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生まれた星のせい

 今から8年くらい前。対人関係で同じようなトラブルが立て続けに起こり、とにかく気持ちが落ちていた時期があった。

 そんな頃に、詳しい経緯はもう忘れてしまったが、友達の先輩でお互い「なんとなく名前を知ってる」程度の知人タクマくんと2人で飲みに行くことになった。

 タクマくんは噂に聞いていた通り、ちょっとキザで自分の世界を持ってる感じの人だった。

 お酒が入ったのとお互いをよく知らないっていうのもあって、なんだか色々話しやすくて、僕はここ数ヶ月で自分に起こった数々のトラブルと、それに引きずられひどく気が滅入っていることをタクマくんに相談してみた。

 すると彼は「そっか…。きっと君はそういう星のもとに生まれたんだな。」とちょっとカッコつけた感じの顔で言った。

 そういう運命なんだから仕方ないよ、って言われたようで一瞬イラッとしたけれど、彼のその一言で僕の悩み相談は終了。彼は全然違う話題に話を変えてしまった。

 その後の会話は普通に楽しかったので、彼の印象も別に悪くなることはなかったし、楽しく飲んで適当に解散した。

 この頃がまさに悩みのピークで、その後だんだんと辛い時期を抜けいろいろなことが良い方向に進み始めた為、僕は徐々に元気を取り戻していった。

 タクマくんとはそれから数回2人で飲みに行ったけれど、すごく気が合うわけでもなかったし、なんとなく連絡を取らなくなり、数年後には連絡先もわからなくなった。その程度の関係性だったしそんなもんだ。彼は少し変わっていたけど、僕の中で特別印象深い人物というわけではなかったし、たぶん彼の中でもそうで。そのうち名前も思い出せなくなるだろうと思っていた。

 でもそうはならなかった。彼の方はわからないけど、僕の方は今でも彼をしっかりと覚えている。というのも、なぜなのか彼がちょっとカッコつけた顔で言った「きっと君はそういう星のもとに生まれたんだな」という一言が僕の頭の片隅にいつまでもいつまでも残り続けていたから。そして数年の時を超え今の僕に大きな影響を与えているからだ。


 悩みの本質は子供の頃から意外と変わっていなかったりする。これは単に自分が成長していないだけという場合もあるけど、自分どうこうじゃない問題の場合は彼の言葉に倣ってまさに「そういう星のもとに生まれたのだ」と最近思うようになった。

 生き方を理解してもらえなくてもやもやしたときも、解決してもまたすぐ同じような問題に見舞われてやってられないときも「自分はそういう星のもとに生まれたんだ」って思う。そうすると「これは自分のせいじゃないし、自分がもがいてどうにかできることじゃないんだ」って思えるので、ほんのちょっとだけ救われるというか気持ちが楽になる。

 それは「逃げ」であり、単なる「諦め」かもしれない。でも生きてるとうまくいかないことや理不尽なことには何度も何度も遭遇するわけで。その全てを真正面から受け止めて生きてくのは正直しんどい。

 だからそんな時はもう自分で大袈裟に「 そういう星のもとに生まれたんだから仕方ないさ」って言ってしまうのだ。

 生まれた星のせいにしたからといって全ての悩みが消えて無くなるわけではない。問題が解決するわけでもない。けれど多少なりとも気持ちが楽になるのだから僕はこの方法がネガティブで悪いものだとは特に思ってない。

 もちろんそんな風に簡単に受け入れられることばかりじゃない!って言う人もいると思う。僕もそうだったし、困難や理不尽との付き合い方は人それぞれ違う。乗り越えたり上手く交わしたり、時と場合によってもいろいろなやり方があるだろう。でもだからこそ、拒絶しないで手当たり次第いろいろな方法を試してみるのもありなんじゃないかな。

 あれやこれやと試しながら自分に合うやり方を発見しそれを身に付けて、人生に立ちはだかるピンチを突破してゆくことも、歳を重ねる醍醐味の一つなのかもしれない。

 そんなふうに思えようになったのは歳を取ったからでもあるけれど、気付きを与えてくれたのはやはり彼のあの一言なのだと思う。

 その彼、タクマくんについては、SNSもかなり前から更新されてないようだし、引き合わせてくれた友達とも疎遠になったので現在どうしてるのかさっぱりわからない。

 まだ音楽やってる?カリフォルニアロールが得意料理の彼女とは今も一緒にいるのかな?

 結構お酒も入っていたし、もう覚えてないかもしれないんだけど、当時僕がちょっとイラッとしてしまったあの時のあの言葉が時を超えて僕の心に今とても響いているんだよ、タクマくん。

 もう会うことはないのだろうけど、いつか会えたならばきっとこの話をして感謝を伝えたい。

 それと、万が一どこかで偶然再会するような奇跡が起きた時には驚かずカッコつけて言いたい。「また会えるなんて僕らそういう奇遇な星のもとに生まれたんだね」って。





 オチもなく意味のわからないショートストーリーですみません。数年前に書いたものでフィクション、ノンフィクション半々なのでエッセイでもないのですが、いろいろ思いがあって、ずっと書き直したいと考えていたものを今回ようやく手直ししました。出来はあれなのですが消化できて満足です。最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました😊

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