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中学校教師が抱えるストレスは日米でどう異なるのか?

これまでに福島大学とアメリカのミドルテネシー州立大学で、中学校教師を対象にストレス反応の日米比較が分析されてきました。本研究はその一環で行われたものであり、中学校(アメリカではミドルスクール)を対象としています。これは中学生が思春期に突入して不安定な状態にあり、不登校やいじめ、非行などの問題行動を現しやすいためです。そのために例えば日本では1995年以来スクールカウンセラーが導入され、中学校に重点的に配置されています。しかしこれ以外にも社会問題となっている不登校、特別支援教育(平成19年4月より)に基づく発達障害への特別支援、改正教員免許法(平成19年6月より)など、日本の教師を取り巻く環境は依然として厳しいのが現状です。

調査目的・対象・方法

中学教師のストレス反応を調べるためには、教師のジェンダーや教職経験などを踏まえながら見ていく必要があります。そこで福島市内の中学校18校(計427人)と、テネシー州のミドルスクール3校(計119人)の中学教師を対象に、ストレス分析を行いました。福島市内の教師は男女比がほぼ均等で、教職歴11年以上のベテラン教師が多いのに対し、テネシー州では女性教師が圧倒的に多く、教職歴も10年以下の若い教師が多いことが特徴です。

アンケートを用いて、個人の属性(性別,年齢,職名,教職歴)の他に,ストレッサー,ストレス反応,教職に対する自己有能感、教職に関する自己評価,問題行動への対策を項目として調べました。この結果から、ストレッサーとストレス反応の日米比較を行うだけでなく、ストレス反応に対する自己肯定感や自己評価の影響も検討しました。

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調査結果①ストレスの日米比較

ストレッサー・ストレス反応・自己有能感・自己評価・問題行動への対策という各項目に対するアンケートの回答結果を因子分析したところ、それぞれの項目に対して2-6個の因子が抽出されました。その因子の中でも、統計的に有意に高いもの(p<0.05)を日米比較する形でまとめたのが表1です。

表1. 教師ストレスの日米比較

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引用文献の表2をもとに作成。

調査結果②ストレス反応に影響を与える要因分析

次に「不安抗うつ反応」「疲労感」「絶望感」「体調不良」の因子を説明するために、その説明変数として性別・生徒指導ストレス・やりがい・多忙感・孤独感・スタッフの増強・教員研修・少人数教育を用い、ロジスティック回帰分析を行いました。つまり各因子を、各変数がどのくらい説明するかを調べました。統計的に有意な差(p<0.05)を示した説明変数を日米で比較した結果、表2のようになりました。

表2. 各ストレス因子に対する説明変数を用いたロジスティック解析結果の日米比較

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引用文献の表3、4、6をもとに作成。

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考察① アメリカ教師のストレス

日本と比べてストレス要因は単純であり、学習指導を挙げていました。これに対して不安抗うつ反応・疲労感・体調不良といった心身の不調が現れることが特徴です。このことからアメリカ教師にとって生徒指導はストレスフルな仕事であることがわかります(図1)。

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図1. アメリカ教師のストレス要因(参考文献の図1をもとに作成)

考察②日本教師のストレス

アメリカと比べて性差がありストレス反応が多様であることが特徴です(図2)。女性教師は不安抗うつ反応や疲労感を示すことが多く、これらは多忙感や孤立感、やりがいの喪失をもたらしています。一方男性教師は気晴らし飲酒へ走る人が多く、アルコール依存症を示す人は多忙感に加えて孤立感を示しています。さらに、日本教師の中でも体調不良を見せる人たちは学習指導ストレスを感じ、教員研修希望が強いです。希死念慮をふくむ絶望感を持つ教師は特に深刻で、生徒指導ストレスのみならず、信頼関係を構築できずやりがいや自信を喪失しています。

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図2. 日本教師のストレス要因(参考文献の図2をもとに作成)

考察③教師のストレス

過去の研究から、自己認知とストレスに強い相関関係があることが既に知られています。つまり生徒・教師・保護者との信頼関係、やりがいがある、良い同僚がいるといった自己認知はストレス反応に対する防護因子として働き、一方多忙感・孤立感は危険因子となると考えられています。こうした観点では日本教師の方が深刻であり、多忙感や孤立感が不安抗うつ反応・飲酒・絶望感の中に見られました。日本の女性教師には特に不安抗うつ反応や疲労感が強く現れており、生徒指導からくる多忙感や孤立感などが考えられます。さらには家事との両立の難しさも原因として考えられます。他方、日本男性教師は飲酒への逃避行動が目立ちました。日本にみられる深刻な絶望感を抱く教師に対しては、いかに他の教員や保護者との連携を作れるか、また教員研修を通してやりがいのある多忙へと変えていけるか、がポイントと考えられます。

中野明徳,昼田源四郎,松暗博文,飛田操,初澤敏生,中学校教師のストレスに関する日米比較,福島大学総合教育観究センター紀要第4号,2008,https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R000002728/19-49.pdf

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