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プロフィール
プロフィール千葉県在住のうさぎ飼い。主にウェブに生息しているウェブ小説文化が大好きな文書き。「緑の魔法と香りの使い手~女神からハーブ魔法を貰って転生した女子大生は異世界で喫茶店を開きたい」で第10回アルファポリスファンタジー小説大賞特別賞を受賞。同作を改題した「緑の魔法の香りの使い手」にてデビュー。
ハーブや喫茶店をこよなく愛し、喫茶店によく出没する。
アルファポリス :https://www.
令嬢改心3-8:執事ですが、魅力的な勧誘に困っています。
正直に言えば、その勧誘は魅力的であった。この六年の間の研鑽を発揮する場として、王宮という魔窟は相応しいと思えるからだ。それに、名家の令嬢に高く評価される事は使用人とし誇らしい。
しかし、私の脳裏に過ぎるものがあった。
――それは過去の光景。厩舎の中に逃げ込んだ、小さな主人の背中が震えている。
「お申し出は大変に有難いのですが、私にとって主人は一人ですので、お断り致します」
きっと人は私の判
令嬢改心3-7:突然のお誘いは困ります。
ドレスの件がようやく片付いたことで、いよいよヴィオレット様は逗留中のモルガーヌ侯爵令嬢と会わざる得なくなった。
此度の長逗留についてはあちらの突然の訪問が発端であるが……。
当のモルガーヌ様は、逗留中もここぞとばかり北方の地方貴族の夜会などに顔を出し、宮廷貴族の味方獲得に費やしていたようで、その抜かりのなさに舌を巻く。
大層のご活躍で何よりであるが、それはそれとして、長く待たせてしまった事
令嬢改心3-6:新しいドレス? ございます。
「……ヴィオレット様、本番も間近です。当日の着付けを考えれば直しに入らねばならぬ時期ですから、お諦め下さい」
「え、そんな時期なの」
ここしばらく、すっかり裁縫部屋となっているヴィオレット様の私室。
ドレスを解いた布だのレースだのが所狭しと並んでいるその部屋で、サビーネ様が終了の報せをヴィオレット様に告げた。
「はい。もう一週間前となっております。婚約式の後は最早公爵家の後継者として恥じない働
令嬢改心3-5 :ドレスをリメイクする現場は、悲鳴が上がっていました。
控えめなノックの音に、私が「失礼します」 と侯爵令嬢に断りを入れて扉を開けると、ヴィオレット様付きメイドがいた。
「一体なんですか、騒々しい」
「失礼致しますっエルネスト様っ! ヴィオレット様が……!」
メイドは私が扉を開けるなり、血相を変え口早に要件を告げる。その声は小さなものであったが、悲鳴めいた切迫した声が部屋の中にも聞こえたのだろう。
「あら、何だか騒がしいようね? わたくしは用事が済
令嬢改心3-4 迷惑娘の暴走と、好敵手の到来。(2/2)
私が客室へ向かうと開口一番。
「わたくしが唯一認める好敵手のヴィオレット様があんな小細工で貶められるというのも業腹でしたので、こうして遠路はるばる噂の真相を確かめに来ましたの。何でもヴィオレット様、子供返りなさったのですって?」
ソファにゆったりと座り、こちらを緑の目を細めて楽しげと見上げる賓客に、私は咄嗟に表情を取り繕えず睨んだ。
「あらあら、エルネスト。貴方いつもの美しい笑みが剥げてしまっ
c97新刊のとりおき始めました
トリオキニ、というサービスを利用して新刊のお取り置きができるようにしましたので、三日目にご参加なさる方はぜひぜひご利用くださいませ。
本の方届きましたが、むちゃくちゃ良い出来でして大変に嬉しいです。そして本作りってそうだよね大変だよね、というのをよくよく思い出したものでもありました……。
(ご協力頂きましたイラストレーター様やデザイナー様、印刷所様、一緒に走ってくれた文芸仲間たちによくよく感
令嬢改心3-4 迷惑娘の暴走と、好敵手の到来。(1/2)
ヴィオレット様が倒れる原因となった男爵令嬢が第八王子殿下を襲撃……もとい、追い掛けてきた次の日のこと。
私は殿下を見舞いに騎士団寮へと向かった。
そこは簡素な部屋だ。石壁には風除け兼飾りの掛け布もなく、大きな物入れと、小さな書き物机、そして硬いベッドと必要最低限の物しかない。流石に、直接肌に触れる寝具類は上質だが。
所謂一兵卒が充てがわれるような場所に何故王族がと違和感しか覚えぬ光景だが、
令嬢改心3-3 殿下の愛人(?) がやって来ました。
その日は、近づいてきた夜会に備えての準備を行なっていた。
場所は一階の大広間。私は黙々と夜会準備に関する資料を目の前の金髪の青年に説明する役目を果たしている。
「まあ、服装はこれでいいとしてだ。当日の警備なんだが……」
「警備の事なら兄……じゃない、ドミニク百人隊長が詳しいですよ」
ちなみにドミニクとは、我が兄の名前である。
「ふうん。じゃあ後でドミニク隊長に聞いておくか。献立はよし、式次第
令嬢改心3-2 静かな町の、職人の苦境。そして王子がお忍びで。
色々悩みは尽きない日々であるが、午後からは久々の半休だ。私は気分を切り替え、下町に降りて友人との待ち合わせ場所に向かう。
朝市の後の、寂しさを感じるような祭りの後にも似た静けさに包まれた大通りを過ぎ、薄暗い横道を入った所にあるのが、目的の大衆酒場だ。
土壁に突き出したジョッキを描いた看板を目印にドアを潜ると、すぐに声が掛かる。
「おう、先に一杯やってるぞ」
明かり取りの窓からわずかに差し込
令嬢改心3-1 夜会ドレス? 装飾品? 贅沢は敵と彼女は言った。(2/2)
「しかし、意外ですなあ。今までですと大人げない……いや失礼。正直過ぎる第八王子殿下をヴィオレット様が大人の態度で諌めるのが良く見られましたのに、こうもヴィオレット様が殿下の稚気……もとい、正直過ぎる気質を擁護されるとは」
ブリス殿、言いたい事は分かるが先程から本音が漏れ過ぎていますよ。ヴィオレット様の責めるような眼差しに、ブリス殿は視線を逸らすようにテーブルからカップを持ち上げるとお茶を啜った。
コミケ新刊の通販予約開始です!
フロマージュ様でコミケ新刊の予約が始まりました。
コミケには行けないけど本は気になる方や、別の日は参加するけど三日目は行かないんだよねー、という方なども、よろしくお願い致します……!
(店舗受け取りも可能だそうです。)
改稿頑張りましたし、おまけのコラムにも可愛い主従のイラストが載ってます。色々頑張りましたので、ぜひ……!
令嬢改心3-1 夜会ドレス? 装飾品? 贅沢は敵と彼女は言った。(1/2)
それはヴィオレット様主催の夜会も差し迫ってきた、とある日の事である。
「では……この赤薔薇の最新ドレスはご入り用でない、と?」
共布の靴と共に商会の若手から渡されたドレス。
侍女のリュシー殿が指示し、メイドが広げて見せたドレスは素晴らしく、目を輝かせ手を叩いて「素敵!」 と褒め称えたヴィオレット様は、神妙な顔でこくりと頷いた。
「はい。素敵ですけど、とっても着たい気持ちはあるんですけれど。で
令嬢改心2-7 令嬢は引きこもっています。(2/2)
それから一刻後の事。私達は空の上に在った。
散歩の行き先は、公爵領の隣に浮かぶ小さな浮遊島。飛行生物でしか行けない為、新人騎士らの飛行訓練中の穴場となっているそこには、なかなか綺麗な草花が咲いているのだ。
花が好きで根が乙女なところのあるヴィオレット様の気晴らしには最良と思われた。
ふわふわの大きな猫に翼が生えたようなヴィオレット様の騎獣は、私の騎獣の後ろを追いかけている――その横に、何故
令嬢改心2-7 令嬢は引きこもっています。(1/2)
それはヴィオレット様が薔薇庭でこっ酷く庭師殿に叱られた日から二日後の事である。
「ヴィオレット様は本日はお休みしたいとの事です。体が重く、食欲が無いそうで……」
ダイニングルームの前で待っていた私に、リュシー殿が浮かない顔でそう言った。
これには思わず溜息が出てしまう。ヴィオレット様と正面から向き合おうと思った途端に、だ。いや、場所が分かっているだけ逃げられるよりましなのか。
「そうですか…