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AIアナvs人間アナ

一年前のこと。
早朝に目覚めテレビをつけると、スーツ姿の男性アナウンサーが映し出された。

「ここからのニュースはAIの自動音声でお伝えします」


ああ、あれか。
欠伸に笑いが混じってしまう。
数年前にも一度耳にしたことがあった。
たどたどしく、機械が音を発している感じが否めなくて、少しコミカルだ。

ところが、お笑い草なのは私の方だった。AIのディープラーニングの力を思い知る。

「AIが伝えている」というテロップがなければ、人間が読んでいるものとしか思えない。イントネーションも音のつながりも、抑揚も、間の取り方も自然。 AIアナウンサー恐るべしだ。

考えてみれば、彼らの強みは多い。

・時間内に正確に読める。「噛む」こともない
・無病・無遅刻・無欠席
・アバターを使用した場合、容姿は衰えず美しい
・働きすぎても労働基準法に違反にならず、給料もいらない

その他にも生理前で不機嫌になったりニキビが出来たりしない、二日酔いにならない、文句を言わない等……拍手喝采ものである。

さらに調べてみると、最近では、「愛嬌」の部分でも目まぐるしい成長をしているようだ。冗談を言ったり、愛想笑いをするAIが研究されているらしい。

つまり、近い将来、その場に応じたコメントで笑いをとったり、場を和ますAIアナウンサーが誕生するのだ。そして、ゆくゆくは「ゴマすり」なんかを会得し、プロデューサーに取り入り、元々少ない私の仕事が奪われて……。

ゆゆしき事態だ。しかし、猛スピードで進化を続ける技術に抗うことなどできない。
私はそれからいずれ訪れる終焉を見据え、鬱屈とした気持ちを抱え、仕事をしていた。
杞憂ではなく、
十年もすれば人間アナはほとんど必要なくなるだろうとさえ思った。


そんなとき、一つの仕事と巡り合う。
趣味が高じてのシニア専門のe-sports施設の取材だった。

70代でゲームを始めた男性は妻に誘われて、と照れくさそうに話をしてくださった。私の祖母と同じくらいの年齢の女性とは、『ぷよぷよ』の真剣勝負。私が、負けた。
若者とチームを組み、オンラインゲームを楽しんでいる男性とは、ファミコン等、昔のゲームの話で盛り上がった。あっという間の時間だった。

取材後、手紙をいただいた。

「笑顔にしていただき、ありがとう」

こちらこそ、ありがとうございます。

オンエアでも弾けるようなシニアの皆さんの笑顔が放送され、番組のスタッフから、
「いい表情を引き出した」と言ってもらえた。

「一緒に楽しんでいただけです」

そう返して、気がついた。

人間アナ」の強み。それは「」ではないだろうか。


アナウンサーとして取材相手の心を引き出すには、自分も心を開く必要がある。そして、相手の口からぽろ、と零れ落ちた心のかけらがあれば、私たちは大事に拾いあげ、細心の注意をもって最小限に磨かせていただき、時にそのままの形で世間にお伝えする。上手くいけば、世間の心を動かすことも出来る。

心は不安定で不完全なものだ。そして常に変化している。だからこそ無限のコミュニケーションが存在し、想像も出来ぬ化学変化が起きる。

ニュース読みも頑張ってきたので悔しいが、これはAIアナに分があるかもしれない。

しかし、「心」の仕事は私たちにしかできない。
それからの私は人間アナのプライドを持って、「心の仕事」をすることにしている。もちろん上手くいかないことも多い。しんどい時もある。でもそれでいいのだ、人間だもの。

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