【まくら✖ざぶとん】㊱『鍵師のせがれ』
えー、秋は泥棒が増える、なんてことが巷じゃまことしやかにささやかれているもんですが、一口に泥棒っつっても掏摸(スリ)にはじまり万引きや置き引き、荷抜きに車上荒らしにと多岐にわたり、ここまでに挙がってないのは空き巣、秋だけに空き巣が増えるってわけだかどうかは知らないが、郊外のタワーマンションの下にふらりと現れたのは親父と男児の二人組。
実の父子が装うのは親子ではなく住人、買い物帰りの夫婦に遅れてエントランスに入っていって「こんにちわ」、子連れだってんで警戒を解かれるなり軽快な足取りでオートロックを通り抜け、エレベーターで高層階へ。
下界を離れれば離れるほど警戒心は薄れるもの。きゃっきゃうふふと駆け出した息子、玄関前に置かれたラグマットをめくっては観葉植物の鉢植えを持ち上げ、石の裏の虫を探すかのごとくスペアキーを見つけ出す。
鍵さえ有ったら合法侵入、とばかりに音を立てぬようあっさり開錠、人がいようがいまいが「ただいま」と扉を開けるところまでは子供のイタズラ、留守と知れてからは大人のイカサマ。親父の生業が鍵師とくれば錠前を開ける腕前は一人前でピッキングも朝飯前だが、無防備に付け込んでこそ泥棒。
家に入れば親父は居間で過去探り、息子は勝手に盗み食い。盗人猛々しく盗るものも盗り敢わず半時間ほどゆったり過ごすのは盗人にも三十分の道理、他人の家に忍び込んだ緊張感に高揚感と焦燥感に慣らすため。
鍵を開け、物を盗り、家を出る。その間に一瞬たりとも慌てない平常心を保つのが泥棒の心得。もとより鍵師と泥棒は表裏一体、法を学べば検事か弁護士に分かれるがごとく、鍵を覚えれば鍵師か泥棒になるほかなし。
「金庫なんか触ったこともないね」と嘘つけば泥棒のはじまり、
「金庫なんか破れないことないね」と正直いえば鍵師のおわり。
蛙の子は蛙ではなく御玉杓子、鍵師の子は鍵っ子ではなく泥坊猫ってわけで、防犯意識欠如の警告と防犯意識向上の啓発を兼ねたダイイングメッセージよろしき暗号をダイニングテーブルに残して「さようなら」。
N
↑
E← →W
⚠ ↓
S
落ちは下のほうに落としておくので解けた方は「いってらっしゃい」!
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「東南(盗難)注意!!」
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!