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World_of_Black_Gate

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2000年代後半、前触れ無く世界中に出現した黒色不明物体は、やがて【ブラックゲート】と呼ばれるようになった。計測不能=実質∞の計算能を持つそれは世界を一変させ、特定の手段でもって… もっと読む
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記事一覧

『アドベント19』 / #パルプアドベントカレンダー2019

この作品は上記世界の物語です。 「相変わらず他では見ないくらい混んでるね」 「そうだな。普通、ダンジョンで人を避けて動くとか並んでモンスターを待つなんて有り得ないものな」 超大規模VRゲーム【BlackGate】内、プレイヤー街【フィフスノート】。冒険者《エクスプローラー》でごった返す一画を、僕と黒川さんは歩いていた。 有志で運営される大型プライベートヴァース上に築かれた、紛うことなき【街】は、素晴らしき日本の心を体現しており……店舗オブジェクトを取って付けたようなクリスマ

暗洞に声よ響いて #10

最初から 前回へ 「あ、ああ、あの」 さっき声をかけた青年冒険者さんから、今度は反対に声をかけられた。やたらと切羽詰った感じで。 「あなた、オールコントロールなんでうか?」 噛んでるし。私は返事代わりに首を縦に振る。 「うお……そんな細かい仕草まで……じゃなくて、手伝って欲しいことがあってですね」 こんな初心者丸出しの私に? と思うが黙って聞いてみる。 「この先に有るクエストエリアのボスがオールコントロールでないと倒せないっぽいギミックが仕掛けられてて、もしよければ協力し

暗洞に声よ響いて #9

【最初から】 【前回へ】 そして、行く先々で既に狩場が使用され、やんわりと向けられる(ここ使ってんですけど)オーラに抗えず退散を繰り返し、さりとてダンジョン自体から出ることは出来ず、その結果私は第5階層にまで来てしまっていた。 『この階層より上に行くと、一気に敵が難化するようですね。今の装備では攻撃が通じない場合があります』 「このフロアで狩場を見つけたいなあ」 元々はボスが設置されていた”区切り”の階層らしい。さっき調べた。 その時、ドゴン! という音と共に、いかにもフ

魔族砦で放課後を #1

「砦を取りに行こうよ!」 ふわふわの髪を跳ねさせて、せんちゃんが例によってそんなトんだ発言をしたのは、私達が放課後の部室で『各々猫動画を見て最強の猫動画を決める決定戦』をしているときだった。 「ゑーと……最初から話して」 指をくるくる回しながらよーこちゃんが言う。なに? その仕草。 「えとね、BGのハウジングシステム? ってのがあって、その一環でフィールド上の施設を奪える機能があるんだって! 昨日から」 「え、できるのそんなの。そういうのって普通エンドコンテンツじゃない?」

暗洞に声よ響いて #8

最初から 前回へ 実装前から新要素獲得競争の戦いは始まる。けして先走って実装前なのにダンジョンを走り回ってたというわけではないのだよ。 そうしておよそ一日かけて探し回った結果、試練の塔5階が件の新アイテムドロップイベントが発生するんじゃないかと目星をたてた。詳しく言えば、このフロアの隅にある、【崩壊領域】と呼ばれる塔オブジェクトが倒壊したmob無popエリア。前から何かあるぞ何かあるぞと噂されていた場所で、10年かそこら経ってようやくの実装だ。 BGの運営は人ではない。

ダンジョンに装甲変身ヒーローがいていいのだろうか#3(終)

前回へ 『アーマーの強化にあたり、まず関連スキル【装甲服作成】を取得してください』 「追加で? 痛いな」 『コストは最低です。今のところ』 ほんとだ。1ポイントだ。実質タダ。 取得済みスキルに関連するスキルはコストが跳ね上がる【調整】がされている場合があるので、このコストは破格だ。今後何らかの情勢変化……このスキルセットが大人気になったりしたら……スキル取得・育成に必要なポイントが【調整】され、所要ポイントが跳ね上がってしまうのだろう。 『次に装甲を解除して、ウインドウを

ダンジョンに装甲変身ヒーローがいていいのだろうか#2

前回へ 「うわ、速っや」 普段は命中回避の判定に使われるだけのステータスが実パラメーターとして反映され、一足で数メートルを跳ぶ。遺跡の敵エリアへはあと数歩。敵の反応がうっすらと赤く視界に映る。この調子なら壁走りすら出来るかもしれない。 『おはようございます。戦闘行動を開始しますか?』 その時、耳元で聞き慣れない女性の声が響いた。 「えぇ!? だれ!?」 『付属型戦闘支援AI、リリイフラワーです』 思わず尋ねる俺の問に、リリイフラワーとやらは涼しく甘い声で自己紹介をする。そ

ダンジョンに装甲変身ヒーローがいていいのだろうか#1【W.B.G番外編】

565>>【朗報】なんだかよくわからんが「装甲変身」とかいう新スキル覚えた 566>>この書込みは削除されました 567>>またまたご冗談を 568>>嘘乙 569>>この書込みは削除されました 570>>新実装かな?新スキル久しぶりだね 新実装でした。 ■ ダンジョン【月遺跡】表面層。 新しく覚えたスキル、【装甲変身】を試すべく、俺はこんなとこまで来ていた。特段旨味のないmob構成、そして操作しづらい低重力設定。が、今日は関係ない。なにせオールコントロール強制スキルな

暗洞に声よ響いて #7

最初から 前回へ 然程ひどい顔はせずに、家に帰って来れたと信じたい。 『お帰りなさい、レイコ様』 「うん、只今」 キッチンに買い物の袋を置き、また水を飲む。今度は水道水だけど。 『お食事のあとは、ダンジョンに行かれますか? それでしたらまた次の攻略情報を……』 「今日は、もういい」 『……左様ですか』 サンデイがなんだか少し嬉しそうだった気もするが、気のせいだろうか。だが、私は無性に”れいん”になりたい気分だった。 「ご飯食べたら、シャワー。その後、収録する。第十回の前

暗洞に声よ響いて #6

最初から 前回へ 「……ふはっ」 ゲーム内から戻ると、一瞬息を忘れて大きく息を吸う。いつもの癖だ。 『現時点でキャラクター作成に使用したポイント分は稼げましたが、目標額はこの約10倍ですから、ペースが不安ですね、レイコ様』 「配信に向けて練習もしたいから、休みの明日か、ギリギリ明後日くらいまでが期限だね。半日でこれだと、もっと効率のいいところじゃないと……」 狩場、というらしい。私もあっちも実際には命を懸けてないとはいえ、なんだか申し訳なくなる呼び方だ。 『それでしたら強

暗洞に声よ響いて #5

最初から 前回へ 少し跳ねるくらいのつもりでジャンプしたはずが、天井で頭を殴打した私は暫くうずくまっていた。いや、だから、痛くはないのだが、反射行動だ。痛い気がするのだ。 『高いVR適正の賜物ですね』 賜りたくないよ、こんなの。 気を取り直して、上げたスキルを確認する。 STR レベル2 DEX レベル3 INT レベル1 これは基本ステータス。さっきの体験から鑑みるに、DEX(俊敏性)レベル3ですでに超人的だが、これ以上どうなってしまうのか。 剣術 レベル3 解剖

暗洞に声よ響いて #4

最初から 前回へ 私は以前作るだけ作っておいた冒険者用アバターで、受付のカウンターに相対していた。 『本日はどちらへ向かわれますか?』 「試練の塔の……1階をお願いします」 いつも配信で使っている”れいん”のアバターとは身長以外全く違うこのボディは、細部の色替えをした位でほぼデフォルト。オリジナルなところは皆無だ。 ただし、声はハスキーな……落ち着いたといえば聞こえはいいが……ゲーム外の私自身の……声そのものである。 この世界はポイントが全て……らしい。 つまりポイント

暗洞に声よ響いて #3

最初から 前回へ 「帯域使用料……って何……?」 『ご説明しますか?』 「あ、いや、大丈夫……不要です……」 分かってるけど分かりたくないときのアレだから、大丈夫だ。デジタルアシスタントが映るPCディスプレイの前で、私は頭を抱えていた。 告知動画投稿から一夜。あるいは、自宅用Pvサーバーが来てから一夜。 ……やってしまった。テンション上がった勢いで告知動画を投稿したが、大事なところで説明書を読んでいなかった。 プライベートバース……VR上の個人向け共有空間を設立する準備を

暗洞に声よ響いて #2

前回へ 眠気を抑えてなんとか講義をこなした私は、その終了と共に立ち上がり、ポーチから端末を取り出し画面を点ける。そこに出ているのは、数件の通知。 クーポン、プレイしてるゲームのスタミナ回復、そして、私の投稿した動画の視聴数が一定以上を超えたというお知らせ。 「っし」 私はつい、小さくつぶやいた。横のひとにちらっと見られる。慌てて手で口をつぐむが、その下では口角が上がっていることを自覚していた。 ほんの20文字にも満たないその文字列は、何度見てもいいものだ。 私は一つ深呼吸