なぜ私はネコが嫌いになったのか
実家は住宅街にある一軒家で、庭はバドミントンができるほどの広さがあった。子供の頃はその庭で犬を飼っていた。今と違って昭和時代の犬はたいがい庭で飼われていたものだ。
近所にも何匹か庭で飼われている犬がいて、不審な人物がうろついたりしていると一斉に吠えて退治してくれていた。
ペットというよりもガードマン的相棒という立ち位置にいたのが昭和の犬たちである。
もちろんそんな中でも小型犬たちは愛玩犬として室内で飼われ、庭犬とは別の扱いを受けていた。どちらかというとネコ的な。
回覧板を持って行くと玄関先まで猛スピードで飛び出してきてワチャワチャしながら執拗に吠えまくる室内犬たち。
ネコを飼っているお宅に訪問してもネコは姿すら見せないが、室内でネコ的な扱いで飼われている犬はグイグイ前へ出てきて騒ぐ。
そこが犬とネコの大きな違い。
そう、ネコは無駄に騒いだり吠えたりしない。。。
な~んて言ってるそこのあなた!チッチッチッチッ。分かってないねぇ。
私が子供の頃、近所にはたくさんの野良ネコがいた。普段は高い場所やどこかの隙間に隠れて姿を見せることはほとんどないが、気配は確かにする。ミャーとかシャーとかミューンとか、ネコらしい声がどこからともなく聞こえてくることがたまにあるから分かるのだ。
確かにネコはいる。
夕暮れの帰り道、目の前を素早くサッと横切るネコを何度も見ているし、公園の草むらでばったりと遭遇することもあった。
そんな普段は忍者のように忍び隠れて生活をしている野良ネコたちが、夜更けにおぞましいほどの雄叫びを上げて盛大に騒ぎだすことがある。
発情期かなんだかは分からないけれど、結構頻繁に何度もそんなことがあったのを覚えている。
子供だった私はその人間の赤ちゃんにも似たビャー!とかギャー!とかいう声が恐ろしくてたまらなかった。
普段は犬を飼っているウチに近寄らないネコたちが、その時ばかりは堂々と集団で押し寄せてきて我がもの顔で庭を占領する。最初は吠えていた犬たちも、ネコたちのパワーに押し切られて早々に退散してしまうほどだった。
阿鼻叫喚。。。とでも言いましょうか。
この世のものとは思えない雄叫びが夜の闇に響き渡る恐ろしさたるや。ところどころでバタンッ!ガンッ!カシャーン!と何かがぶつかったり壊れたりする物音がするのも恐怖をあおる効果に繋がっていたと思う。
そんな恐ろしく眠れぬ夜を何度も体験した私はネコが嫌いになった。いや、嫌いというより、怖くて恐ろしくなった。
ある日、学校でクラスメイトがカバンからネコのエサを取り出して見せてくれた。登下校時に遭遇する野良ネコたちにあげているのだと言う。
ネコなんてあんな恐ろしい動物を餌付けしているのか!と開いた口が塞がらない私の表情なんてお構いなしに、そのクラスメイトはネコがどれほど愛らしくかわいい動物で、野良ネコはかわいそうな存在なのだと力説したが、私の耳には届かない。
野良ネコを救出して保護する訳でなく、ただエサをやることに何の意味があるのだろうか?
エサを与えられた野良ネコは我がもの顔で縄張りを広げ、発情し、ギャーギャー騒いで人々を恐怖のずん底へと突き落とす。そして繁殖し、勢力を拡大して更に発情し。。。エンドレス地獄とはこのことではないか!
そこまで妄想した時点でハタと気がついた。ただかわいそうだからと後先考えずに無責任にエサをやり続ける人間の狂気に。
お腹を空かせて泣いているネコを助けるためにエサをあげる、一見良い行いに思えるが、それって無責任すぎないか?
なぜそこにネコがいるのか、なぜそのネコはお腹を空かせて泣いているのか、その構図を理解しないと何も解決しないではないか。
そう考えると、私が怖がっていたあの近所の野良ネコたちは、実は人間の無責任さとエゴの被害者だったのかもしれないと感じ始めた。
だって野良ネコって言っても原始時代じゃあるまいし、彼らが根っからの野生ネコであるはずがない。何らかの理由で捨てられたり迷子になったネコたちが野良になって繁殖しただけのことだ。
アフリカ出身の知人で体格の良い男性がいる。彼は犬が怖くてたまらないと言い、フワフワのポメラニアンが前方からチョコチョコ歩いてきただけで身の毛がよだつと言う。
聞くと、彼の地元には野犬が多く、噛まれて死亡する人もいるのだそうだ。野生化した犬は狡猾で凶暴、衛生面でもよろしい状態にあらず、人間に病気を移すこともあるのだと彼は言っていた。
結局、人間の作り上げた今のこの社会で動物たちと平和に共存するためには、人間主導の管理体制が必要不可欠なのだ。
目の前で震えて泣いているネコにエサをやることで急場はしのげ、かわいそうなネコを助けた達成感に満たされるかもしれないが、実際は状況を悪化させているのかもしれないということに気づけない、そんな人間の思考と行動が怖いと私は思っている。
友達が家で飼っているネコたちは、どう転がって見ても穏やかな顔をして幸せそうにゴロゴロしている。それが昔私が恐怖におののいていたあの野良ネコと同種の動物だなんて全く信じられない。
友達の飼いネコたちをよく見ていると、みんな個性があってかわいらしい。
ネコってかわいいじゃん。
私が嫌いだったのはネコではない。かわいいはずのネコを野良で増やし続けた無責任で無知な人間たちの方だったんだ。
最近では保護活動が活発化しており、避妊手術を施して地域ネコとして世話をしたりすることもあると聞く。
暴れて傷ついたり恐れて牙を剥いたりすることなく、のんびりまったりと日向でゴロゴロしていられるのなら、人間にとってもネコにとってもそれがよっぽど安全で幸せな生活だと思うのだが。。。
無責任な餌付けで野良ネコを増やすのはやめませんか?
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