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#2 読書で世界一周 |ペンギンの憂鬱 〜ウクライナ編〜

「読書で世界一周」は、様々な国の文学作品を読み繋いでいくことで、世界一周を成し遂げようという試みである。

ロシア(ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』)から出発し、今回は2カ国目のウクライナ。

アンドレイ・クルコフさんの『ペンギンの憂鬱』を取り上げる。



アンドレイ・クルコフ|ペンギンの憂鬱

恋人に去られた孤独なヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らす売れない小説家。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたが、そのうちまだ生きている大物政治家や財界人や軍人たちの「追悼記事」をあらかじめ書いておく仕事を頼まれ、やがてその大物たちが次々に死んでいく。舞台はソ連崩壊後の新生国家ウクライナの首都キエフ。ヴィクトルの身辺にも不穏な影がちらつく。そしてペンギンの運命は……。欧米各国で翻訳され絶大な賞賛と人気を得た、不条理で物語にみちた長編小説。

あらすじ


著者のアンドレイ・クルコフさんは、ロシア語で文学作品を書かれているウクライナの作家である。キエフ在住で、本作『ペンギンの憂鬱』が、国際的なベストセラーとなっている。

『ペンギンの憂鬱』は、売れない小説家と1匹のペンギンの物語だ。1990年代、ソ連崩壊後の不安定な情勢下、売れない物書きとしての単調な日常の中に、不条理な出来事が起こる。


日々の出来事が、ヴィクトルの一人称視点で、記録調に淡々と語られていくスタイルだ。全体的に、鬱々とした雰囲気が漂っている。

ヴィクトルは、どこか人生を達観しているところがあり、小説家として身を立てることを夢見ながらも、自分の才能を見限って諦めているところがある。「追悼記事」を書く中で生じる、不穏な事件に対しても、不安を感じながらも大きく抵抗することはなく巻き込まれていく。基本的に、受け身のスタンスである。

極めつけは、父親が失踪したソーニャという少女を、何の抵抗もなく譲り受けてしまう。何の準備も覚悟もなく、突然娘を持つことを受け入れるのだ。普通なら焦ったり、断ったりしそうなものだが、ヴィクトルは達観した面持ちである。

成り行きに任せ、受動的に日々を歩んでいく。社会そのものが不安定で、何が起こるか分からないため、いちいち過剰反応していたら、精神が参ってしまうのだろう。ソ連が崩壊し、ウクライナという国家が誕生したばかりの社会の情勢が、登場人物の態度に表れているように思えた。


この小説の要は、なんと言っても、ペンギンのミーシャである。ミーシャの存在が、この小説を唯一無二のものにしている。

ミーシャは、良い意味で小説的な脚色が施されておらず、動物として非常にリアルに描かれている。もちろん言葉は話さないし、都合良く人間と意思疎通ができたりもしない。ありのままのペンギンである。

だからこそ、この不穏な物語に、無垢なペンギンの存在が、優しい風を吹き込んでくれる。エサを嬉しそうに食べたり、湖を泳ぎまわったりするミーシャ。可愛すぎる。ペンギンを飼ってみたくなる。


本作からは、ウクライナらしさを随所で感じることができた。

例えば、登場人物たちがコーヒーを飲むとき、ほぼ100%の確率でコニャックを入れる。誇張ではなく100%だ。コーヒー単体で飲む人はいない。コニャックがないとコーヒーを飲んではいけないルールがあるのだろうか?

凍った湖へピクニックに行く余暇の過ごし方なんかも、ウクライナの風土にぴったりで、読んでいて非常に美しかった。ミーシャが湖に張った氷上を滑走し、小さな穴から水に飛び込み、泳ぎ、陸に上がってぶるぶると水気を払う。そんな平和な光景に、思わず顔が綻んだ。


「読書で世界一周」、2カ国目のウクライナを踏破した。次の国へ向かおう。

3カ国目はベラルーシ。ベラルーシ出身のノーベル文学賞受賞作家、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチさんの『戦争は女の顔をしていない』を取り上げる。近年漫画化もされて、日本で注目を集めている作品。楽しみである。

~読書で世界を巡る~
1. ドストエフスキー|カラマーゾフの兄弟
2. アンドレイ・クルコフ|ペンギンの憂鬱 ←New



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