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今日も、読書。 |通勤電車での読書が、私の1日を支えている

2022.4.24-4.30


佐藤究|テスカトリポカ

佐藤究さんの『テスカトリポカ』を読む。

作品を象徴するような、おどろおどろしい装丁。ずっしりと重厚感があり、本を開くときに、なんとなく、独特の緊張感があった。

第165回直木賞受賞作である本作は、受賞も納得の圧倒的な完成度。裏社会に巣食う凶悪犯罪と、血に塗れたアステカ神話が絡み合う、重たいけれど一気読み必至の小説だった。

私はこの物語に、どうしても、自身の日常生活との繋がりを意識せざるを得なかった。

本作で描かれているのは、麻薬密売人(ナルコ)や臓器密売人、やくざや殺し屋など、裏社会のビジネスや抗争だ。そんな自分とは無縁の世界のはずなのに、私が過ごしている平和な日々の裏側では、こんな殺伐とした世界が広がっているのだという、自分の生活との繋がりが随所でちらついた。そこには漠然とした不安や緊張があって、手に汗を握るようだった。

その要因のひとつとして、闇社会の描写が徹底的にリアルであることが挙げられる。どうしたらこんなに克明に、犯罪者たちの事象や心理を描写することができるのか、不思議で仕方がなかった。まるで、この物語は決してフィクションなどではなく、現実に起こっている話なのだと、突きつけられているようだった。

宇野矢鈴という登場人物のエピソードが、私たちの社会と裏社会の、橋渡し役を果たしていたように思う。彼女が知らず知らずのうちに、臓器密売ビジネスに加担していく過程を読む中で、裏社会への入り口は、日常の些細な隙間に潜んでいるのだということを意識した。その繋がりが、リアルかつ非常に残酷で、物語に不気味な緊張を生んでいた。

物語は徹底して暗く、凶暴で、恐ろしい。目を逸らしたいのに、佐藤さんの筆力によって、半ば強制的に、物語の渦の中に引き込まれていく。まるでテスカトリポカの妖力に化かされているかのような、そんな読書体験だった。



通勤電車での読書が、私の1日を支えている

本を読むことへの迷いが、生じることがある。

私にとって本を読むことは、何よりもまず娯楽だ。楽しむために、本を読んでいる。これはいつ何時も変わらない、私の読書の根底を成す姿勢である。

もちろん、本を読んで生きる知恵を身につけようとか、社会人としての教養を磨こうとか、読むことを仕事に繋げようとか、色々なことを考えたりもする。でも、そんなことよりもまず楽しむことが先決で、それだけはずっと忘れないでいたいと思う。

しかし、読書がどこまでいっても娯楽であるが故に、本を読んでいていいのかと、迷うこともある。本を読むよりも、生きるうえでやるべきことがあるのではという思いに、苛まれる。そうなると、いつものようにすらすらと本は読めない。ひどい時には、私は何のために生きてるんだろうというところまで、落ち込んだりもする。

かと思えば、一度寝て起きたらそんなことはすっかり忘れて、けろりと本を読むことができるのが常だ。そのため気が塞いでも重く考えすぎず、時間が解決してくれると、気軽に構えている。

ポジティブとネガティブの波を乗り越えながら、ゆらゆらと揺れる船の上で、私は本を読み続ける。時に転覆しそうにもなるけれど、心を満たしてくれる宝島を見つけることもある。いつの日か、一生を懸ける価値のあるような、素敵な島と出会えれば嬉しいと思う。

社会人になって1年が経過したが、仕事をする日々の中で、その隙間を縫うようにして読書をしている。読書時間の総量は減ったが、その分一回一回の密度は濃くなっていて、その一回一回を大切にしたいという想いも強くなっている。単調な毎日に鬱々とすることもあるけれど、新しい本を読めるという喜びが、私の航海を助ける追い風となってくれる。

通勤電車での読書が、私の1日を支えている。



これからの「今日も、読書。」について

「今日も、読書。」という読書日記を始めて、早いもので、半年が経過した。いつもお読みいただいている皆さま、本当にありがとうございます。

この機会に、「今日も、読書。」の書き方を、変えてみようと思う。具体的には、今回から日付の区切りを撤廃することにした。ただでさえ日記っぽくないこの読書日記が、より日記らしさを失ったことになる。それと同時に、毎日日記を書くことも止めて、週2~3回ほどに執筆頻度を落とすことにする。

理由は、読書日記以外に挑戦したいことができて、それに時間を割きたいためだ。読書日記が1日に占めるウェイトを落とし、新しいことに時間を使っていきたい。また、これまでは「毎日書く」という命題に縛られて、雑になりがちだった文章の質が、少しでも向上するのではないかという期待もある。あくまで期待だけある。

そんなことを言いながら、またすぐに、元の日記調スタイルに戻るかもしれない。それは神のみぞ知ることだ。その時は、また読書日記に力を入れたくなったのだなと、温かい目で迎えてくださったら嬉しい。

これからも、「今日も、読書。」をよろしくお願いします。



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