今日も、読書。 |現実とファンタジーを、”装丁”が結ぶ
本の世界に入って冒険したいと、願っていたあの頃。
幼い頃に本書を読んでいたら、自分の人生の核となる、最も大切な作品になっていただろう。
もちろん、大人になった今読んでも、心を震わす物語だ。
幼い頃に『エルマーのぼうけん』が好きだったあなた。
本の世界を旅するような読書体験をしてみたいあなた。
ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を、ぜひ読んでみていただきたい。
ミヒャエル・エンデ|はてしない物語
勉強も運動も苦手で、周囲の人々に認めてもられない自分に嫌気がさす少年・バスチアン。彼は、ひょんなことから読み始めた”あかがね色の本”『はてしない物語』に登場する、英雄・アトレーユに憧れる。
本の中の世界「ファンタージエン」は、原因不明の現象<虚無>に蝕まれ、崩壊の危機に瀕していた。アトレーユの健闘も虚しく、<虚無>は世界を包み込んでいく。
救いの主として白羽の矢が立ったのは、まさにその時、現実世界で『はてしない物語』を読んでいた少年・バスチアンだ。ファンタージエンを収める女王・幼ごころの君は、現実世界のバスチアンに直接呼びかけ、ファンタージエンの世界へと誘う。
ここから、バスチアンの暮らす現実世界と、『はてしない物語』のファンタージエンとが、交錯する。本の世界を冒険する、果てしないファンタジーが幕をあける。
『はてしない物語』は、本箱付きのハードカバー版と、上下分冊の文庫版の2種類が出版されている。
私は、ハードカバー版で読むことを、強く強くおすすめする。
ハードカバー版は、文庫版に比べて高額だ。大きくて重たいため、持ち運びも大変である。
それでも、ハードカバー版を買って欲しい。『はてしない物語』を、最大限に楽しむために。
ハードカバー版『はてしない物語』の装丁は、目を見張るほどに美しい。
本箱から書籍を取り出すと、真紅の装丁が姿を現す。高級感のある布張りの手触り。さりげない凹凸で表現された書名。
まるで、ファンタジー世界の書庫から飛び出してきた、冒険の書のようである。
実はこの装丁、小説の中でバスチアンが読む『はてしない物語』の装丁そのものなのである。
「本の世界に入り込んでしまう物語」を構想し、『はてしない物語』を執筆したエンデ。
それは、登場人物のバスチアンが、ファンタージエンに入り込むことだけでない。読者である私たちが、『はてしない物語』に入り込むことも意図したものだった。
物語とリンクしたデザインになっている、ハードカバー版の装丁。こちらで『はてしない物語』を読むと、まるでバスチアンと共に本の中を旅しているかのような、没入感を味わえる。
最大の特徴は、赤と緑の二色刷り。現実世界の出来事は赤、ファンタージエンの出来事は緑で書き分けられており、場面の切り替わりがわかりやすい。
こういう、物語に登場する本のデザインが、そのままその作品の装丁になっている本はすごく良い。作品への愛が感じられる。
たとえば、三浦しをんさんの『舟を編む』がそうだ。物語に出てくる辞書「大渡海」のデザインを、装丁に反映させている。
ファンタージエンの救い主として、本の世界を冒険するバスチアンだが、道中は波乱に満ちている。
恒川光太郎さんの『スタープレイヤー』のような、何でもありの万能の力を駆使して道を切り拓いていくバスチアンだが、徐々にその力を驕るようになり、終盤にはしっかり闇堕ちするのが衝撃だった。
ファンタージエンでの出会いや事件を通して、バスチアンは精神的に成長していく。現実世界での冴えない自分と、ファンタージエンでの輝かしい自分とのギャップに悩みもするが、最後には本当に大切なものに気づく。
本書を読むと、誰かに愛されることを望むだけでなく、誰かを愛したいと望むようになる。バスチアンと共に、いつの間にか私も、新しい気持ちを手にしていた。
本を読むことに、純粋無垢な喜びを感じていたあの頃。
本の世界に入って冒険してみたいと願った、幼い頃の夢。
『はてしない物語』は児童文学だが、かつてそんな夢を持っていた大人こそ、読むべき作品だと思った。繰り返しで恐縮だが、是非ともハードカバー版で。
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