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映画『ベイビー・ブローカー』(2022)の感想

映画館で『ベイビー・ブローカー』を観てきた。お客さんの入りは7割ぐらいといったところだった。

監督・脚本は是枝裕和、ソン・ガンホ、ペ・ドゥナ、カン・ドンウォン、イ・ジウン、イ・ジュヨンらが出演している。製作は韓国である。

この映画は奇妙に明るい。それは、やはり、出演している赤ちゃんに支えられていると思う。乳児がこれほど出ずっぱりの映画も珍しい。その乳児をソン・ガンホ、カン・ドンウォンを中心にケアをし続ける様子は、何とも微笑ましい。

『万引き家族』が、喉から手が出るほど家族が欲しかった人たちの物語だったとしら、『ベイビー・ブローカー』の人たちは、家族に欠落を抱えている人たちが、思わぬところで、疑似家族的な関係を結ぶ、という期間限定であることが、互いに承知の上で進む物語だった。

さらに対照的なのは、『万引き家族』の家族は、家族の終わりを予感しながらも、終わらない日常を過ごしていた。『ベイビー・ブローカー』は、ロードムービーで非日常の中にいて、どこに着地するのかといった問題が焦点でもあった。

自分で作った家族を壊してしまった人、家族に捨てられた人、家族に対して満たされない思いを抱えている人は、山ほどいる。

占い師に「ご家族とうまくいっていないようですね」と言われても驚いてはいけない。万事うまくいっている人などいないのだから、必ず「当たる」のだ。

ただ、『万引き家族』の暗さや切実感と比べると、しっくりこない感じもある。それは、是枝監督のフランス映画『真実』にも感じたことである。何というか、外の人間は、その国の人間や文化が抱えている底知れない闇がわからない。短い時間では知ることができない。ある種のユニバーサルな描写になっている感は否めない。

子どもを捨てることを予定している母親の行動が読めない。それはブローカー、追跡している刑事たちも感じていたことだ。

しかしまあ、人間が人間を作れてしまう、というのは、すごいことなのだと改めて思う。わたしの頭や手で作れるものは、たかが知れている。人を一人作ったら、世界は一変してしまう。

捨てるなら生むな、とは思わない。捨ててもいい、とも言わない。ただ、そこにある命は、生きている人たちで何とかしなければならない。その現実に対処しようという結末には救いがある。信頼するに足る社会と人間が描かれていた。それを「甘ったるい」と評する人々の心の何と寒々しいことか。この映画の結末を「あり得ないことだ」と感じる人々の生きている社会とは、どんなに悲惨で残酷な場所なのだろう。そして、残念ながら、わたしもその一員であるような気がするのだ。

(そういえば、冒頭と終盤は『パラサイト』感もあったなあ)

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