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「ドルシネアの備忘録」


在宅勤務が始まって1ヶ月半ほど。
家の中にこもり続けて、自分と過去と、
わたしを形成してきたものたちと、向き合う時間が自然と増えた。

一日の終わりに、疲れ切って布団に潜れば、
次の瞬間夢の中にいた日々とは変わって、
天井を見つめ、無重力に揺れるベッドに意識を委ねると、
ついには一回転するんじゃないかと思う日もあるくらいだ。

昔、ある人が

「人との関係の中で生まれた、
 誰かにとってのあなたの価値は、
 第三者の介入によって侵されはしないよ。」

という言葉をくれたことがあったけれど、
こうして今になって、ひとつひとつを噛み砕き、
吸収され消化されていく過去の事実は、
結果として、この言葉を肯定するものになった。

数年の間、ラムネのビー玉みたいに、
私の真ん中を転がっていた感情は、
去年の夏、すとんと瓶の底に落ち、涼し気な音を響かせた。

それから、いくらか経って3月の終わり、
永遠に交わるはずのなかった記憶の交差が、不意に訪れた。
それは、小説のあとがきほどの、
人生における些細な出来事であったけれど、
わたしにとってディレイのかかる瞬間だった。

ああ、こうやって、
時間というのはゆっくりと流れていくのだと思った。

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