今日も、読書。 |"泣き本"をお探しの方へ
メフィスト賞を受賞し、横浜流星さん主演で映画化もされた、『線は、僕を描く』。
著者の砥上裕將さんは水墨画家でもある。水墨画のディープな世界を掘り下げながら、心に傷を負った青年が成長していく姿を描いた。
私は本作を読み終えたとき、砥上さんが次に書く小説は必ず読もうと決めた。心が掴まれるとはこのことか、と思った。
次はどんな題材を取り上げるのだろうと、ずっと楽しみにしていた。そして、あえて事前情報を遮断して、真っさらな状態で『7.5グラムの奇跡』を読んだ。
砥上裕將|7.5グラムの奇跡
『7.5グラムの奇跡』は、新人の「視能訓練士」の青年、野宮恭一が主人公。
視能訓練士とは、視能矯正や視機能検査などを行う、国家資格を持つ専門職だ。
水墨画家の次は、視能訓練士。砥上さんは、一般的にスポットライトが当たりづらい職を取り上げ、小説にするのがとてもお上手だ。
北見眼科医院に就職した野宮くんは、不器用で失敗を繰り返しながらも、様々な患者さんと向き合う中で、一人前に成長していく。
実は砥上さんの妹が視能訓練士とのことで、知り合いの眼科医の方とお話をしたときに、眼科医療に携わる人たちの物語を書くことにしたのだという。
砥上さんは、WEB本の雑誌のインタビューで、次のように話している。
野宮くんは、良い意味で不器用なキャラクターとして描かれている。完璧ではないからこそ、目の前のことに全力で取り組む姿勢に感動を覚える。
しかし、「天才的な能力」こそ持ち合わせていないものの、野宮くんは「人の目を覗き込むことが好き」という、得難い特性を持っている。
患者の眼を真っ直ぐに見るからこそ、症状や感情の微妙な変化に、いち早く気づくことができる。好きなことや何気ない習慣が、ときに難題を解決する糸口になることもあるのだ。
まだまだ未熟な社会人(と言いながらこの4月からもう3年目になるのだが)として、本作から大切なことを学んだ気がする。
新人は、当たり前だが、知識も経験もない。新人にできることは、とにかく真摯に仕事に向き合い、丁寧に人と接することだけだ。
相手に寄り添う姿勢が、信頼を生み、肝心なときに助けてもらえるような関係性を築くきっかけになる。今一度初心を思い出して、真摯に仕事と向き合いたいと思った。
7.5グラムとは、人間の眼球の重さだ。
こんなにも小さくて軽いものが、私たちの見ている視界、世界の全てを支えている。
小さくて取るに足らない存在に思えても、必ず何かの役に立っている。それこそ新人だって、会社を支える重要な存在だ。
どの短編も、心温まる感動に満たされ、涙で視界が滲んだ。全ての短編で、漏れなくうるっと来た。こんな小説はめったにない。
"泣き本"をお探しの方へ。小説で泣きたいなら、本作を読んで損はない。
「7.5グラム」が見せる奇跡を、ぜひその目で確かめてほしい。
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