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洞窟の影 #16

風は今日の出来事で必要ない事を洗い流してくれていた。部活の夢、数学のテスト、夢野や村上との会話。今日を振り返るとセリフのある出番が日に日に少なくなっていくことに僕は気が付いていた。また真新しい経験もなく、いつぞやの過去を何回も繰り返しているかもしれないという虚無感もずっと傍にいた。熱くもなく寒くもない今の気候は僕の年単位での時間感覚を狂わせ、常に自分の存在自体がどうしようもなく気掛かりだった。それでも風は吹き続ける。最初に大きく漕ぎ出した余力でもはや足を動かさなくなっても前進した。打ち付ける風は僕の体の形に瞬時に変形し、必要ない出来事を事務的にどんどん削って来る。あまりの風量に驚き、空っぽになってしまう事を極度に恐れ、在りものを手あたり次第かき集め何とか身を守った。自転車の速度が落ちるにつれ、風もだんだん弱まり、腕の中に残ったものを恐る恐る確認するとそこにはいつ手に入れたかも分からない硬くてごつごつした石の様ものがあった。見た目ほど重さはなく、表面もコーティングされたかのようにつるつるしていた。その固体は動きだしたり、光ったりすることはなく一見ガラクタの様にも見受けられたが僕はすぐに魅了された。得体のしれないこの固体でただ一つ確かに言えることは少し古い印象を与える事ぐらいであった。また、どこかで必ず見たことがあるその物体は僕の動きとは全くシンクロせず自分勝手に動いていることもなんとなく分かった。

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