母と息子の人生に寄り添う。|今月のむささび選書
みなさん、こんにちは。
むささびです。
今月も、たくさんの素敵な本と出会いました。
その中から特に感銘を受けた作品をピックアップして、ご紹介させていただきます。
皆さんが次に読む本を探すとき、少しでも参考になれば嬉しいです。
母と息子の人生に、寄り添うように読書する
まずは、リリー・フランキーさんの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』です。
2006年に第3回本屋大賞を受賞した、著者と母親との半生を描く自伝的小説です。
作品最大の魅力は、著者が隣に立って話を聞かせてくれているかのような、生の息遣いの聞こえる語り口だと思います。
そんな赤裸々で親しみのある文章だからこそ、彼と母親(と時々父親)との人生の物語に、読者である私もすぐ傍で寄り添っているかのような読書体験でした。
登場人物たちの人生に寄り添い、彼らとの距離がとても近く感じられたからこそ、心が大きく揺さぶられるほどに感動し、読後の余韻は名残惜しくも温かかったのだと思います。
この作品の中で、特に印象に残った言葉をひとつ引用させていただきます。
母親が注いでくれる、無条件で優しい愛情。日常の中で見失ってしまいがちなこの愛情のかけがえのなさに、はっとするほど気づかせてくれた作品でした。
暗幕のかかった世界の秘密が、徐々に明らかになっていく快感
次は、カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』です。
2017年にノーベル文学賞を受賞した世界的作家、カズオ・イシグロさんの長編小説です。
いつかカズオ・イシグロさんの作品を読んでみたいと思っていて、事前情報なしで偶然手に取った1冊だったのですが、「堅苦しそう」という予想を良い意味で裏切る、私好みの作品でした。
物語は主人公キャシーの青春時代の回想を中心に進んでいくのですが、彼女たちの学校生活はどこかおかしい。
彼女たち自身はごくごく一般的な生徒なのに、一風変わった行事や怪しい態度を取る教師など、普通の学校とは違う心寒い感じが漂っています。
ヘールシャムとは何か、介護人・提供者とは何なのか。暗幕の中に包み隠されたこれらの謎が主人公の独白の中で徐々に明かされていき、最後に彼女自身も気づいていなかった真相にたどり着く時の快感はすごかったです。
読後は大きな衝撃の中に少しだけ爽やかな余韻が残る、ミステリーとしても青春小説としても楽しめる作品でした。
水墨画という題材の瑞々しい魅力、そして青年の成長
最後は、砥上裕將さんの『線は、僕を描く』です。
第59回メフィスト賞受賞・2020年本屋大賞第3位の、心に傷を負った青年が水墨画を通じて外との繋がりを見出していく様を描いた作品です。
私はこの作品で、水墨画という芸術の面白さ・奥深さに強く惹き込まれました。
著者の砥上さんは水墨画家でもあります。水墨画を描く場面での瑞々しくて繊細な表現や、良い水墨画を描くうえで大切にしなければならない考え方には、非常に説得力がありました。
主人公の青山君はそんな水墨画に取り組む中で、長く閉じこもっていた心の中から外の世界に足を踏み出し、少しずつ成長していきます。
個人的に、こういう少し変わった部活動を題材にした青春小説は結構好きです。大学生らしい友情や恋愛の要素もあり、とても読みやすい作品だと思います。
それにしても、この作品が『煙か土か食い物』や『フリッカー式』と同じメフィスト賞を受賞していると考えると面白いです。振れ幅が大きすぎ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
むささびでした!
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