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『アドベント19』 / #パルプアドベントカレンダー2019

この作品は上記世界の物語です。

「相変わらず他では見ないくらい混んでるね」
「そうだな。普通、ダンジョンで人を避けて動くとか並んでモンスターを待つなんて有り得ないものな」
超大規模VRゲーム【BlackGate】内、プレイヤー街【フィフスノート】。冒険者《エクスプローラー》でごった返す一画を、僕と黒川さんは歩いていた。
有志で運営される大型プライベートヴァース上に築かれた、紛うことなき【街】は、素晴らしき日本の心を体現しており……店舗オブジェクトを取って付けたようなクリスマス飾りで煌めかせ、きっと25日を過ぎれば正月飾りにコロッと衣替えするのだろう。

「デジタルデータなのだから、やろうと思えばその辺は一発で変わるんじゃないか? と、思うに、あれはもしや高度な”そういうの”の模倣なんじゃ……」
「いや……それはどうなんだろう。完全に否定できるものでもないけど、違う気がする」
妙に穿った考察に控えめな異を唱えながら、僕たちは人の波をかき分け商店の並ぶ小路を進む。
黒川さん……黒川まつり。大学の同輩。現実と同様の小柄な体躯をタイトなボディスーツで包み、オーバーサイズ気味の白衣を羽織っている。一方頭一個半程高い僕は、特殊繊維のボディアーマーとカーキのパンツで、短めの丈のクロークを装備していた。
黒川さんが、なにか目ぼしい物を見つけたのか足を止めた。

「そういえば研究進んでるの? あ、これかわいいね」
「その気晴らしにここにきたんだ。大学なんて暇つぶしに入っただけなのに、規則を組み替えてまで即研究室入りさせられるとか聞いてないぞ……」
店頭に並んでいた幾何学模様風の猫のイヤリングを見ながら、黒川さんがぼやく。この一帯ではユーザーメイドの装飾用アクセサリー、特殊効果アイテム、果ては服や髪型テンプレートまでもが扱われている。現実とは違いシステムで強行的な所有権が設定されているため万引のしようがなく、却って好き勝手に触れるし見られるのは魅力だ。

「そりゃあ……最年少で機械工学のブラックテクノロジーを解析したコが入学してきたら、放っとくバカはいないよ」
「ううむ……そんなものか」
今度はリアル風の猫イヤリングを見ながら、開校以来の天才こと黒川さんは唸り声を上げる。
「まあ……その御蔭で僕ら出会えたんだからいいんじゃない?」
そんなちょっと恥ずかしいセリフを吐けるのも、この仮想の身体あってこそ。
「ん? なんか言ったか?」
そう僕が思ったのと、黒川さんが僕に聞き返したのと、漆黒のサンタが現れたのは、ほぼ同時だった。

「ヒャッハァ! リア充はジェノサイドだー!」
「殺せ! 奪え!」
「嫉妬の炎を喰らえ! コード・ケルビン。投射7!」
突然現れた漆黒のサンタクロース衣装の軍団。その一人が放った灼熱の先制弾が、僕の隣に居た名も無き変身ヒーロー型冒険者を焼き尽くした。

『アー、テステス。毎年恒例、もてねえブラックサンタどもの襲撃です。面白いのでPvP許可します。サンタを倒したらポイント進呈。全損には気をつけて! あ、サンタ側に付く場合は衣替えしてランダムスポーンさせるからステータス画面から申請してね』
それに遅れて管理者アナウンスが響き渡る。うん、さては管理者は輪をかけて頭どうかしてるな?

「また今年もクリスマス中止の季節か……何年活動してんだあいつら」
「ていうかおれらもそこまでリア充じゃねえんだけど……けど……」
「ここリアルじゃねえわよ!!!」
「迎撃。迎撃」
「まだクリスマス一週前だしな」
そうぼやきながら、周囲の冒険者達が手に手に武器を構える。長剣、光線銃、ヌンチャク、ぬいぐるみ、拳。
「「「カップルは殲滅だーーー!」」」
「男女並んでりゃ付き合ってると思うなよバカ共!!!」
そして、戦端は開かれた。

冒険者たちの行動は二つに別れる。前に行ってサンタを近距離でぶっ叩くか、後ろに行ってサンタに遠距離でぶっ叩くかだ。二つに別れてなかった。
「行けェ! プーちゃん17世。アタシらの静寂を乱す者を電子的ミンチに変えてやりなさい!」
「笑止! ぬいぐるみの一撃などこの鍛え抜かれた鋼の肉体、詳しくは今日のために皆で誂えた漆黒のブラックサンタ・クロースの前にむりょ……へぶし!」
調子に乗っていた最前線のサンタが豪腕に貫かれ、塵と消えた。
見たところ本当にあのブラックサンタ・クロースなる衣装装備は高級品だ。しかし残念なことに、PvP設定でそのハイスペックさや追加効果は平準化され、服としては硬い。極めて動きやすく行動やスキル発動を妨げない。漆黒。くらいに留まっているのだろう。
ホリゾンタルスラッシュ! だがその柔らかさは我らもお前らも同じ!」
しかしながらその設定はこちら側にも同様の効果を表し、抜身の片手剣を普通に構えたサンタが、容赦なく横一文字に別の冒険者をぶった切る。デジタルデータじゃなければ大惨事だ。しかもそうしてる間にも、どやどやとブラックサンタのログインは増え続けている。

「やばいな、テンション上がってるのか積極的に特攻仕掛けてき始めたぞ」
「数の多さを笠に着てるのと、このためにロストして困るものは置いてきてるからだろう」
あちこちで剣戟と爆発音と悲鳴と笑い声が聞こえる。両勢力がマダラに入り混じった乱戦になってきているのだ。
その中で僕はハンドキャノンをくるくると回転させながら連続で銃撃し、どっかと座り込んでタブレット端末とにらめっこする黒川さんを守る体制にはいっていた。
「環境データを取得。ok。プライベートヴァース中間処理部分解析。ok。擬装小規模ダンジョン仮設。ok。あとはこれをBG計算能でぶん回せば……」
ブツブツと自分の中で確認するように呟く黒川さんは、ヨシと言うや立ち上がりブラックサンタを睨みつけた。
折しも、サンタの小集団がこちらへ向かっているところだった。

「わかってるんだぞ! ネトゲだろうとなんだろうと、いちゃつくやつは居るし幸せなんて個々人の感じ方次第なんだ。ここにデートに来て楽しんでる奴らだって、居るだろ! それを俺は壊したい!」
ブラックサンタたちが攻撃を凌ぎながらこちらへ突撃し、そのリーダーらしき男がそう言い放った。控えめに言って最悪だ。
「そんな無駄に想像力に溢れた思想をなぜ自分を救うための方向に使わないのだ……ビルド・オートキャノン!」
そして思わずといった風情で言葉をこぼした黒川さんが、タブレットを操作し、戦闘開始以来初めて、自動砲台を呼び出した。順次構築される自動砲台は平べったい頭部兼用ボディから脚と砲塔が一体化したパーツを八本伸ばし、あえて言えばクラゲっぽい。
その脚が四本ずつ互い違いに跳ね上がっては射撃を繰り出し始め、その度ブラックサンタが吹き飛ぶ。

しかし、その頻度と数と威力が尋常ではない。

「なんだアイツvE《対エネミー》みたいな火力出してるぞ。チートか」
「フハハハ、逆だ馬鹿者私の砲台が高レベルエネミー扱いになってるから中級帯に揃えられたお前たちなど紙くず同然」
「ずりい! チートじゃん!」
「チートなどと軽々しく言うんじゃない。ドキッとするんだぞこっちは! ほんとにちょっとクラッキングしてるのだから」
えっ
「えっ」
「「「え?」」」

大量の自動砲撃兵器による蹂躙はおよそ5分でブラックサンタの集団を壊滅させ、その後黒川さんはBGアドミニストレーションサブクラス《えらいひと》に呼び出しを受け、お仕置き部屋送りとなった。

「なんであんなむちゃしたんですか?」
「日付が変わる前に片付けたかったんだ……」
高難度ダンジョンと高難度ダンジョン境界部に設置されたエリア【星界の階】。別名、虚無の暗黒のお仕置き部屋。黒川さんがぶち込まれたそのエリアに、僕は正規の方法で来ていた。
別名の由来はごく単純。空に星こそ浮かんでいるが、それ以外にエネミーも出なければアイテムも存在せず、それぞれのダンジョンが攻略された今、接続通路でしか無いこのエリアは薄暗いだけの階段でしかないのだ。ちなみにしばらくは黒川さん限定で各終端部に無限ループが発生して脱出不可となっている。

僕は呆れを通り越して穏やかな気持ちで黒川さんに聴取する。
「んー、よくわかんないですね。日付が変わるったって」
「デートして、好きな人の誕生日を祝いたい。普通の事じゃないか?」
「は?」
だが、その穏やかな気持は一瞬でかき消された。

「好き……? 誰を? 黒川さんが?」
「それなりに……クリスマス・イブイブイブイブイブイブイブにBG内でとは言えデートするくらいには、君が好きなのだぞ?」
「え、いや、だって、僕……同性だよ?
僕は、ゲームの補正を入れてもさほどきれいじゃない自信のある自信のない自身の顔を指し示す。

「……? 性別で好きになるわけでもあるまいし、それはたまたま我々が同性だったというだけじゃないか?」
何をバカなことを。とばかりに彼女は首をかしげる。

「いや……その……嬉しいと言うか我が意を得たりと言うかですけど……」
「ああ、時間だ。19歳、おめでとう。刑部聡子さん」
ゴニョゴニョと言い募る僕の目の前には、冷たい暗黒の世界に似つかわしくない柔らかな天才少女の笑顔があった。
【体温、非常値を超えました】
「んんんっ!!!」
「ん? どうした?」
ダイブデバイスが、顔の温感情報をサポートしていなくてよかったとこれほど思ったことはない。

【おわり】

この小説は #パルプアドベントカレンダー2019 に参加しています。

あとがき
ごきげんよう。むつぎです。BlackGate世界でのクリスマスの様子をお送りしました。完全にあとがきの部分を考えずに寝てしまっていたのでなんか思いついたらまた書きます。チャオ!

【次回予告】
明日(20日)の担当パルプスリンガーは、遊行剣禅和尚! タイトルは『ブラックサンタ・ホームカミング』のご様子。おたのしみに!

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。