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2021年7月の記事一覧
生ききってもいないのに、それを悲劇で語ってはいけない。
ゴッホが最期に歩いた道を
歩いたことがある。
ピストルを自分に打ってから
歩くにはかなりの距離だった。
感じたのは
不運や悲壮でなく
生命力とあたりの花と光の美しさ
だった。
生ききってもいないのに
それを悲劇で語ってはいけない。
未だ生ききっていないのに。
夏の花を見上げながら、涙を乾かした。
きつねは
夏の花に言った。
おれはやっぱり
ときどきだめなんだ。
治らないのかもしれない。
あまり好きになれない。
でもやっていくしかないんだろうな。
きつねは見事な薄ピンクの
夏の花を見上げながら
涙を乾かした。
誰でも夏の小径を通って生まれてくる。
ぼくたちは
どうやって生まれてきたの?
子ぐまが訊いた。
クマが答えた。
ぼくたちは誰でも
夏の小径を通って
この世にやってくる。
夏がなんだか懐かしいのは
そのせいさ。
ぼくたちはまぶしがり
あせをかき
泣きながらやってきた。
だから今日も
同じように。
聴かれなくなった言葉の博物館。
旅人はみずうみのそばで
博物館を見つけた。
主人が言った。
ここは聴かれなくなった言葉の
博物館だよ。
古い譜面に滲んだ言葉。
夜の灯台たちの言葉。
貿易風にそよぐヒナゲシの言葉。
葡萄畑で朽ちてゆく古城の言葉。
湖面の青白い朝靄の言葉。
みんなわかる言葉しか
聴かなくなってしまったね。
自分が運命を受け入れる音。
世界の果てのマナーハウスで
旅人は音に耳をすました。
夜の鳥のまぶたのまどろみの音。
森が冷えてゆく音。
地下水がしみこむ音。
土を裂いて伸びる新芽の音。
空で星座が移動する音。
闇が夜明けに負ける音。
すべての樹液が固まる音。
みずうみが真冬の氷を思い出す音。
自分が運命を受け入れる音。
汚れては磨くシンクのようにやってゆくしかない。
土用の丑の日が近いのと
母が好きなので
うなぎにした。
朝から漬けていた
漬け物。
つくってみた
なすの煮浸し。
お吸い物には
庭の三つ葉を。
家族で食べた。
潔癖な人生ではない。
でも汚れては磨く
シンクのように
やってゆくしかない。
デザートに昨日つくった
マンゴープリンを出した。
嵐はフラスコから逃げたまま。
乾いた夜風の上を
山猫はすべるように駆けた。
すべてのホタルブクロは
冬を宿していた。
飛行船からしまりすたちが
金木犀の香りを月光のように
まいた。
半島の一軒家で
空っぽの作曲家が
ピンクグレープフルーツと
葉っぱと生ハムを和えて
パルメジャーノをかけた。
嵐はフラスコから逃げたまま。
気をつけて生きてはじめて普通になる。
大阪のおばちゃんねこが言った。
整体のセンセが言うてはった。
ひとの姿勢は適正な姿勢ではない。
歩き方も適正な歩き方ではない。
ほっとくと肩が凝る。
歩いてると疲れてる。
つまり人間はもともといびつやねん。
気をつけて生きて
はじめて普通になる。
ま、ねこやから
知らんけど。
本日のインスタライブ。
本日17時30分からのインスタグラムライブ
urlはこちらになります。
コトリ花店さんに
籠いっぱいにうたをもってゆきます。
いろいろな果物をつまむように
お聴きいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
🧺🍒🍏
世界がひとつくらい地獄でもかまわない。
この世界は地獄?
子ぐまが訊いた。
クマがこたえた。
まあ、そうだね。
その世界はね。
ただ、世界っていくつもある。
魔女と睡蓮ホテルと眠れる森と
野うさぎの森、すみれの隠れ家。
ベーカリーとお菓子のピクニック。
ロマンティークな赤いりんご。
世界がひとつくらい地獄でも
かまわないさ。