『資本とイデオロギー』は二重螺旋、鬼才ピケティをバンド・デシネで解く
近代社会において、搾取されているのは誰なのか?
本来、資本と権力は別物だ。たとえ莫大な資本を持つ者であっても、必ずしも権力、すなわち支配権を掌握できるとは限らない。経済的に豊かであっても、その人が政治や社会の中で決定的な影響力を持てるかどうかは別の話だ。実際に、資本家といえども、多数派である一般大衆の声には勝てないこともある。資本があっても、それが直接的に支配権に結びつくわけではない。
歴史は語る、『資本とイデオロギー』は螺旋となって、捻じれつづける。
財産を持つ者、つまり資本家が、長い間、さまざまな手段を通じて人々を制御してきた。資本を背景に、時には政治的な権力と結託し、大衆を支配する構造が築かれてきた。王侯貴族や大地主、そして近代における企業家たちは、財産を武器に、社会の舵取りをしてきた。資本は単なる経済的な力ではなく、時として社会全体に対する支配の道具として機能する。
こうした歴史の中で、持つ者と持たざる者の間に軋轢が生じるのは避けられない。資本を持たない労働者や貧困層は、自分たちが搾取されていると感じ、不満を募らせる。そして、この不満が高まり、社会的な対立が激化する。
やがてそれは単なる経済問題ではなく、イデオロギー的な闘争へと発展する。
共産主義や社会主義、そして資本主義、これら思想は、資本と権力の分断に起因して生まれたものだ。持つ者と持たざる者の対立は、単なる経済格差ではなく、社会の在り方そのものを揺るがす根本的な問題へとつながる。
世の中は不平等だ。
では、誰が、どのくらいに、不平等なのか?
鈍器なほどに厚く立ちはだかる『資本とイデオロギー』
ピケティさんによる原著翻訳版『資本とイデオロギー』は1,095ページ。
※ 931ページ+原注164ページ
なんと千ページ越え。国語辞典並みに巨大な本です。
わたくし、『21世紀の資本』(みすず書房,2014)すら読んでません。
で済ませていたくらいです。
ピケティさんは、一時期ブームになりました。その結果、「アフター・ピケティ」パラダイムでは、その言説は一定以上の知識層において既に共通言語として定着しています。
ピケティさんは天才すぎなんです。書きすぎていまいます。
ピケティさんの思考過程は、凡才のわたしには、あまりにも広大で、長大すぎる記述から、その本質を理解するのは容易ではありません。
トマ・ピケティ『平等についての小さな歴史』みすず書房,2024/9/19
ピケティさんの3000ページの達成を250ページに凝縮!
となる、ピケティさん自らの言葉で書かれた濃縮再構築版が出版されるくらいですから。
でもバンド・デシネ『資本とイデオロギー』があるんだよ。
急に興味がわきました。
バンド・デシネ(Bande Dessinée)とは
A4サイズの大判オールカラー、(少人数、ほとんどが一人での)書き下ろし作品が主流。
フランス語圏では芸術ジャンルとして認知されており、「第9の芸術」とも称される。
値段は日本のマンガに比べて高価であり、画集のように長期間、何度も、読み返すことが一般的。
たとえ、バンド・デシネ『資本とイデオロギー』であっても、原著翻訳版『資本とイデオロギー』から情報量に減少していたとしても、最後までたどり着くことには意義があります。
バンド・デシネ『資本とイデオロギー』でも挫折しそう。
密度が濃い。読み切るのに10日以上かかりました。
原著翻訳版『資本とイデオロギー』は、論説形式でノンフィクション、いわば巨大な論文として書かれており、その記述は物語ではありません。
バンド・デシネでは、ある仏貴族であるゲラン家の8世代、250年間の歴史が物語として描かれています。各時代で、彼らは『資本とイデオロギー』に揺れる激動の時勢に翻弄されていきます。
読みどころは、1968以降の現代です。バンド・デシネ『資本とイデオロギー』では、「資本」という言葉が登場するのは中盤から、「イデオロギー」は後半になってから現れます。はじめは累進課税制度が導入される際の対立が描かれます。
『資本とイデオロギー』の螺旋が複雑に絡み合い、イデオロギーが資本を凌駕し始める時代の激流を担うのは、2010年に生きるゲラン家の末裔 レラ です。
レアはフランスからアメリカYale大学へ留学(政治学専攻?)。その後、ノマドにソロライフに生きます。アイコン的な生き方を体現するレアの時代が、最も多くのページを割かれています。
そして、最後の章で、ピケティさんからの提案が綴られます。この部分は原著翻訳版『資本とイデオロギー』の第17章にあたります。
たとえば、
25歳を迎えたすべての若者に対して、一律に給付金(数百万円相当?)を支給する。
民主的な平等性バウチャー
事前に知っておくと、バンド・デシネ『資本とイデオロギー』をスムーズに読める用語
ピケティさんの著書は、経済理論の本ではありません。
経済学は大きく理論研究と実証分析に分類されます。ピケティさんは特に実証分析の分野に注力しています。独自の視点から実証分析を行うことで、新たな「旧来の世の中」を発見しています。そして、その「旧来の世の中」で明らかになった不平等の仕組みを、現代の知恵をもって改善できるのではないかという挑戦について考察しています。
経済理論の書籍ではないので、理論の解説は別の専門書に委ねられている傾向があります。とはいっても、すくなくとも、バンド・デシネ『資本とイデオロギー』では、経済学の概念が本の中で説明されています。もちろん、その説明は「頭が良い・わかりやすい」です。ただし、
後半に出てくるこの2ワードは、この本には珍しく、いまいちぴんとこない説明でした。 こんな難解な言葉を2〜3コマで説明するのはそもそも不可能ですけど。
バンド・デシネ『資本とイデオロギー』を読み終えた後で、原著翻訳版『資本とイデオロギー』の第17章に目を通すと、内容が一層クリアに理解できるでしょう。
50ページほどです。挫折もしません。
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