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小説は、こんなにも面白い!|今月のむささび選書
みなさん、こんにちは。
むささびです。
7月も、たくさんの素敵な作品と出会いました。
今回はその中でも、特に印象に残った作品たちをご紹介します。
少しでも皆さんの選書の参考になれば嬉しいです!
起きるはずがない連続殺人が起きた理由とは?
まずは、斜線堂有紀さんの『楽園とは探偵の不在なり』です。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/58378296/picture_pc_4247606fbd42f37c7db7ef3613b0f2c8.png?width=800)
二人以上殺した者は”天使”によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦は「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱に誘われ、天使が集まる常世島を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。かつて無慈悲な喪失を経験した青岸は、過去にとらわれつつ調査を始めるが、そんな彼を嘲笑うかのように事件は続く。犯人はなぜ、そしてどのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の新鋭による、孤島×館の本格ミステリ。
第21回本格ミステリ大賞(小説部門)の候補作にもなった、「特殊設定もの」の本格ミステリー作品です。
著者の斜線堂有紀さんは、もともとライト文芸の分野で活躍されていた方ですが、この作品で本格ミステリーの世界に大きなインパクトを与えました。
「2人以上の人間を殺したら天使に連れ去られる」という滅茶苦茶な設定がひとつあるだけで、こんなにも新しいミステリーが出来上がるのかと驚きました。
読む前から「天使が事件に何かしら絡んでくるんでしょ…?」とは思っていましたが、予想外の場面で登場してきたりして、「そうきたか!」と思わず唸ることもありました。
しかし個人的には、この作品の最大の魅力は「青岸探偵事務所」の存在だと思います。
そもそも、本格ミステリーでメンバーがたくさんいる探偵事務所が登場するのって、珍しくないですか?(私が知らないだけかもしれませんが……)
魅力あふれる探偵事務所メンバーたちの存在が、この作品に深みを持たせてくれているように感じました。彼らの活躍がもっと見たかったです。
あの日、あの瞬間——人生の分岐点をめぐる物語
お次は、佐藤正午さんの『Y』です。
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ある晩かかってきた一本の奇妙な電話。北川健と名乗るその男は、かつて私=秋間文夫の親友だったというが、私には全く覚えがなかった。それから数日後、その男の秘書を通じて、貸金庫に預けられていた一枚のフロッピー・ディスクと、五百万の現金を受け取ることになった私は、フロッピーに入っていたその奇妙な物語を読むうちに、やがて彼の「人生」に引き込まれていってしまう。この物語は本当の話なのだろうか? 時間を超えた究極のラブ・ストーリー。
むささびが絶賛ドハマり中で、「小説の名人」とも称される佐藤正午さんの長編小説です。
この作品も、「特殊設定」が主軸の作品ですね。今月はSF要素が盛り込まれた小説が自分の中でブームになっていたようです。
佐藤正午さんといえば、何とも癖になる語り口と、奇想天外でありながら緻密に作り込まれた筋書きが魅力。
この作品も例外ではなく、冒頭の「プロローグ」の語り口から、グッと物語の中に引き込まれました。
一九八〇年九月六日土曜日、下北沢駅プラットフォーム。
電車が着き、乗降客が入れ違い、発車のベルが鳴り、ドアが閉まり、また電車が動き出す。
これはそのほんのわずかな時間をめぐる物語だ。
そのほんのわずかな時間でもこの手に取り戻せれば――あの日あの時刻に生じてしまった過去の事実を、もしいまから別のかたちに置き換えることができればと、長い人生の途中で誰もが一度は願ってみる奇跡を、本気で願い続けた男の物語だ。(p11より引用)
物語は、主人公・秋間視点での「現実世界」と、フロッピーに入っていた北川視点での「物語世界」の2つが並行して進んでいきます。
フロッピーのパートを読み進めるにつれて様々な事実が明らかになり、初めは半信半疑だった秋間が徐々に突き動かされるように行動していく展開が良かったです。
そして、これでよかったのだろうかと考えさせられるような、絶妙なラスト。ぜひ読んでみてほしいです。
華麗な妙技!見え方が180度変わる、騙し絵のような作品
最後は、伊坂幸太郎さんの『ラッシュライフ』です。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/58378339/picture_pc_944acad93cd3f3e94dea45eec8c3b421.png?width=800)
泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。
言わずと知れた、伊坂幸太郎さん初期の傑作。『重力ピエロ』と並び、伊坂さんの名前を世に知らしめた作品だと思います。
私は伊坂さんの作品を既に全部読んでいて、こちらの作品は再読でした。
それでも今月のトップ3に入ってしまうほど、文句なしに面白い作品です。
伊坂さんと言えば、各話が巧妙に交錯する、緻密に計算された群像劇。
この作品も、一見関わりの薄い4つの物語が、いつの間にやら繋がってひとつの物語が完成します。そしてその完成した物語は、読者の予想を超える形で現れてくるのです。
最初と最後で世界の見え方がガラリと変わる、まさに騙し絵のような小説です。
実はこの『ラッシュライフ』、私が伊坂さんに初めて出会った作品でもあります。
当時の衝撃は、今でも忘れられません。「小説は、こんなにも面白いのか!」と、小説が持っている可能性の、無限の広がりを感じました。
まだこちらの作品を読んだことがない人は、ぜひ1シーン1シーン目を凝らして読んでください。全てが伏線です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
むささびでした!
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