#1 火の鳥全部読む |気まぐれ火の鳥の超パワーをまとめてみた
手塚治虫の『火の鳥』を、全部読みました。
『火の鳥』は疑いようもない傑作で、人間とは何者か、生と死、罪と罰、現世への執着と輪廻転生について、どこまでも深く問いかけてくる作品でした。
「火の鳥全部読む」と題し、全4回に分けて、本作を好き勝手に掘り下げていくnoteを書いていきます。
もしまだ『火の鳥』を未読の方がいらっしゃったら、まずはぜひ読んでみていただきたいです。絶対に読んで後悔しない傑作です。
そのうえで、こちらのnoteに帰ってきていただけるとありがたいです。一度『火の鳥』を通読したうえでお読みいただいただ方が、より楽しめるnoteだと思います。
気まぐれ火の鳥の超パワーをまとめてみた
第1回目となる今回は、作品タイトルにもなっている火の鳥について。
本作で火の鳥は、自然の象徴として描かれているように思います。
作中では「実体を持たない宇宙エネルギー体」とも記述されており、私たちの理解を完全に超えていますが、すべての生命体を司る超常的な存在であることは間違いありません。
そんな火の鳥、実は作中ではそれほど頻繁に登場せず、基本的には人間たちの物語を神の視点で見守り、時々超パワーで干渉してくる気まぐれなポジション。
人間の愚かな行為を戒めたり、無欲な人間の手助けをしたりと、要所要所で現れては、物語を行き着くべき先へと導いていきます。
登場シーンが貴重だからこそ読者に鮮烈な印象を残す、気まぐれ火の鳥の超パワー。まとめてみました。
黎明編
第1作目「黎明編」の火の鳥は、生き血を飲むと不老不死になるという言い伝えのために、人間から狙われる獲物として登場します。
やはり第1作目ということもあり、火の鳥の超パワーを紹介する導入編のような感じで、様々な超パワーが出てきました。
未来編
「未来編」で火の鳥は、自らを「神の使いではなく、地球の分身」と称します。
滅びゆく地球を救う存在として主人公の山之辺マサトを導き、彼を不死にして、新人類が誕生するまで見守らせます(山之辺かわいそう)。
山之辺を不老にしてあげることはせず、どんどん老いゆく彼はやがて肉体を失い宇宙生命(コスモゾーン)になりますが、火の鳥は宇宙生命となった山之辺を自身に取り込もうとします。
本作で火の鳥は、地球の誕生〜滅亡のサイクルを見守る存在として登場しますが、火の鳥自身も宇宙生命を取り込み生き永らえるサイクルの中にあるのでは……と思いました。
ヤマト編
「ヤマト編」で火の鳥は、クマソの守り神として崇められる存在です。
本作の火の鳥は結構気まぐれで、ヤマト・オグナが火の鳥に笛の音を聴かせたお返しに、彼の望みを積極的に叶えようとします。
自身の生き血を飲むように足を差し出したり、草原を焼き払って追手を追い払いオグナを助けたりするのです。
そして物語の終盤、火の鳥の生き血を含ませた布を舐めた人々が、生き埋めにされた地中から大合唱するシーンは印象的です。
宇宙編
「宇宙編」では、ラトマスという小惑星のフレミル星人として登場します。シリーズ通して半人半鳥の火の鳥はたくさん登場しますが、今回が初登場。
猿田が火の鳥に対して「肉体を持たず非物質化されたエネルギー体で、超生命体の一種」という分析をしており、「実体を持たないためどんな姿にもなれる」など、重要な考察が結構出てきます。
そして本作の火の鳥は、人間たちにどんどん罰を与えるドSっぷりを披露。
特に猿田に対して与えた罰は、シリーズ通して登場する猿田彦の運命を決定づけるものであり、かなり重要な回となっています(詳しくは#2で取り扱います)。
鳳凰編
「鳳凰編」の火の鳥は万物の輪廻転生を司る存在で、人間同士の対決を焚きつけるような黒い一面も見えます。
橘諸兄から鳳凰(火の鳥)を彫るように命じられた彫刻師の茜丸は、鳳凰を求めて旅をします。
序盤は中国に伝わる伝説上の生物として描かれますが、茜丸の夢の中に現れたり、我王に語りかけて発破をかけたりと、終盤にかけて物語に干渉していきます。
茜丸の死に際に「もう2度と人間に生まれ変わることはない」と告げるなど、輪廻転生の決定権を握っているかのような発言も見られ、火の鳥の超パワーの底知れなさを実感します。
復活編
「復活編」では、火山から復活したばかりの若々しい姿で登場します。
成鳥より小さい雛のような姿なのですが、火の鳥にも年齢という概念があるのでしょうか。謎は深まるばかり。
例に漏れず本作でも人間から血を狙われており、主人公のレオナに生き血と羽を取られてしまいます。
この火の鳥の存在が、人間の殺人事件を誘発します。火の鳥は人間の良心を狂わせる欲望の対象として描かれています。
望郷編
「望郷編」の火の鳥はちょっと変わっていて、いきなり火の鳥の自己紹介から始まり、本編の語り部役として登場します。
おそらく宇宙の全事象を把握しているであろう火の鳥が、特に印象に残っている人間の物語として、ロミのエピソードを読者に語って聞かせるのです。
今作の火の鳥はなぜか優しく、惑星エデン17で絶滅しかけた人間たちにムーピーを引き合わせ、繁栄のきっかけをつくります。
ロミやコムの宇宙船が遠い銀河を彷徨った時には、超パワーを使って地球のある銀河系へワープさせるなど、素晴らしいアシストを決めます。
そして終盤には、実は惑星エデン17の地震を火の鳥がずっと食い止めていたことが判明します。すごいけど、なぜそこまで……?
乱世編
「乱世編」の火の鳥は、最後までなかなか登場しません。
宋に伝わる架空の鳥「火焔鳥」の伝説を耳にした平清盛は、平家一族を永遠に栄えさせるため、その生き血を強く望みます。
そのせいで、明らかに火の鳥ではない普通の孔雀が火焔鳥と勘違いされ、平氏の源氏の動乱に巻き込まれることになります。この孔雀が本当にかわいそう。
そしていよいよ最後に現れる火の鳥は、やはり輪廻転生を司ります。平清盛と源義経に、世代を超えて権力のために殺し合う宿命を定めるのです。
生命編
「生命編」には、シリーズ初、火の鳥と人間の子孫が登場します。
火の鳥とケチュア族の子孫であり、生命を複製する奇跡を起こす、鳥の面をかぶった女が出てきます。
人間の心を読み、テレパシーで語りかけるなど火の鳥と同じ超パワーを使えるほか、人間を悲惨な拷問にかけるドSさも火の鳥ゆずりです。
厳しすぎる罰も健在で、欲に塗れたテレビプロデューサー青居に人間クローンとしての苦しみを味わせ、悲惨な死を遂げさせます。
異形編
「異形編」では、これまでも超万能アイテムとして登場してきた火の鳥の羽が鍵を握ります。
どんな病や怪我も治す羽を使い、主人公の左近介は村の病人や戦争負傷者、果ては手負いの物怪まで治療をします。
火の鳥は八百比丘尼を殺した左近介に対して、同じ時間が永遠に繰り返される島の中で、未来永劫自分自身に殺され続けるという裁きを与えます。
そのうえで救いの道として、火の鳥の羽を使い、無限に不幸な人々を救い続けることを課すのです。
太陽編
「太陽編」では、信仰の対象として火の鳥が登場します。
生き血を飲むと宇宙エネルギーを体内に取り込み不老不死になれるということで、火の鳥を崇める宗教組織「光」が生まれた世界が舞台です。
考えてみれば、火の鳥の超パワーを前にしたら、それが信仰の対象となるのは必然なのかもしれません。
ただ火の鳥は、宗教が政治と結びついた時の、人間同士の争いには冷淡です。「未来編」のような地球を滅ぼしうる戦争でない限り、介入することもしないでしょう。
なぜならその戦争によって、何もせずとも、人間が勝手に自滅していくことを知っているからです。
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