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“英国の納豆”マーマイト

英国土産として私がいちばん気に入っているのが、「マーマイト」。
英国の生活文化に根差したものだということと、日本ではほとんど売っていなくて珍しいから。

そして、話をふくらませるきっかけになる「クセの強さ」も大きい。
というのも、マーマイトは“英国の納豆”なる異名をとっているのです。そのココロは、その国の人でも好き・嫌いが大きく分かれるということらしい。どちらも発酵食品ということもあるのかも。(ただ、日本のマーマイトの紹介記事にあった「納豆みたいなにおい」という記述には、私は賛同できず)


そもそもマーマイトとは、“ビールの酒かす“にあたるものを利用した食品。英国といえば、パブでビール。そのビールをつくった後のビール酵母を加熱して皮をとりのぞき、煮詰めてペースト状にした酵母エキスに企業秘密の味付けをしたもの、というのが公式サイトの説明。マーマイトそのものは、一見チョコレートペーストのようで、「チョコのつもりで口に入れてびっくり!」のようなエピソードをあちこちで見かけます。

インパクトが強い独特のデザインのパッケージ。これもお気に入りのポイント。今年、義父が来日したときちょうど切らしていたので頼んだら、500g入りの大きい瓶がどんと届いた。

夫の母はマーマイトが大好き。親しい友だちはそれを知っているので、マーマイトの瓶の柄のティーポットをプレゼントしてくれたといい、家の飾り棚に堂々と鎮座している。彼女のセンスやこだわりを感じるインテリアのトーンからすると、原色の黄色が浮いている。それも許せるくらいの愛好家ということ。

義母に紹介されて最初のころ、マーマイトが好きだと言ったら、「話がわかる奴」みたいな効果で仲良くなるのに役立ったような気がする。

日本でラグビーワールドカップが開催されていたとき、たまたま仕事で滞在した札幌のホテルにイングランドからの観戦ツアーグループも宿泊していた。朝食会場のテーブルに持参したマーマイトの瓶を置いている高齢の男性と目が合い、「私も好き!」と言って「本当⁉」と驚かれたのも、いい思い出。


私が始めてマーマイトを食したのは、結婚前の夫の家を訪ねたとき。ランチをつくりながら瓶を見せ、私がマーマイトを知らないことを確かめた夫は、「ちょっとだけなめてみて。本当にちょびっとだけだよ!」。

やけに「たくさん食べてはいけない」を強調するな…と、緊張しながら見た瓶の中身は、子どものときによくCMで見ていて謎だった「ミキプルーン」を思わせた。スプーンから落とすと、ちょろちょろと細ーい線を引きながら落ちるような、ねっとりしたペースト。私は食べたことのないミキプルーンを連想し、チョコの味を想像しなかったのもよかったのかもしれない。

まず、匂いをかがされた。まったく嫌じゃない。それを伝えると、じゃあと「許可」されて言われた通りちょびっとだけとってなめてみた。
「おいしい!」

私の反応に喜ぶよりも「Really!?」と半分疑っているくらいの夫。なんで? 
「これおいしいって言う人、あんまりいないよ。英国でも嫌いな人は大嫌いだから」。

私の感覚で味を表現すると、しいたけかこんぶの佃煮を煮詰めて煮詰めて煮詰めて…限界まで煮詰めてうまみの塊にしたもの、だった。確かに塩味がかなり強いので、たくさん口に入れたら第一印象で「ごめんなさい!」となってしまったかもしれないけれど。どこかにしょうゆを思わせる風味があり、親しみを感じた。

その日、初めて食べたのは、焼いたパンにバターを塗って薄~くマーマイトを重ねた、超定番のマーマイトトースト。
その風味で、小学生くらいのころに意識がタイムスリップ。当時、朝食ははちみつかジャムを乗せたトーストだった。ある日、母がどこかで聞いたのか、マーガリンを塗った上にこんぶの佃煮を乗せて食べ始めた。トーストといえば甘いものしか知らなかったので、こわいもの見たさでまねしてみると、クセになった。マーマイトトーストはその味を思い起こさせ、日本人なら嫌いじゃないと思えた。

今の私のお気に入りは、マーマイトトーストの上にとけるチーズを乗せ、ちょっと焦がしたマーマイトチーズトースト。香ばしくて美味。

マーマイト関連のチェックに余念がないらしい義母、オリジナルパッケージにできることを見つけて、夫と私の名前入りのものもオーダーしてプレゼントしてくれた。空容器は捨てられずにとってある。


成分的には、やっぱり塩分は多いようだけれど、一度にたくさん食べるものではないのであまり心配する必要はない。グルタミン酸が豊富に含まれているらしく、私の「こんぶの佃煮」という直感ははずれていなかった。そしていちばん強調されているのは、ビタミンB12が多く、栄養価が高いこと。

栄養があるけれど味にクセが強い。これも納豆との共通点。ちなみに私は納豆も好き。
ただ、マーマイトは好きな夫も、納豆は匂いで「うっ」となり、口に入れる気になれないという意味で「納豆は食べ物じゃない」と言う。私がこれまでに会った外国人で納豆が食べられた人はいない。クセの強い食べ物ランキングがあったら、納豆は世界のトップクラスに位置するのではないかと思う。


話をマーマイトに戻すと、煮込み料理の隠し味などにも使われるそう。実は夫も使っていたらしいのに、私は知らなかった。「ママはマーマイトクッキングブックを持ってるよ」とのこと。さすが。レシピを検索すると、一般の人のマーマイトを使うアイデアレシピもたくさん落ちていた。私も最近、マーマイトの調味料としての活用法を考え始めて、こっそり味噌汁に入れてみたりしている。まだまだ研究の伸びしろだらけ。

とは言え。「パパはお湯に溶かして飲む」と聞いてギョッ。それは思いつかなかった。きっと、昆布茶的な感じでしょうか。でもこのマーマイトティー?は、私もわざわざ試そうと思えず…。


結婚前、夫と初めて渡英したとき、こんぶの佃煮を乗せたトーストが好きな家族ならきっと好きだろうと、マーマイトをお土産に買ってきた。でも、父以外は母も姉・妹もその夫たちも、みんな「うーん…」という感じで、口に合わなかった模様。

それ以来、小さな瓶でも大半が無駄になると悲しいので、お土産に買うのはやめていたのだけれど。一昨年の渡英で義母の家に泊めてもらったとき、キッチンにコーヒークリームのようなポーション入りのミニマーマイトを発見。

お土産にぴったり!と思って何軒かのスーパーで探しても見つけられず、義母に聞くと「100個くらいの大きな単位でネットだけで売ってるの」とのこと。100個はいらないなとあきらめかけたら、「さすがにそんなに食べきれないから!」と、24個入りの箱をぽんと渡してくれた。
出張も多いマーマイトLOVERの義母。やはり旅先でもマーマイトは欠かせず、旅行用にポーションを買い込んでいたのでした。

ポーション(8g)はハート型でかわいい。

そのポーションのマーマイトをたぶん15人くらいに渡したけれど、はっきり「おいしかった」と言ってくれたのは一人(とそれを食べたご家族)だけだった。やっぱり一般ウケはしないようで、個人的にはどうにも解せないミステリー。(つまり日本では売れないのでほとんど売っていないということなのでしょうか)



英国のマーマイトオフィシャルサイトのトップには「あなたは好き派? 嫌い派?」と掲げられていて、メーカーが「嫌いな人は大嫌い」を逆手にとったブランディング。その開き直りをはじめ、おそらく古臭いイメージを払拭するためであろう、マーケティングの努力も素晴らしい。

オリジナルパッケージのオーダーサービスもそのひとつだし、熟成版(XO)やトリュフフレーバー、減塩版、マーマイトフレーバーのナッツやスナックなどもいろいろ売られている。私はナッツも好きで、それを知っている義母から、数年前の誕生日プレゼントにたくさん送られてきた。

ナッツは限られたスーパーでしか見つけられなかったけれど、マーマイトそのものは125g2.50ポンド程度(お店による)で、どのスーパーでも気軽に購入可能。

“ちょっとツウな英国土産”におすすめです。

ナッツなどのほうが試しやすいかも。ビールのお供などに合うはず。やめられない、止まらない。
(私だけ?)

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