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2022年2月の記事一覧

名曲以外になにを。

名曲以外になにを。

「おまもりの森」のCDは
絞って69曲になった。
個人的には69曲全曲名曲。
このようなありえない
ありがたい機会に
名曲以外なにを用意できるだろう。
憧れの方と絵と音の交換日記を
していたなんて動揺する。
でも、ひんやりと崇高な
あの世界を思うと安心する。
そしてまたうたがつくりたくなる。

おまもりの森

おまもりの森

女の子が森に入ってゆくと
森の奥で好きなうたを
つくっている男の子がいて
かたわらでオオカミやすずらんや
うさぎたちがそれを静かに聴いている。

森ではいろいろな物語と呪術とうたが
生まれている。

森は早春の霧の向こうに
すこしのあいだ、あらわれるらしい。

「おまもりの森」
2.19-27

止まっているときの悲しみや怒りはほんとうの悲しみや怒りではない。

止まっているときの悲しみや怒りはほんとうの悲しみや怒りではない。

クマが子ぐまに言った。

悲しみや怒りは
進んでいるときに
静かに根底にあるもので

止まっているときの
悲しみや怒りは
ほんとうの悲しみや怒りではなく
なにか別の怠惰なものだよ。

ほつれたら直しながら。

ほつれたら直しながら。

世界の果てのある町に
自前の幻想を大事にしている
男がいた。
誰もがいいという幻想では
なかったが男はそれを
ほつれたら直しながら大事にした。
他のひとの幻想では
しっくり来なかった。
男は静かに自前の幻想を大事にし、
自前の生活を紡ぎ、
自前の人生を歩んだ。
ほつれたら直しながら。

みんな悪いことも考える。

みんな悪いことも考える。

神様が子ぐまに言った。

どうしてこの世に
たくさん教会や
お祈りするところがあると思う?

やり直すためさ。
そして
踏みとどまるため。

みんな、なにかしら罪を背負って
なにかしら悪いことも考える。

みんなが
毎日やり直し
毎日踏みとどまっているんだ。

こころより信用できるもの。

こころより信用できるもの。

きつねはなんだか
すべてがつらくなってしまった。
すべてが悲しくなった。
素敵なものから逃げたくなるくらい。

でも、きつねはこころのことを
あまり信用していなかった。
元気に動く加湿器の方が信用できた。
きつねは加湿器やガスコンロや
明るい電球のことを考えながら
こころと身体を暖めた。

失っても、こころが忘れても、身体に残っている。

失っても、こころが忘れても、身体に残っている。

子ぐまが訊いた。
なにも残らない。
生きることは悲しいこと?

クマが答えた。
そうだね。
ただね、近しいひとが
花を飾っていたこと、旅先の朝の匂い。
美しいもの。
きみの身体に残っている。
それが、ふとした時に
仕草に、習慣に、言葉に出てしまう。
生きることは
悲しくて素敵なことさ。

新作「おまもりの森」のCDについて。

新作「おまもりの森」のCDについて。

ふじやしおりさんの作品は、初めて「暗闇の森、その先のちいさな町」という展示を見た時から、しんとした冷たさ、やすらかなおもたさが、わたしにとってはかけがえない。

一緒に、「すみれ詩集」「野うさぎ詩集」とつくらせていただき、「ドライアド」の撮影の時は、しおりさんがよく行く森でふたりで無心で、木の実や花を集めて飾ったりしていた。僭越だが、性別、年齢などあまり関係のない〝森のともだち〟のような気がする。

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きみが映画監督ならどんな主人公がいい?

きみが映画監督ならどんな主人公がいい?

神様がきつねに訊いた。
きみが映画監督ならどんな
主人公がいい?
きつねが答えた。
なんでもできるひと、
きれいに暮らしておおらかで
みたいなのはウソっぽいな。
カリカリしてしまって
反省して大根が美味しく炊けたら
うれしくなるみたいな主人公かな。
神様が言った。
それはきみだね。