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マインドフルネスはマルチタスクを効率化させる【研究紹介】

「今日は案件Aを整理してから案件Bをやろうと思っていたのに、さらに新たな案件Cを急遽任されて予定がぐちゃぐちゃ!」
そんな経験はありませんか?
このようないわゆる「マルチタスク」は、情報が飽和した現代社会において様々な場面で求められる課題であり、個人の健康と仕事の効率の両方に悪影響を及ぼすことが懸念されています。

この記事では、そんなマルチタスクをより効率化する手段としてマインドフルネス・トレーニングの効果を調査した研究「The effects of mindfulness meditation training on multitasking in a high-stress information environment:マインドフルネス瞑想トレーニングが高ストレス情報環境下でのマルチタスクに及ぼす影響について(参考・引用1)」を紹介します。

1. はじめに

 最近、マルチタスクは学習や注意力の低下を引き起こしているのではないかという懸念が一般的な報道でも注目されるようになってきました。
このような懸念は、人間の注意は限られた資源であることなど、認知心理学や神経科学のさまざまな研究によって裏付けられています。

今日、マルチタスクの悪影響に関する懸念が大きく高まっていることは、一般の人々や特に学生の間で、マルチタスキングがどの程度行われているかという話が数多くあり、マルチタスキングが広く行われていることで、学習や注意力が低下しているのではないかという心配があるといった一般的な報道で注目されていることからも明らかである。
このような懸念は、人間の注意は限られた資源であり、マルチタスクには迅速なタスクの切り替えが必要であるため、これには速度と精度の面でコストがかかることを示唆する認知心理学や神経科学のさまざまな研究によって裏付けられている。

 そんなマルチタスクをより効率化させる手段として、本研究の著者であるLevyらは、注意力を向上させる効果があるとされているマインドフルネス・トレーニングが有効であると考え、その効果を検証しました。

2. 対象と方法

 対象は人事担当として働く健常成人女性39人とし、マインドフルネス・トレーニングうけるグループA(12名)、何もしないグループB(15名)、リラクゼーションのみを行うグループC(12名)の3つのグループに分けられました。
 期間は8週間で、トレーニング開始前後にマルチタスクを行う能力の測定と感情に関する評価(Positive and Negative Affect Scale(PANAS)、Profile of Mood States-Short Form(POMS-SF))を実施し、3つのグループを比較することでマインドフルネス・トレーニングがマルチタスクの効率性に与える効果を検証しました。
なお、グループBは何もしなかった8週間後にグループAと同様のトレーニングを8週間うけました。

参加者は、マインドフルネス瞑想(グループAと、8週間の待機期間後のグループB)、またはボディリラクゼーション(グループC)のいずれかのトレーニングを8週間受けた。
各グループは週に1回、2時間の講師とのミーティングを行い、参加者には宿題も与えられた。
ウェイトリスト群(グループB)を含めることで、トレーニングを受けずに時間が経過した場合に生じる従属測定値の変化の可能性(練習効果など)をコントロールし、また、トレーニングを受けない8週間の後にマインドフルネス・トレーニングを受けることで、治療の再現を可能にした。
リラクゼーション群(グループC)では、期待感やトレーナーの注意力などの潜在的な非特異効果をコントロールしながら、能動的な代替トレーニングを行なった。

 マルチタスクを行う能力は、「会議のスケジューリング」や「会議の告知文の草稿を書く」など日常業務としてよく行われる課題を5つ設定し、それらを同時に行うよう指示しタスクが終わるまでの時間や、タスクを切り替えた回数などにより評価しました。

3. 結果

 介入の結果、タスクを遂行する実際の時間にグループ間で違いは見られませんでしたが、タスクを切り替えた回数は、マインドフルネス・トレーニングを行なったグループ(グループAとマインドフルネス・トレーニング後のグループB)で有意に減少しました(グラフ1参照)。

#82_グラフ1

グラフ1:参考・引用1より一部翻訳

 また、マインドフルネス・トレーニングを行なったグループ(グループAとマインドフルネス・トレーニング後のグループB)はグループCよりも、1つのタスクに費やす時間が有意に長くなりました(グラフ2参照)。

#82_グラフ2

グラフ2:参考・引用1より一部翻訳

 さらに、マインドフルネス・トレーニングを行なったグループ(グループAとマインドフルネス・トレーニング後のグループB)はグループCよりも、トレーニング後のネガティブな感情が有意に少なくなりました。


4. 考察

 本研究の結果、マインドフルネス・トレーニングは1つのタスクにかける時間を長くし、タスクを変更する回数を減少させることが明らかとなりました。
これは、マインドフルネス・トレーニングにより集中力が強化され、現在のタスクを中断することなく、他のタスクに気づくことができるようになったからであると考えられます。

本研究の結果、瞑想グループの人たち(他の2つのグループの人たちはそうではなかった)は、トレーニング前に比べて、トレーニング後にタスクにかかる時間が長くなり、タスクスイッチの回数が減っていることがわかった。

この結果は何に起因するのだろうか。
我々は、集中力が弱い人は、新しい妨害にすぐに反応してしまうのではないかと考えている。
しかし、focused attention(FA)トレーニングは、現在のタスクを中断することなく、他の課題に気づく能力を強化するようだ。
このようなスキルを持っていれば、ユーザーは中断にすぐに対応するのではなく、現在のタスクをより長く続けることができるかもしれない。

 また、マインドフルネス・トレーニングを行なったグループは、マルチタスク後のネガティブな感情が有意に減少しました。
これは、マインドフルネス・トレーニングにより注意力が高まることで単なるリラクゼーションよりもタスク遂行後に達成感が得られ、さらに新たなタスクを行おうというポジティブな感情を抱かせることで、ストレスが軽減されたのではないかと推測されます。

注目すべきは、体のリラックスを中心としたトレーニングを受けたリラクゼーショングループの人たちは、瞑想グループの人たちほどのストレスやネガティブな感情の減少を報告しなかったことだ。
瞑想者の注意力を高めることで、単なるリラクゼーションではなく、有能感を高めることでストレスが軽減されたのではないかと推測している。

 さらに、マインドフルネス・トレーニングは情動制御の強化と関連していることから、マルチタスク実施中の情動反応をより適切に制御できるようになったことも、マルチタスク後のネガティブな感情が減少した理由の一つとして考えられます。

マインドフルネス瞑想は情動制御の強化と関連していることから、瞑想者はストレスのかかるマルチタスクテストを行っているときに、情動反応をより適切に制御できた可能性がある。


5. まとめ

 ここまで、マインドフルネス・トレーニングがマルチタスクに及ぼす影響について調査した研究を紹介しました。
マインドフルネス・トレーニングはマルチタスク中に一つのタスクにかける時間を増加させ、マルチタスク後のネガティブな感情を減少させることが示されています。
日々様々なタスクを同時並行で行わなければいけない中でネガティブな感情を抱いてしまう方は、一度、マインドフルネス・トレーニングを試してみてはいかがでしょうか。

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参考・引用
1:Levy DM et al. The effects of mindfulness meditation training on multitasking in a high-stress information environment. Canadian Information Processing Society, 2012.

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