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暗洞に声よ響いて #2

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眠気を抑えてなんとか講義をこなした私は、その終了と共に立ち上がり、ポーチから端末を取り出し画面を点ける。そこに出ているのは、数件の通知。
クーポン、プレイしてるゲームのスタミナ回復、そして、私の投稿した動画の視聴数が一定以上を超えたというお知らせ。

「っし」
私はつい、小さくつぶやいた。横のひとにちらっと見られる。慌てて手で口をつぐむが、その下では口角が上がっていることを自覚していた。
ほんの20文字にも満たないその文字列は、何度見てもいいものだ。
私は一つ深呼吸して、端末をポーチにしまい、講義室をあとにした。

今日の講義はこれで終わり。今週の講義も、だ。
眠気は、何処かに飛んでいっていた。

数時間後。軽く夕食を済ませた私は再び大学に来ていた。ただし、いつもの学部棟じゃなくて、あまり人気のない第二共通棟の渡り廊下に。どこと説明しても、大体の学生は場所がピンとこない程度に秘密の場所。と言っておこう。

金曜の夜……というのが関係あるのかないのか、防犯灯に白く浮かぶそこは、今日も静かにわたしを待っていた。
「よし」と人知れずつぶやき。ストレッチ。そして周りに人がいないか確認。
「……」と無言で飛んできた砂や細かい小石を掃除。そして周りに人がいないか確認。
「この……くらいかな」と三脚に端末を据えて、画角を確認。そして周りに人がいないか確認。
……やっぱり、まだ恥ずかしい。

ようやく私は録画をオン。並行してスピーカーモードで音楽を再生。曲は……『スタートの合図』。高校の頃、私を励ましてくれた。私を夢見させてくれた。明るいメロディが流れ出す。

ここからは、私のステージだ。
私の未来は、変えられるかな。

「おお、おお!?」
更新された新着動画の欄に、昨日の今日でれいんちゃんの顔が出ていた。ぼくは思わず歓声を上げて、他の動画を差し置いて見てみる。ちょっと罪悪感。

『こんにちはこんばんわー以下略! 今日は次回の告知です!
次回第10回! フォロワーさんも増えて嬉しい限りなのですが、ここで記念として収録生配信やります!』
いつもの部屋ではなく、単色の背景にバストアップの簡単な構図で、恥ずかしいような緊張しているような表情でれいんちゃんが映し出される。カワイイ。
いやそんなことはどうでもいい。よくないけど。は? はぁぁぁ? メデタイ! それ以外の感情がない。

『詳しくはまたお知らせしますが、当日はプライベートバースを作るので、ぜひ皆さんもいらっしゃってくださいね!』
「キョッ……」
うそだった。感情が爆発して不可解な音がぼくの喉から漏れた。画面内では機材のためにお年玉を切り崩したとれいんちゃんが発言していた。(”貢ぎ”は絶対に受け取らない主義だ)
プライベートバース……つまりVR世界でだが、小さなコヤで……握手なんかもできちゃうのでは!?
告知回ということで、すでに動画は終わっていたが、ぼくのワクワクはこれからだ。もう一度見ておこう。

ところで、Pv(プライベートバース)は、機材だけではなく……

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。