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感情に理由なんてない?【書評】なぜ、それを好きになるのか?脳をその気にさせる錯覚の心理学 竹内龍人

人間は自分で思うよりも自分のことを分かっていない。自分の感情が上がり下がりする理由さえ分からないことがある。なんだか気分が悪かったり、モヤモヤさせられたり。(私は特にそういうことが多いみたいだ。)

気分の悪さの原因を探して、ドツボに陥ることもある。まあ、こんなこと何時間考えたって分からない。メンタルについて理解しようと思って深堀すればするほど手ごたえのない沼にはまる感じがする。そこで、人間の感情についての理解を深めたいと思えば、人間の脳の誤作動(錯覚)についての知識を避けて通るわけには行かないだろう。

もともと「プライミング効果」について知りたくて手に取った一冊だったが、ザイアンス効果やサブリミナル効果、処理の流暢性の誤帰属など、興味をそそる心理学用語の数々に夢中になってしまった。とても面白い本なので、ぜひ読んでみてほしい。

脳は処理しやすいものを「好き」と感じる

基本的な特性として、脳は「処理しやすいものを「好き」と感じる」ことを覚えておきたい。これを専門用語で「処理の流暢性の誤帰属」という。処理しやすい=分かりやすい=好き。人は後付けで感情の理由をこじつける傾向がある。しかも自分ではそれに気づかない。

例えば、様々な人物の顔を合成して「平均顔」を作って写真を見せると好感度が高くなる。実は、これ左右のバランスが整っている顔は脳にとって処理しやすいからなのだ。脳は「処理しやすい=好き」と感じる。整った顔立ちの俳優・モデルが好かれるのもこういうわけだ。

同じような例はたくさんあって、分かりやすいフォントと、読みにくいフォントを使って文書(レシピ)を読んでもらう実験をする。理解度や記憶力には差がないが、内容の感じ方に差が出る。つまり読みにくいフォントでレシピを読んだ人たちは、そのレシピを魅力的に感じなかったり、難しいと思ったり、やってみようとは思わないのだ。

感情の理解のための基本知識として、人は「分かりやすい=好き」「分かりにくい=嫌い」と感じてしまう傾向があることを知らなければならない。たとえ正しいこと(事実)ではないとしても、メディアから分かりやすく提供されると、それに好意を持ってしまうこともあるということだ。極端な意見・フェイクニュースほど、分かりやすかったりするから注意が必要だ。

(もっとも、最初は分かりにくいものでも、何度も何度も露出させることで好感度を上げることもできる(ザイアンスの法則)。それは繰り返し見聞きすることで、脳にとってその情報が処理しやすくなったからだと考えると良いだろう。本書では、「ふなっしー」や「せんとくん」などのゆるきゃらを例として説明している。)

サブリミナル効果で感情が作られる

脳の錯覚について語るうえで、サブリミナル効果について知ることは重要だ。サブリミナルは、目に入っていても意識下に上らないスピードで情報を視覚に送り込むことだ。サブリミナル効果を用いて映画館でコーラやポップコーンを買わせたという実験は偽物であることが分かっているが、サブリミナル効果は現実のものだ。

感情研究の第一人者であるニューヨーク大学のジョセフ・ルドゥー教授によると、情報が伝わってきた時にそれを処理するために、脳の中には2つの神経回路がある。一つは視床から大脳皮質を経て扁桃体に至る意識的な思考<ハイロード>。もう一つは視床から直接に感情をつかさどる扁桃体に至る思考?<ロウロード>だ。サブリミナルの情報は、意識下に上らず直接感情に働きかける。

例えば、クモ恐怖症の人に、クモの写真をサブリミナルで見せる。すると、意識はできないけれど、なんだか嫌な気持ちにとらわれるのだ。意識できないので、自分が嫌な気持ちでいるということは、今日は気分が悪いのだろうと後付けで自分の感情を説明するのだ。もし、そんな時に、ちょっと喧嘩でもしたら「お前のせいで気分が悪い」という八つ当たりを受けるだろう。

つまり、意識していなくても、人は見たものに影響を受けているのだ。

サブリミナル効果+プライミング効果

サブリミナル効果を、プライミング効果と結びつけると、人の感情を意図的に操作できる。プライミング効果とは、先に見たり聞いたりしたことが次に起こる出来事に影響することを言う。

例えば、笑顔の赤ちゃんの顔(好ましい刺激)と大人の怒った顔(好ましくない刺激)のどちらかをサブリミナルで見せて、その後に、図形など特に意味を持たないデザインの好みを聞く。面白いことに、赤ちゃんの笑顔をサブリミナルで見せられた人は、なぜかわからないけれど、その後に見せられたものを好意的に感じるのだ。

意識下には上らなくても、無意識下で人は赤ちゃんの笑顔をキャッチし、それにつられて笑顔が生じる。笑顔になるとポジティブな感情になる。その状態で、ある図形を見せられると、自分はその図形が好きなのではないかと思ってしまうというわけだ。なぜ、好きかという説明さえするかもしれない。でも、実際には、サブリミナルで見た笑顔に反応しているだけなのだ。

視覚が感情に及ぼす影響

人間の脳は、実に50%もの部位が視覚処理に関係して使われていることが分かっている。視覚から入る情報は人の感情に直接影響を与えている。ちなみに、10%は聴覚、10%は他の感覚、20%は体を動かすことに関係している。驚くことに、知的作業に使っている脳の部位はわずか10%に過ぎないという。だからこそ、視覚が感情に及ぼす影響に無頓着ではいられない。

現在、メディアではサブリミナル効果を使うことは禁止されている。しかし、応用的な方法で人の感情に影響を及ぼそうとする行為は横行している。たとえば、プロダクトプレイスメントという広告手法がある。ドラマや映画の中で、ブランドをちりばめておいて、自然な形で認知させる方法だ。女優が使っている化粧品だったり、着ている服だったり。

これは厳密にはサブリミナルではないけれど、視聴者が、その広告に気づかない方がブランドへの好感度が高まることが分かっている。(広告に気づくような下手な手法だと、逆に好感度は下がる。)つまり、はっきり意識していなくても目に入るもので感情が影響を受けているのは間違いない。

そこで、ようやく、私の感情についての話なんだけど・・。

なぜか気分が悪い、なぜか落ち込んでいる、不安・心配になったりする。こんな感情の時は、その理由を探そうとすることが多かった。しかし、この本で学んだことを考えると、必ずしも自分の内面に感情の理由はないのかもしれない。

直前に見たもの(動画・画像)に影響されて、感情が生じたのかもしれないってことだ。無自覚でネットサーフィンしたり、動画を見たりしているうちに、感情が上がり下がりしていて、その直後に起こった出来事と感情を間違って結び付けているのかもしれない。

食べたものと同じように、視覚を通して頭の中に送り込んだ情報は、何らかの反応を引き起こしている。自分の感情を探るカギは外部にあるかもしれない。食べたものだけではなく、見たもの(インプット)を記録していくと、よりいっそう自分の感情を理解できるようになるかもしれないのだ。どうだろう、これはすごい発見じゃないだろうか。

以前、EQで自分の感情に関して理解することの大切さを学んだが、それとは違う視点だったが、これもまた感情について理解することだろう。

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読書感想文

大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq