森見登美彦『四畳半神話大系』の好きな台詞選手権!
先日、高校時代の友人と森見登美彦氏の『四畳半神話大系』の読書会をした。
徹底して硬派で知的な文体、なのに内容はくだらなくて馬鹿馬鹿しい。この絶妙な”ズレ感”が癖になり、すっかり森見ワールドに取り憑かれてしまった。
ということで、勝手に『四畳半神話大系』好きな台詞選手権を開催!
このnoteをお読みの皆さんにも、森見ワールドの一端を体感いただきたい。
まずは冒頭の名文から。
森見登美彦作品の魅力のひとつに、「キレッキレの冒頭」が挙げられる。開幕からエンジン全開の森見節が炸裂し、読み手のテンションは一気に最高潮まで高まるのだ。
たとえば、デビュー作『太陽の塔』の冒頭は次のとおり。
この拗らせ感がたまらない。もっともらしいことを言っているようで、めちゃくちゃな論理を振り翳している。
『四畳半神話大系』の冒頭は、次のように始まる。
胸を張って言うようなことではない。そんなことを断言されても……と、もうこの時点で私の頬は緩み始めている。さらにここから、名調子は続く。
責任者を呼ぶな。清々しいまでの責任転嫁である。
続いて、中盤の個人的名シーン(?)から。
主人公である「私」は、ひょんなことから「樋口恵子」という人物と文通を始める。共通の文学作品を読んでおり、配慮や気遣いが文章の節々から垣間見える樋口恵子さんに、私は想いを寄せるようになる。
ある日、募る想いが爆発し、私は樋口恵子さんが住むアパートまで足を運んでしまう(!)。そしてそこで、衝撃の事実を突きつけられる。
なんと、長い間想いを寄せていた樋口恵子さんの正体は、大学の悪友・小津だったのである(もちろん男)。その場面が、こちら。
樋口恵子さんが小津であることを、表現を変えて、4回も繰り返している。
私はこの繰り返しに、ギャグアニメなどによく見られる、「台詞を言うたびに登場人物が少しづつアップになっていく映像」を思い浮かべていた。
私が「樋口恵子=小津」であるという事実を確認するたびに、小津の顔が4段階で徐々にクローズアップされていく映像が浮かび、面白かった(最後の「小津本人である」の時には、目と鼻しか見えないくらいアップになっていた)。
最後は、全4章で構成されている本作の、各章の最後に配置されているこちらの台詞。
前者が小津、後者が私の台詞である。
大学生活を通して私の「薔薇色のキャンパスライフ」を邪魔してばかりの小津に対し、「何が楽しくて他人の妨害ばかりするのか」と問うた際のやり取りだ。
「愛」という尊いものに対して、「そんな汚いもん」とバッサリ切り捨てているところが最高である。
そして何となく、私と小津の、他を寄せ付けない信頼関係のようなものも感じ取られるようで、そこもまた良い。
実は本作『四畳半神話大系』には「並行世界もの」SFとしての要素があり、私は無数に続く四畳半の部屋から出られなくなってしまう(何を言っているかわからないかと思うが、そういう話なのだ)。
長い放浪の末、物語の最後に、私はようやく永遠の四畳半世界から脱出することに成功する。そして、最終章では、お決まりだった小津とのやり取りが、以下のように変化するのである。
前者が私、後者が小津の台詞である。つまり、これまでとは立場が反転しているのである。
私はこの台詞の変化が、主人公・私の「四畳半並行世界からの脱出」の証明であるように思った。
私はそれまで、うだつの上がらない自身の大学生活を、一回生の時のサークル選択の誤り、そしてどの世界線でも付き纏ってくる悪友・小津のせいだと、完全なる他責思考で捉えていた。
全く別のサークルを選んでいれば、そして小津さえ近くにいなければ、憧れの薔薇色のキャンパスライフを謳歌できていたに違いない……と、信じて疑わなかった。
しかし、どこまでも無数に続く四畳半を彷徨い歩きながら、私は気づくのである。それは違うと。
なぜなら、どんなサークルに入ったとしても、全ての世界線で小津と知り合い、結局はうだつの上がらない大学生活を送っていることが判明するからだ。
私は、人生の選択の全責任が自分自身にあることに、ようやく気付く。そして、それまでは他責思考で受動的な態度を崩さなかったところ、初めて自分から能動的に働きかけるのだ。
それが、最後の小津とのやり取りの、立場の反転に表れているのだと思う。私は初めて、私から小津に対して、愛を示すのである。
そしてもちろん、「そんな汚いもんいらん」とバッサリ切り捨てられるわけである。お前らやっぱり仲良しだろ。
以上、急遽開催した『四畳半神話大系』の好きな台詞選手権でした。
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