#映画感想文215『逆転のトライアングル』(2022)
映画『逆転のトライアングル(原題：Triangle of Sadness)』(2022)を映画館で観てきた。
監督・脚本はリューベン・オストルンド、主演はハリス・ディキンソン、ほかにチャールビ・ディーン、ウッディ・ハレルソン、ドリー・デ・レオンが出演している。
2022年製作、147分、スウェーデン映画。
映画内の言語は英語である。
ちなみに本作は第75回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞している。
この映画は格差社会における特権階級の傲慢さを痛烈に皮肉った作品だが、通底している問題は、お金（経済）である。
本作は三部構成で、第一部はそんなに売れていないモデルのカール（ハリス・ディキンソン）と売れっ子モデルのヤヤ（チャールビ・ディーン）が主人公。
男性モデルのギャラは女性モデルの三分の一。ヤヤは売れっ子モデルで、ファンからの歓声も飛ぶ。しかし、食事に行けば、カールが奢らなければならない。彼は「ジェンダーロールに縛られず、君がご馳走してくれたっていいじゃない。それに昨日の夜、君は奢るって言ったじゃないか」と、文句を言い始める。ヤヤは「お金の話ってセクシーじゃない。あとでお金を返す。私のホテルに無料で泊まらせてあげてるじゃない」と反撃をされる。お金のことで、ヤヤを詰問するカールは大きな声を出して、身振り手振りが大きく、かなり粗暴な印象を与える。もちろん、彼は悪人ではないのだけれど、収入が少ないくせに、プライドだけは高い。要するに、男を立ててほしい、というやつなのだろう。
（会計は男にさせて、店を出てから女性が男に金を渡すという、どこかの国のクソみたいな文化を思い出した）
大喧嘩したのち、ヤヤはぶっちゃける。あなたが見た目がよくて、インスタ映えする彼氏だから付き合っているだけで、わたしが妊娠して働けなくなったら、わたしと子どもを養う能力もない。わたしがモデルを辞めるのはセレブ婚ができたときだけ。あなたはビジネスで収益になるから付き合っているだけ、それで問題はないでしょう？ と開き直る。二人はそのようなビジネスカップルとして関係を続けることになる。昨今、よく聞く話でもある。
第二部は豪華客船が舞台。この豪華客船の客はロシア人の武器商人であったり、人々の労働を搾取して贅の極みを楽しむ、ろくでもない奴らとして富豪が描かれている。ヤヤはインフルエンサーとして無料で豪華客船に乗船し、映える写真をカールに撮らせ、SNSにアップして、日々を過ごしている。ここでのカールは、おとなしくしているように見えて、ヤヤに話しかけてきた看板の清掃のイタリア人男性が気に入らず、客船のリーダーに告げ口をする。彼が解雇される場面を目の当たりにして、「まずいことをした！」という顔はするが、何も行動はしない。何というか、カールは人として優しくないし、自分の失敗を認めようともしない。
そんな中、海の天候は荒れに荒れる。船内で大富豪たちが豪華な料理を食べ、シャンパンを飲み干したのも束の間、船は揺れる。客はゲロを吐き続け、トイレの水が溢れ、船内は糞尿まみれになる。まさに地獄絵図。このシーンではデスメタルが流れる。そこに海賊がやって来て、船に手榴弾を投げ込み、豪華客船は転覆。何とか生き残った人たちは無人島に流れ着く。
第三部は無人島が舞台。生き残ったのは、カールとヤヤ、富豪のロシア人が二人、豪華客船のクルーのリーダーであった女性、男性スタッフのネルソン、脳に障害を持った女性、トイレの清掃係であったアビゲイル。
ここで活躍するのはアビゲイル。彼女は火起こしができ、魚を捕獲することができる。サバイバル能力があり、めちゃくちゃ仕事ができる。タガログ語訛りの英語で「ここでは私がキャプテンよ」と高らかに宣言する。鉄製の救命ボートも彼女のものとなり、彼女はスナック菓子を通貨のように使って、ほかの人たちをコントロールし始める。カールはアビゲイルの権力にひれ伏し、彼女と寝るようになる。プライドが高いくせに、実務能力もなく、権威には弱いので、やっぱり最低だった。
開かれたエンディングで、ここで終わるのかと驚いた。飽きることなく、二時間強の上映時間も気にならなかった。アメリカの国際政治に対する批判、戦争が一番儲かるビジネスであることを真正面から批判しているので、その痛快さもあった。
鑑賞後にびっくりしたのはヤヤ役のチャールビ・ディーンがすでに亡くなっているという事実であった。細菌感染症で亡くなってしまったのだという。人の生死というのは、本当に儚いものだ。
そして、金持ちが金儲けするために始めた戦争で死ぬなんて、やっぱり嫌なので、選挙ぐらいは行きましょうよ、と言い続けたい。
ちなみに原題の『Triangle of Sadness』は眉間のことを指している。
（H＆Mの笑顔、バレンシアガの無表情も、すごい皮肉だったなあ）
チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております！