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暗洞に声よ響いて #5

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少し跳ねるくらいのつもりでジャンプしたはずが、天井で頭を殴打した私は暫くうずくまっていた。いや、だから、痛くはないのだが、反射行動だ。痛い気がするのだ。
『高いVR適正の賜物ですね』
賜りたくないよ、こんなの。

気を取り直して、上げたスキルを確認する。

STR レベル2
DEX レベル3
INT レベル1

これは基本ステータス。さっきの体験から鑑みるに、DEX(俊敏性)レベル3ですでに超人的だが、これ以上どうなってしまうのか。

剣術 レベル3
解剖学 レベル1
受け流し レベル1

残りの所謂スキル群。とりあえず剣を振ればいいという強い意志を感じる。
あとは【探知】系や【鑑定】系などを取得すればいいと指南されていたが、とりあえずポイント稼ぎを優先して放っておくことにした。新規分野にあたるそれらスキルは、ややコストが高い。

『さあ、狩りに戻りましょう。折角の時間がもったいないですよ』
「スポーン時間の予測は?」
『残り5カウント。3、2、1……きます』

地面がおもむろに盛り上がり、三体のアラクネが再び姿を表した。先ほどと同じ、しかし私のステータスは違う。成長の実験には好機だ。
「スラッシュ! ヴァーティカル!」
『オールコントロールでは音声認識は必要でなく、規定のモーションを再現すれば発動するのはご存知でしたか?』あと数秒早く存じたかったなあ!
短距離走選手のスタートよりも速く、わたしは一体目のアラクネへと肉薄していった。

「はい……あ、先崎さん。今日は打ち合わせ……え? 別件で今日はだめに? ええ、明日も休みですから大丈夫ですけど。ああ、はい、はい。じゃあ時間は同じで。はい」
困った。完全に出かけるモードで用意したのに、予定がなくなってしまった。音声通話の切れた携帯端末を仕舞い、スリープモードのPCを立ち上げる。
……何をやるんだっけ?
今本当に無意識無目的でPC立ち上げてしまったな。惰性って怖い。
とりあえずGateTube行って新着を……これも惰性だな。指が完全に動きを覚えている。
「新着にれいんちゃんは、流石にあるはずないか。あ、おっさんのダンジョン実況は上がってる」
まあ後でいいや。同時に開かれたタブを切り替え、メールやカレンダーは消してニュースフィードを確認。まとめブログは今日もくだらないことだらけ。もうこれ解除していいんじゃないかな。
あとは配信関係やゲーム。ゲームというかブラックゲートだけど。
「明日、サーバーリフレッシュ。なにか新アイテムとか出るのかな」
その記事はブラックゲートからのリリースなので新要素やドロップの詳細はわからない。(これ誰が書いているんだ? AI?)
唯一公示されていたのは、アニバーサリーアイテムを不人気ダンジョンで入手可能になるということだった。
「試練の塔中層以下とか攻略デマ以外で誰も行かないだろ……」一度釣られたことあるけど。
だが、続いてそこに記載されていたのは、ピンポイントにぼくの物欲を刺激する文字列だった。
「ゆきおのドレイクの……仔!」と、設定されたレッサードレイクそんざい。
単純に騎乗生物は初心者配布としては妥当なラインだ。だがそれ以上に、そのフレーバー上の人物……VRの基礎を発見した人物の縁のものとなれば、ファンとしては見逃せない。

ぼくは、ヘッドギア型のHMDを装着し、その画面越しに見えるアイコンを、押下した。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。