときはよくあちらのお宅へお邪魔しているので、ある日、今度はうちに連れてきたらと提案した。息子は首をよこに振って、ちょっとだけ気まずそうに拒否した。

「だって、ちがうラングエッジしゃべってると、ともだちからヘンっていわれるかもしれないよ」

彼は、学校では英語、家では日本語を使う。私と会話するときに日本語を喋っているのを聞かれると、友達におかしいと思われそうと気にしているらしい。

そういえば一年ぐらい前にも、お弁当におにぎりや卵焼きを入れないでと言われたことがあった。彼が現地で通う学校には、日本人がいない。周囲が持ってきている"ランチBOX"と自分のお弁当が違うことに気付いたようだ。

別に人と違ってもいいじゃん、おにぎりに誇りを持つべし!とも思うけれど。国が違っても子ども心ってやつは同じなのだろう。デリケートなお年頃。それ以降、彼のお弁当はランチBOXへと変化し、ピーナッツバターのサンドイッチにチキンナゲット、フルーツ、チーズといったアメリカンな顔ぶれになった。

息子はサンフランシスコ郊外で生まれたので、日本人でもあり、アメリカ人でもある。彼の中で共存する二つの国籍、文化。そこにハッキリした境界線はない。みんなと同じがいい。でも日本はだいすき。小さな体の中で、自分なりに折り合いをつけながら生きているのかなぁと思う。


今回、彼の発達系の問題に関して診断を受けようと思ったのは、ただ「知る」ためだった。知りさえすれば、できることが増える。結果、ボーダーライン上。いわゆるグレーなのか?でもホワイトではないので、つまりそういうこと。

ボーダーラインを行ったり来たりする苦労はあるだろうけれど、彼らしくのびのびと歩めますように。

来月にはふたたび国境も越える予定。今から「ジャパンいついくの?」と指折り数えるぐらいには待ちわびている。それはきっと、昨年の滞在が楽しかった証。彼にとっては、アメリカも日本も故郷なのだ。

うん、楽しみだね。でも、日本の細い公道を突発的に走り抜けるのだけは気をつけてほしいよ。今週、シカゴの気温は20度を超える。ようやく安定してきたみたい。夏の本番はもう、すぐそこ。

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