見出し画像

勇敢な戦士たちの「強さ」を育むもの

子どもを育てることは、もう一度自分の人生をなぞることだと、誰かが言っているのを見かけた。ツイートだったか本だったか忘れたけど、私は日本で生まれ育ち、子どもをアメリカで産み育てているので、この言葉を見かけた当時はあんまりピンときていなかった。

けれど、これがそうなのかと最近は理解しつつある。私の日常にふたたびドラゴンボールが帰ってきたからだ。

ある日のこと。Amazonプライムに「ドラゴンボール改」という文字を見つけた。わぁ、懐かしい!と思ったのと同時に「改?って何だ?」と疑問が湧く。どれどれと興味本位で観始めたところ、そのまま沼へと入ってしまった。私以上に、長男が。

「ドラゴンボール改」とは1989年 〜1996に放送された「ドラゴンボールZ」のデジタルリマスター作品のこと。当時は連載と同時進行でアニメが放送されていたため、原作に追いつかないように回想やアニメ独自のエピソードが加わっていた。再編入にあたり削ぎ落とされ、原作により近い形になっているとのこと。展開がはやい。

悟空たちが闘う姿に吸い込まれる長男。「ドラゴンボール改」はラディッツの襲来から始まり、ナッパ&ベジータ、フリーザ、さらにはスーパーサイヤ人への覚醒と黄金期が続く。かっこいい悟空の子ども時代の話もあると知るや否や、彼は「ぜんぶ最初から観る!」と張り切ったのだった。ブルマとの出会いに巻き戻し。

そんな経緯を経て、長男は清々しいほどドラゴンボールにハマっている。次男もしっかりつられ、二人分のエネルギーが爆発している形だ。

フィギュア…ならぬ、紙ギュア(印刷して切り抜いたキャラクター)で遊んだり

自分でストーリー付きの絵本を生み出したり

全問正解するのが鬼難しいクイズを作ったり

リュックにつけていたはずのピッコロ(のキーホルダー)が消えて運命を案じたり

日本語補習校で単行本を借りてきたり

日系スーパーで買えるキラキラカードを集めたり

ハロウィンのコスチュームで悟空になったり

私もクリスマスにおもちゃの如意棒を買ってもらったドラゴンボール好きの少女だったので、見ていてとても楽しい。世代を超えて同じ好きを共有できる愉快さ。

ただ原作やアニメを楽しんでいただけの私よりも、長男のほうがずっと深く影響を受けた様子。湧き上がる気持ちを抑えきれなくなったのか、彼はこう言ったのだった。

「ぼくも、つよくなりたい。」


空手かテコンドーなら近所で習えそうだよ、と話したところ「やる!」と即決。さっそく見学へ。型に重きを置く空手、実践も多いテコンドー。迷った末に後者へ通い出した。

空手教室で体験クラス(左が長男)


週1回で始めたところ、もっと通いたいと言う。家では「修行」と称して腹筋、腕立て、逆立ち、後ろ回りと大変騒々しい。ただでさえ激しかったパワーが増し増し。スーパーサイヤ人…もといスーパーアメリカンジャパニーズボーイ(長い)。

そんなドラゴンボール、何がすごいって、私の小中学校期にあれだけ一世風靡しておきながら、現在もまだ進化している点だ。思春期に入るにつれ途中で見失ってしまった私には、履修しないといけないエピソードや映画がいっぱいある。

2024年には原作40周年記念の新シリーズが始まると発表があった。ティザー映像公開。昔からのファンはオープニング部分で心が震えると思う。


息子たちに付き合ううち、私にも熱が伝播し始めている。ドラゴンボールのコンテンツは子どもにも大人にも学びがいっぱいなのだ。

敗北という名のエネルギー

サイヤ人は、瀕死状態に陥るたびに戦闘能力が上がるという性質を持っている。闘いに挑み、めっためたにされ、絶望の淵から這い上がる度にどんどん強くなっていく。また、クリリンやピッコロなど地球の戦士たちも、どれだけ痛い目に遭っても、また修行を積み重ねてパワーアップする。

ドラゴンボールではお馴染みの光景だし、サイヤ人に関してもただの設定としてスルーしがちなのだが、この点を華麗にメッセージへと昇華させた主題歌アーティストがいた。


よ、よ、吉井さん〜!!!主題歌やってたんですか!と初めて知ったときは驚いてしまった。ドラゴンボールの世界観と到底交わりそうにないタキシードとカジノ…?待って、どういうコンセプト?こんなセクシーな「かめはめ波」を世の中に放っていいのだろうか(※2分10秒)。

人や物事の見えざる本質に切り込む詞&ポップとロックとダークを綯交ぜにしたメロディから生み出される吉井ワールド。「何時か途切れた夢の続き始めよう」という出だしからすでに涙腺ひれ伏し状態なのだが、サビに切れ味鋭く登場する歌詞が心に響く。

負けると強くなる

超絶☆ダイナミック!/吉井和哉


深い。これだけ歴史が長く愛されたコンテンツとのタイアップとなれば、どこをどの角度で切り取るかが物凄く問われると察するのだけど、そんな中で吉井先輩はここを抽出するんだ!!!と勝手に熱くなってしまった。なんて端的かつ鮮やかなフレーズなのだろう。

これはきっと、ドラゴンボールの世界を歌っていながら、私たちへのメッセージでもあるのだ。敗北がただの挫折になるのか、もしくは糧になるのかは、ぜんぶ自分次第。だって、それを活かすことができれば、次の勝負では以前よりずっと強くなっているはずなのだから。前述のフレーズ後、歌はこう続く。

身ノ程知ラズには 後悔とか限界とか無いもん

超絶☆ダイナミック!/吉井和哉


ドラゴンボールでは、悟空もベジータもピッコロも、そんな彼らにつられて周りも、「こりゃ勝てねぇ」と思う相手にも全力で立ち向かっていく。彼らに倣って、我々ももっと身ノ程知ラズになってはどうだろうか。息子たちにも、どんどん大きな夢を持ってほしいと思う。

誇り高き者が抱える孤独

再視聴するまで、私はずっとピッコロ推しだったし、今もそうなのだけど(悟飯への父性が大好物)、大人になってから観ると、ベジータが気になってしょうがない。孤独でプライドが高く、自分や周囲への妥協を一切許さないエリート戦士。しかし、彼がどんなに努力を重ねようとも、悟空=カカロットがいつも先をいってしまう。

悟空もベジータも強くなりたい志は同じにも関わらず「俺が宇宙一の戦士だ」「カカロットに負けてたまるか」をモチベーションとするベジータが、「戦うこと自体にワクワクする」「仲間や地球を守るために」が行動起源の悟空にどうしても敵わないことに、真理を見せられているような気がしてくる。

ベジータはとにかく一番にこだわった。頂点を目指すことが生き方そのものであり、誇り高き戦士としての宿命だからだ。それゆえに魔人ブウと闘うエピソードの中で、悟空がどうして強いのかを悟り、ついにNO.1だと認めるくだりには泣ける。

だけど、ベジータには、ベジータにしかない孤高の輝きがあるのだ。一匹狼な彼も、ブルマやトランクスといった家族ができたり、新たな敵を迎え撃つため地球の戦士たちとも結束したり、だんだん人情味が出てくる。しかし、ベジータの根っこは変わらない。他人には非情で冷酷、その分だけ自分にも厳しい。

そんな彼だからファンが多いのだし、うちの長男が一番好きなキャラクターもベジータだ。どうして?と訊くと「だって強いもん!」と言う。それなら悟空のほうが強いのに。私は息子が、ベジータの戦闘力以外の強さにも惹かれている気がしてならない。

自分が描いたような一番にはなれないかもしれないが、ブレずに高みを目指し、努力したからこそ悔しがり、それでも決して諦めない姿は、多くの人を魅了する。それはやがて応援の声となり、今度は自らが勇気をもらう。どうか、君は君らしさを貫いてくれ。誇り高い生き様を見せつけてほしいんだ。誰目線。

魅力的なキャラクターもぐっとくる主題歌もまだまだ言及したいのに一つずつ語っただけでボリューム満点になってしまった。広く、深く。昔に感じたことと違う視点を持てるのは、大人になってコンテンツと再会する醍醐味だ。

次男作:悟空はどれでしょう?クイズ


ただし、やたらと深読みしたがるのは大人の悪い癖でもある。強いから好き、かっこいいから好き、とシンプルに目を輝かせる子どもたちの邪魔をしないように心がけねばと思う。

日々、学校から帰ってくるとドラゴンボール推し活に励んでいる長男。そんな彼に、なにげない日の会話で訊いてみた。

「長男くんさ、大人になったら何になりたいとかあるの?別になくてもいいんだけど」

すると、彼は間髪入れずにこう答えた。

「くろおびになる」


いいね。真っ直ぐだ。その過程ではたくさん負けたり悔しかったりするのだろうけど、記憶の中にある勇敢な戦士たちが、彼の夢を支えてくれるといいなと願う。

この記事が参加している募集

子どもの成長記録

私の推しキャラ

最後まで読んでいただいてありがとうございます。これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。