- 運営しているクリエイター
2022年2月の記事一覧
止まっているときの悲しみや怒りはほんとうの悲しみや怒りではない。
クマが子ぐまに言った。
悲しみや怒りは
進んでいるときに
静かに根底にあるもので
止まっているときの
悲しみや怒りは
ほんとうの悲しみや怒りではなく
なにか別の怠惰なものだよ。
みんな悪いことも考える。
神様が子ぐまに言った。
どうしてこの世に
たくさん教会や
お祈りするところがあると思う?
やり直すためさ。
そして
踏みとどまるため。
みんな、なにかしら罪を背負って
なにかしら悪いことも考える。
みんなが
毎日やり直し
毎日踏みとどまっているんだ。
こころより信用できるもの。
きつねはなんだか
すべてがつらくなってしまった。
すべてが悲しくなった。
素敵なものから逃げたくなるくらい。
でも、きつねはこころのことを
あまり信用していなかった。
元気に動く加湿器の方が信用できた。
きつねは加湿器やガスコンロや
明るい電球のことを考えながら
こころと身体を暖めた。
失っても、こころが忘れても、身体に残っている。
子ぐまが訊いた。
なにも残らない。
生きることは悲しいこと?
クマが答えた。
そうだね。
ただね、近しいひとが
花を飾っていたこと、旅先の朝の匂い。
美しいもの。
きみの身体に残っている。
それが、ふとした時に
仕草に、習慣に、言葉に出てしまう。
生きることは
悲しくて素敵なことさ。
きみが映画監督ならどんな主人公がいい?
神様がきつねに訊いた。
きみが映画監督ならどんな
主人公がいい?
きつねが答えた。
なんでもできるひと、
きれいに暮らしておおらかで
みたいなのはウソっぽいな。
カリカリしてしまって
反省して大根が美味しく炊けたら
うれしくなるみたいな主人公かな。
神様が言った。
それはきみだね。