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2023年 年間映画ベスト10

年末にすべき企画を年明けにやってしまう段取りの悪さはさておき(笑)、2023年は89本の映画を映画館で観た。年間100本ぐらいを映画館で鑑賞したいと思っていたが、現在の職場は通勤に時間が取られるため、退勤後に行くのは現実的ではないことがわかった。

2024年は年間50本ぐらいが限界かなという気がしている。映画館は滋養を摂取する場所であり、居場所でもあるので、つかず離れずでやっていきたい。

副次的な恩恵として、映画で得た外国の文化的な知識が、生活の中で急に「ああ、そういうことだったのか」と繋がったりするので、馬鹿にできないと思っている。

さて、2023年の映画ベスト10をご紹介。基本的には映画館で鑑賞したもので、配信で観たものは含まれていない。


2023年 映画ベスト10

第1位 『ポエトリー アグネスの詩』(2010)

しょっぱなから、2023年公開作品ではなく、2010年公開作の4Kリマスター版を1位にしてしまって申し訳ない。

この作品を観るまでは、イ・チャンドンに心酔している人を醒めた目で見ていたのだが、わたしも見事に心臓を射抜かれてしまった。イ・チャンドンはすごい。帰りの電車の中で号泣したのも、いい思い出。

第2位 『TAR/ター』(2022)

ケイト・ブランシェットは映画館で観たい、観るべき大スターだと思う。『TAR』は、天才的な指揮者である女性が権力を持ち、自分の権力をコントロールできず、被害者を生み出し、零落するという、近未来の世界が描かれている。現実の現代女性はいまだにパワーがないのでターのようにふるまうことはできないのだが、パワーを持つことができたとき、それをうまく扱える人はそれほど多くないし、女性がパワーを持ったときの周囲の怨嗟は男性の比ではない。弱者であるべき、とされているカテゴリに対するステレオタイプは強固なものだ。

剛腕であっても、何の違和感もないケイト・ブランシェットがやっぱりすごかった。

第3位 『聖地には蜘蛛が巣を張る』(2022)

イランで実際に起こった連続娼婦殺害事件をモチーフにして脚本が描かれている。監督のアリ・アッバシはイランで映画が撮れず、国外に住んでいる。アリ・アッバシ監督の「ミソジニーは学歴、文化的な教養、所得の多寡、階層や階級、性別に関わらず、どこにでも存在している」という指摘には、思わず肯いてしまった。

女性の「内なるミソジニー」は、グレタ・ガーウィグの『バービー』の作品内でも指摘されている「男も女も、女が嫌い」という身も蓋もない台詞があった。

おそらく人間は弱者や貧乏人が好きではなくて、女性は身体的に暴力にさらされやすく、経済的弱者にもなりやすい。だから、みんなが嫌うのだろう。そして、自分自身を忌ま忌ましく思ったりしてしまう。女性嫌悪を内面化してはいけない。特に女性は、女性であるがゆえにそれに苦しむことになる。だから、「女性嫌悪(ミソジニー)」という文化が存在していることを知っておいたほうがいい。まずは、客観視することが大事。十代の人に、特に知っておいてほしい。あなたがあなたに苛立つのは、あなたの責任ではないかもしれない、ということを。(こんな文章が書きたくなるなんて、わたしも年を取ってしまった笑)

第4位 『青いカフタンの仕立て屋』(2022)

駄目な夫が可愛くてたまらない、という妻と、妻に愛されることに安心しきっている夫という、夫婦を描いた映画。夫の「甘え」と妻の「赦し」がセットなのは、よくある脚本だが、夫が妻に報いようとするラストで号泣してしまった。きっと世界のどこかには、このような夫婦がいるのだろうと思わされた。

第5位 『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2022)

本作は自己決定権を奪われ、人生で選択をしたことがなかった女性たちが、自分で自分たちの行く道を決める物語だ。徹頭徹尾フェミニズム映画で、彼女たちの未来が明るいものであるとは限らない、という余韻が強く印象に残っている。前途多難、苦しいことが待っているとわかっていても、その道に進むことを決める。自らの自己決定権を奪い返す物語でもあった。自分で決められない人生は、やっぱり苦しいものだ。

第6位 『怪物』(2023)と『CLOSE クロース』(2022)

双子のような、設定が似ていた作品としては、是枝裕和監督の『怪物』とルーカス・ドン監督の『CLOSE クロース』である。

わたしたちは生殖によって生まれ、繁殖してる。人口増加は経済発展をもたらす。世界の人々は新たな市場として、インドに夢中である。

しかしながら、我々は生殖と経済のためだけに生きているわけではない。生殖を忌避することも犯罪ではないし、持って生まれたセクシャリティを肯定することには何ら問題はないはずなのだが、社会の制度は、個別対応してくれない。効率の良さだけで語っていると、自分がマジョリティでなくなったとき、苦しむことになるだろう。「多様性とかポリコレが鬱陶しい」とこぼす人たちは、己の特権性に無自覚であることを自覚してほしい、と思う。

第8位 『逆転のトライアングル』(2022)

世界の富豪たちが豪華客船でゲロと汚物にまみれる、監督のあまりに皮肉な視点に痺れた。映画冒頭の「バレンシアガの無表情、H&Mの笑顔」については、いまだにふと思い出してしまう。高級ブランドはわたしだけのもので、大衆的なブランドはみんな一緒! となるのだ。

第9位 『母の聖戦』(2020)

メキシコのマフィアにとっては、誘拐が一番儲かる商売で、証拠隠滅のため、被害者は帰らぬ人になる、という現実には驚かされた。近所の人は内通者だし、警察も信用できないし、どうすりゃいいのよ。

第10位 『君は行く先を知らない』(2021)

『リトル・ミスサンシャイン』的な要素もありながら、別離を控えた家族の悲しみが詰まっている作品で、弁舌が達者な子役の演技が素晴らしかった。

2023年 映画感想文アクセス数 ベスト3

第1位 『コロニアの子供たち』(2021) 869ビュー
第2位 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)  667ビュー
第3位 『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2022) 582ビュー

マリオは最高だった。キノピオの動きと表情があまりに可愛くて、Blu-rayまで買って、一時期、繰り返し見ていた。『キノピオ隊長』まで買おうとしたが、時間がないと踏みとどまった。

特典映像の監督インタビューを見ていたら、「キノピオのモデルはうちの犬。5分離れていただけで、5年ぶりに再会したみたいに喜ぶから、超かわいい。キノピオのキャラクターはそこから着想をえました」と言っていて、なるほどと思った。映画の中のキノピオって、痛い目にあっても、結構、すぐに切り替えるし、転んでも、立ち上がるときに顔がにこにこしていて、異常に前向きだった。そうか、監督のうちのワンちゃんがモデルだったのか、と腹落ちした。

(わたしが買ったときの半額以上、安くなっている。配信が始まったからか。ショック!)

2024年に観たい映画は『オッペンハイマー』

何はともあれ、クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』である。公開が決まって良かった。楽しみだ。

公開を待ち遠しく思う気持ちも大事にしたいし、何の気なしに観た映画で感動するのも、すごく得した感があっていい。だから、数当たっていくのも大事。最近は地雷映画を避けるのもうまくなってきた。

まあ、それは正直なところ、Rotten Tomatoes(ロッテントマト)のおかげである。批評家と観客のレビューの両方の満足度が高ければ、間違いなく面白い。批評家だけ高くて観客の点数が低い作品も、まあ大体問題ない。その逆も然りで、観客の評価が高くて批評家の評価が低い作品も大丈夫。ヤバいのは、トマトがつぶれ、ポップコーンがこぼれているやつ。あれは絶対に観に行ってはいけない。

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