【まくら✖ざぶとん】⓺⓪『泥棒市』
さあ節目のゼロ目の回こと記念すべき六十席目、愚痴漫談の女流噺家に言業師のトコザワ、それにメディア論をぶちあげる学者肌と高座にかかる小噺の種類が増えてはきたが、シリーズ物も続けてかにゃならぬってことで、いつぞや鍵師の親父から泥棒としての薫陶を授かった子供の十年後日譚。
家から家へ侵入するお家芸たる空き巣に手を染める少年はまだ二十歳前の泥坊主、盗んだ物を持って出かけたのは泥棒市。右も左も盗品、盗品、また盗品が右から左へ取引される泥棒の泥棒による泥棒のための闇市だ。出品者は〈金で買えない物にこそ価値がある〉ことを肌で知る気高き泥棒たち。
金目の物だけを盗む泥棒は三流、銭ゲバの黒い金しか盗まない泥棒は二流、画家の絵筆に大工の鉋(カンナ)、料理人の包丁…一流の泥棒は金品らしい金品にゃ目もくれず持ち主の魂を宿した道具に目を利かす。どこか綺麗事じみちゃいるが、他人が大事にしている人生の断片を血も涙もなく盗む泥仕事。
取引は物々交換のみの〈わらしべ盗者〉。交換相手が盗んだ張本人とも限らなければ、心眼でもって真贋を見抜くのも目利きのうち。目利きができりゃ口頭での交渉も不要、言い値は言い値でも交換なら値段もなければ言葉も要らないからいいね、泥棒同士が「それいいね」と共感したら交換こ。
泥坊主が泥棒市に持参した盗品は、テープの巻かれたグリップ部分に素振りに次ぐ素振りの跡が滲んだ〈野球少年のバット〉。そのバットを一振りした打球が空に描く虹のごとき放物線…を連想して「いいね」と思った老泥棒の盗品はといや、きこりが斧を落とした池から出てきた〈銀の斧〉。似せ物の贋物、紛い物だったとしても次の交換にゃ困らなそうなので取引成立。
てなわけで〈バット〉⇒〈銀の斧〉がはじめの一歩、〈銀の斧〉が何に換わるかは次回のお楽しみ。兎にも角にも〈わらしべ長者〉と〈金の斧・銀の斧〉はむかし話におとぎ話、泥棒市のしきたりを盗んでこのまくらも物語と物語の物々交錯だったって泥棒オチで、ここはひとつ。
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!