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ゴッホの魅力−聖地をめぐる−

非常に天邪鬼だった中学生のとき。
周りが「良い」というものを素直に「良い」と思えなかった私は、ゴッホのこともあまり好きではなかった。

展示の度にあまりに多くの人が駆けつけているので、日本での人気が高いのだな〜くらいの印象だったのだ(今思うと生意気なのだけれど……)

しかし高校2年生で訪れたフランスオルセー美術館で、そんな私の絵画やゴッホに対する価値観を丸ごとひっくり返してしまうような出会いがあった。

駅舎を改装したオルセー美術館は、印象派作品が多く収蔵されているのだが、当時まだ印象派初心者だった私は当てもなくフラフラと歩いていた。

すると、絵の前の空気がほかとは全く異なる絵画を発見。

それが、ゴッホの「星月夜」との出会いである。

ほとんど反射的に涙が出てきて、しばらく動くことができなかった。絵画に特別な感情を抱いたのはそれが初めてだったと思う。

恋に落ちた感覚が近いけれど、電撃が走るなんて表現すら生ぬるい。 生涯を共にするとか一緒にお墓に入るとか、そういうレベルの衝撃だ。

そして次の瞬間思った。

ここはフランス。
一緒のお墓に入れないにしても、

お墓に行くことはできるのでは?

そう思って調べてみると、パリから少し離れるが、ゴッホが最期を過ごした街にお墓があるらしいことが判明。

行くしかない
(行動力の鬼)

たどり着いたオーヴェールは、とても長閑な街で、観光地のような雰囲気や賑やかな様子はなかった。

ゴッホが描いたオーヴェールの教会は今も静かに佇んでいて、中には誰ひとりいない。

ゴッホのお墓の隣には、弟テオのお墓が仲良く並んでいる。

ゴッホがピストル自殺を図って、亡くなるまでを過ごした家へも足を運んだ。

家といっても1階はレストラン、2.3階は宿泊室だった建物で、現在もレストランは営業しており、ゴッホの住んでいた部屋を見学することができる。

ゴッホがどのような人生を送りここでどのように過ごして亡くなったのかを、スタッフさんがとても親身に話してくれた。

ゴッホは終始「奉仕」の道を選んできたが、どれも上手く実ることはなかった。
画家を目指すことになってからは画商の弟テオに生活費や画材費を賄ってもらっていたが、生前に売れた絵はわずか数枚。

日本の光に惹かれて移住した南仏アルルで始めたゴーギャンとの同棲も上手くいかず、かの有名な「耳切り事件」にも繋がる。
そのころから精神が不安定になり始めたゴッホは、この街オーヴェールの病院に通うようになり、順調に過ごし始めた兆しの中でピストル自殺をしてしまったのだ、と。

彼がいない空間で、初対面の人と彼の話をするというのは、大変不思議な時間だった。

同時に、ゴッホが最期を過ごした街をなぞったことで、ゴッホの人生の裏に潜む深すぎる孤独と愛の片鱗に触れてしまった気がした。

帰国後にあの絵について考えてみてわかったことがある。
あれほどまで強く「星月夜」に惹かれたのは、
絵画の技術以上に、ゴッホの深い孤独と壮絶な人生がにじみ出てしまっていたからだということ。
そして、彼の繊細すぎる人柄や、日本を愛した痕跡が、日本人を引き寄せ共鳴しあっているのだということも。

あの日から今まで、私はゴッホに関する展示や作品は隈なくチェックしている。


せっかくなので、ゴッホの魅力が伝わる作品をご紹介。

movie『ゴッホ 最期の手紙』
全編絵画の長編アニメーション映画。
もう、なんというか、ボロッボロに泣いた。
映像や音楽の美しさはもちろん、ゴッホの繊細さや感受性、名画の数々がとても丁寧に描かれていて、愛のこもった静かで暖かい作品。

『永遠の門 ゴッホの見た未来』
劇中の自然の色彩と音がとにかく綺麗な作品で、ゴッホの見た景色に触れられる。
ウィレム・デフォーの名演によって、そこにゴッホを見たような錯覚も。

「僕は未来の人々に向けて描いている。 人生は種蒔きの時であり、収穫の時ではない」

自分が存命中に広まらずとも、いつか世に理解される日を信じて己のスタイルを変えなかったゴッホ。
そんな彼が望んだ光が、今の時代には痛いほど輝いている。

book『たゆたえども沈まず』

comic『さよならソルシエ』
こちらは日本の漫画で、弟のテオが主人公のストーリー。
漫画なので美化や脚色はもちろんあるけれど!それでも、兄弟ふたりの関係性や愛の深さが伝わってくる作品。


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