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自信のない会社員が、Webライターのゼロイチを達成した話

口下手が邪魔をして

「あれ、誰もいないの?」
わたし一人残されたフロアに、むなしく響く社員の声。
がっかりしながらUターンする社員に向かい、あわてて伝えたつもりだった。
(わたしが聞きますよ)
なぜか声にならない。
遠ざかっていく足音を聞きながら、今日も自分を責めてばかり。
どうしてこんなに口下手なんだろう……。

小さな会社の総務部に転職して2年。
周囲の助けもあり、事務作業は難なくこなせるようになった。
なのに不安が募るのは、この2年で総務部に最も必要なスキルが分かりかけていたから。
それはコミュニケーション能力。

“頼られてナンボの何でも屋”という総務部の印象は、小さな会社ほど濃いように思う。
つまり総務部に求められるのは、人当たりの良さ。
わたしにはそれが欠けていた。

学生の頃から会話が苦手だった。
社会人になると悪化する一方で、どうにも会社になじめない。
わたしはただ、普通に会話して、普通に仕事がしたいだけなのに。
請求書の整理をしながら、さっきのセリフが脳内を巡る。
「あれ、誰もいないの?」

誰も……。
あの人の目に、わたしが映る日は来るのだろうか。

Webライターとの出会い

総務部に違和感を抱いたところで、アピールできるスキルは何もない。
転職する勇気など持てるはずもなかった。
口下手でも社会に貢献できるスキルがほしい。

“話し 苦手”

どんなワードで検索したのだろう。
偶然ヒットしたブログが、わたしを変えた。

管理人は会社員から未経験でフリーライターに転身した女性。
フリーランスという自分らしい働き方を実現できた、とある。
クリックとスクロールを繰り返し、彼女の価値観にどんどん引き込まれていく。

フリーランス。
縁のない世界だと思っていた。
会社員以外にも働く選択肢があるなら、わたしもそっちを選びたい。
いや違う。彼女だからできたのだろう。
交錯する思いは刺激的で、なんだか楽しくなってきた。

”フリーランス ライター 在宅ワーク”

検索する手を弾ませながら、わたしも書くことは昔から好きだったなと思い出す。
まずは書く習慣をつけてみようか……。
ブログを始めるまでに、時間はかからなかった。

思うように書けない

文章に慣れてきたら、次のステップに進もうと考えていた。
しかし現実はトントン拍子に進まない。
働きながらブログを書くのが、こんなに難しいものだと思わなかった。

平日がダメなら、休日集中で取り組むしかない。
十分な睡眠をとり、迎えた日曜の朝。

時間はたっぷりある。
よし、今日は書くぞ!
カタカタとキーを叩く音が、普段よりも大きく響く。
誰にも気を遣わず、在宅で仕事ができる日を夢見てわたしは興奮した。

しかしその割には、画面に並ぶ文字のなんと少ないことか。
2行打っては1行消し、3行打っては2行消していたのだ。

書けない……。

完全に思考停止したわたしは、他人のブログを読みあさっていた。
どれもボリューム満点でおもしろい。
たっぷりあった時間があっという間に過ぎてしまったことにも気づかず、猫背でひたすらスクロールを繰り返した。

自信に満ちあふれてカタカタやっていた朝がなつかしい。
窓の外が暗闇に包まれてきた頃、たった3行の文章を保存してブログを閉じた。

無謀な挑戦への恐怖

それでもなんとかブログを書き続け、少しずつ記事が増えてきた頃。
友人と久々に会いランチを楽しんだ。

資格を持ち、専門職として10年以上の実績を誇る彼女はわたしにとって憧れの存在だ。
そんな彼女は職場内で悩みを抱え、退職も検討しているという。

「でも独立はリスクが大きいから」

なかなか決断はできないよね、とあきらめたように笑った。
理路整然とした彼女の思考に触れ、内心恥ずかしさでいっぱいだった。
フリーランスを目指しているなんて言えない。

実績とスキルを十分に備えた彼女ですら慎重なのに。
何もないわたしが、なんて無謀な挑戦をしようとしているのだろう。
そもそも会社員が務まらないなら、何をやっても無理なのでは……?

自己嫌悪が止まらない。
帰宅する頃には、食事の味など忘れていた。

ライティングスクールの受講

肩身の狭い会社員生活は続く。
友人の言葉で現実に引き戻されたものの、会社員以外の働き方への憧れは消えなかった。

そんな時、偶然目にしたライティングスクールの無料体験案内。
スクールの信頼性は、卒業生の確かな実績が物語っていた。

無謀な挑戦はあきらめなければと、ブラウザの”閉じる”ボタンにカーソルを合わせる。
すると1枚の写真に心をつかまれた。
それは講師がリゾートホテルでパソコンを開いている写真
押し込めていた思いがあふれ出るままに、ブックマークの一番上に保存した。

翌日から、スキマ時間を使って講師のnoteを読み尽くした。
写真を見れば、空想のリゾートホテルへたちまちワーケーションへと旅立てる。
想像の中に、口下手で臆病な自分はいなかった。

「好きな時に、好きな場所で、一生モノのライティングスキルを活かして働く」
講師の熱い思いは、うまく言語化できなかったわたしの理想そのものだ。
がんばれるかもしれない。

数日後。
固い決意を胸に、思い切って上司に伝えた。
「退職させていただきたいです」

Webライターデビュー

スクールに入学したわたしは、ライターとして収入を得るためのロードマップを学んだ。
そしてデビューの日。

応募、打ち合わせ、リサーチ、構成……。
どこを取ってもドキドキだらけ。
慣れない作業に時間がかかり、セルフブラックに陥った。

つらい。
不安でいっぱいになりながら、何とか提出。

「高品質な記事で助かります」

クライアントからの言葉にほっとして、涙が出た。

初収入が振り込まれた瞬間ではなく、誰かの役に立てたと分かった瞬間。
それが、ライターデビューにおける一番の喜びだった。

こんなわたしでも、社会とつながっていられる。
返信を打つ手は高揚感で震えていた。

口下手が挑む、ものかき上手への道

ライターデビューを機に、ブログにも集中して取り組んだ。

複数のキーワードで検索上位を獲得し、月間PV数も4桁に安定。
一流ブロガーと比べたら残念な数字だけど、長らく2桁だったわたしにとっては信じられない成長だ。

SEOライティングのスキルを習得し、口下手でも働く自信を身に付けられた。
チャットを通してクライアントと良好なコミュニケーションもとれた。

社会とのつながり方は、会社だけではない。
会社になじめなくても、社会不適合者だとあきらめないでほしい。

そんなメッセージを伝えられるライターになることが、わたしの夢。

口下手が挑む、ものかき上手への道はまだ始まったばかり。

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