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個性豊かなカカオ豆、その上流を探る──meiji THE Chocolateの香味の秘密 #5

「Bean to Bar(ビーントゥバー)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。チョコレートの原料であるカカオ豆の選定から製造まで自社で一貫して行うスタイルを意味するこの言葉は、チョコレートマニアの間では多く知られています。

では、「Tree to Bar(ツリートゥーバー)」「Farm to Bar(ファームトゥーバー)」という言葉はいかがでしょうか。明治が目指しているのは、カカオの木の栽培をする農園からチョコレートをお客さまに提供するまでの全行程を一貫して手掛ける「Farm to Bar」。今回は、カカオの個性を最大限に引き出し、持続可能なカカオ作りの未来に貢献している明治の研究についてお話します。

「FARM」から「BAR」に至るまでのイメージ

植物としてのカカオを深く理解する

カカオは南緯20度から北緯20度の間の国で生産されています。年間平均気温27度、年間降水量1500ミリ以上という、高温多湿の限られた環境で生育する植物です。

#4でお伝えしたように、カカオの品種は大きく4つの品種系統に分類されますが、実際にはそこからさらに細かく分類できます。2008年頃から、遺伝子解析による品種分類の研究が進んだ結果、10の遺伝子グループに分類された研究事例が報告されています。カカオは遺伝的多様性を持つ植物なのです。

品種だけでなく、栽培方法や発酵・乾燥方法も千差万別です。一口に「カカオ農家」といってもそのやり方はそれぞれの国や地域、農家よって異なります。カカオ豆の香味や色、健康機能を引き出し価値の高いカカオ豆やチョコレートを作るためには、生産者や研究機関、大学とともにカカオ木やカカオ豆に関するさらなる知見や研究データを新たに獲得していかなければなりません。

明治は2006年からカカオ生産者と協力し、15年以上の月日を重ねて、現状の「meiji THE Chocolate」のラインナップであるナッティ、フルーティ、フローラル、スパイシーという4つの香味を引き出してきました。カカオ豆の発酵・乾燥のプロセスの分析により、科学的に何が起きて、それがどのような味をもたらすのかに関してデータを獲得できたのは大きな成果。これがmeiji THE Chocolateの商品化、明治のチョコレート全体の品質向上につながっています。

国内研究用のカカオポッド(日本・東京)
国内での研究の様子

“明治のカカオ”をどう守り、育てていくか

カカオの木からチョコレートをお客さまに届けるまですべての工程を手掛ける──。明治が推進しているのはこの「Farm to Bar」です。

ちなみに「Tree to Bar」は、すでに成長したカカオの木からカカオポッド(カカオの果実)を収穫し、カカオポッドから果肉に包まれたカカオ豆を取り出し、発酵・乾燥させたカカオ豆をローストし、粉砕してチョコレートを作っていく、というスタイル。「Bean to Bar」から「Tree to Bar」、そして「Farm to Bar」になればなるほど、最上流の「農園」に近づいていくわけです。

明治が携わっているカカオの木

「Farm to Bar」を追求するためには、カカオの木の品種や栽培方法、栽培環境にまで踏み込んだ研究をしなければなりません。その上で非常に参考になるのが、カカオと同様に果樹であるブルーベリーをモデル植物とした研究事例です。この研究事例では、ライフサイクルを短縮して収穫を年2回に増やし、高密度栽培(より精密な環境制御)により結果量を増大させることで、ブルーベリーの収穫量が通常の栽培と比較して4〜5倍になります。

カカオにおいても成長を促進する新たな技術を開発し、収穫量2倍化を実現すること。それが現在の目標です。生産性が上がればカカオにとって、産業的なインパクトが大きいことは間違いありません。

もう一つ、カカオの特性を深く理解し、遺伝子分類でのカカオの品種系統を守ることも重要な課題です。カカオはカビなど菌の病気にかかりやすく、結実率が低い繊細な植物。栽培には非常に手間がかかります。しかし、価値の高いカカオ豆を作り続けるためには、カカオの品種系統を守り、未来につなげていくことが大切です。遺伝子分類で貴重なカカオを見極め、カカオの生体生理特性から収穫量を増加する技術で栽培し、収穫したカカオ豆の発酵・乾燥を最適な方法でコントロールできれば、従来よりも価値の高いカカオ豆やチョコレートを作ることができるはず。明治は現在、スモールスケールでこの実験を進めています。

受粉から2週間ほど経過したカカオポッド

奥深いカカオの魅力を伝えたい

明治の最終的な目標は持続可能なカカオ作りにあります。

日本から遠く、政治的に安定しない産地も多い中で、その目標を達成することは容易ではありませんが、価値の高いカカオ豆やチョコレートを作り、カカオ豆やチョコレートを食べる幸せを提供し、その対価によってカカオ生産者の生活の向上や安定に貢献することを目指しています。このサイクルを長い期間にわたって、健全に循環していくことが明治の使命です。

チョコレートは人の気持ちにアプローチできる食べ物。気持ちがワクワクしたり、楽しくなったり、リラックスできたり、ポジティブな気分をもたらしてくれる食べ物はそう多くはありません。

そんなチョコレートの元となるカカオには多種多様な品種があり、多様なチョコレートの味わいをもたらしている、実に奥深い魅力を持った植物です。商品を通してその魅力をお客さまにも伝えていくことが、最終的にカカオの作物価値を高め、持続可能なカカオ作りの未来に貢献できるのではないか──明治はそんな思いで、日々の研究に取り組んでいます。


次回は、これこそが明治の誇るカカオ豆、「スペシャリティカカオ豆」について深掘りします。

そのほかのザ・チョコの“香味の秘密”シリーズはこちら

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