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目をつむりながらでも読むことができるようなことばだと思う。わわしくなく、とても静かで、土によって自然濾過された水と同じでまじりけがない。 2020/08/08

 5時頃目が覚めたので本を読んでいたのだけど、娘たちが思いのほか早く、6時半頃に起きてきてポケモンを見始めたので、風呂を沸かしてのんびりと本を読みながら入った。

 のんびりとしたいい休日になると良いのだけど、子供たちは歯医者とバレエがあるらしくて、おやおや慌ただしいことだね、という感じ。娘たちが出かけた合間にリングフィットアドベンチャーを久しぶりにやって腕がプルプルしたけれど、任天堂さんは未曾有の好決算のご様子。どうやら弊社も好調な雰囲気。エンターテインメント強し、ということなのか、世間がみんな人間らしい生活を取り戻しつつあるということなのか。こんな日記を書いていると自分でも痛感するけれど、忙しい時はめちゃくちゃ短くなる。忙殺されていて「仕事してた」しか書くことないというのもあるし、書く気力もないということでもある。なので、忙しいことはあまり良くないことなんじゃないか。ゆとりと遊びを大切に生きていきたい。

 そんなことを思いながら、冷えた白ワインを開ける昼下がり。BGMは最近取り込んでいたラローチャのボックスセット50枚組か、カラヤンのEMI101枚組か、その辺のがアルバム単位でランダム再生されていく。デジタルオーディオの厄介なところは聴くためにすべてのCDをパソコンにロスレスのデータで取り込まなくてはいけないところなのだけど、この2週間くらい、隙間を見つけてはせっせと取り込んできた。まぁ面倒だけどやることと言えば、ディスクを入れ替えることくらいなので作業の合間にやっているとあっという間に進んでいく。

 それでもクラシックというのは曲名等の表記に揺れが多くて、その表記を揃えようとしだすと途端に面倒臭くなるのだけど、そういうのを揃えたくなる物好きなタイプなので、面倒だなぁと思いながら「#」を「No.」に変換したりしている。つまり、ピアノソナタ 第4番っていうのを「#4」と表記する人、「No. 4」と表記する人、色々いらっしゃるわけで、マイルールは「No. 4」なのだ。ちなみに「No.」と「4」の間には半角スペース。曲名の冒頭には作曲者名を「:」で区切る、なので「Mozart: Piano Sonata No. 4 in E flat, K.282」が曲名の表記としては理想系。「Major」は表記しない派。MajorかMinorかはMinorの時だけ表記する、ってのをどこかで聴いたことがあるんだけど、それももしかしたらその人のこだわりなだけだったのかもしれない。誰に聴いたかも忘れたが、そのこだわりは今もなお僕の中には生きている。

 ビジネス書を読んでいると、効率の良い情報収集だのインプットがどうだの、しゃらくさい話がたくさん書いてあるので定期的に疲れる。目次を見て、パラパラとめくって読みたいところだけ読め、みたいなテクニック。まぁ言っていることはわかるのだけど、本は通読したいタイプ。もちろん、ビジネス書に関しては、高速に読むことも多いのだけど、それでも通読してしまう派なのでいつまで経っても月100冊読んだ、とか200冊読んだ、みたいな境地には立てない。どちらかというと、思いも寄らない1行との出会いをビジネス書に対しても求めているからそうなると、読んでみないとわからない。で、実際に読んでいるとよくそういう出会いが起きるから、あながち無駄ではないと思うのだけどな。まぁ、そんな殺伐としたビジネスの世界から逃避するように朝吹真理子『抽斗のなかの海』を手にとった。

 初のエッセイ集らしくて期待して読んだらとても期待以上で、とてもとても、いい。そこでときおり紹介される作家や作品についての語り口がどれも素晴らしくて、その言葉が傍らの白ワインと混じり合って読みながらなんとも言えないゆたかな感じというか、ぽやーんとしてくる。

 吉増剛造、古井由吉、吉田健一、北村太郎、金井美恵子に澁澤龍彦、谷崎潤一郎、どれも自分にとっても大切な作家と作品で、やはり実家の書棚から持ち出して、この辺の珠玉の本たちを手元におかねばなるまい、という思いを強くした。なんか、もう、この辺をのんびり読んでいればそれで満たされる気がしてしまうので、再びゆっくりと味わう時が来たのかもしれない、そんな感触。

 なるたけ叙情をおさえ、ことばの輪郭をにじませないから、かえって、込められた不定形のイメージや夢がそのまま読む人に伝ってゆく。目をつむりながらでも読むことができるようなことばだと思う。わわしくなく、とても静かで、土によって自然濾過された水と同じでまじりけがない。
朝吹真理子『抽斗のなかの海』P.100

 武満徹の著作に関して語られたことばなのだけど、そんなことはどうでも良くて、このことばだけですごくいい。エッセイなのだろうけど、こんな風に時折り、詩のような、イメージが湧き出してくるようなことばが随所にある。読み終わりたくないから、のんびり読むことにした。




自分の好きなことを表明すると、気の合う仲間が集まってくるらしい。とりあえず、読んでくれた人に感謝、スキ押してくれた人に大感謝、あなたのスキが次を書くモチベーションです。サポートはいわゆる投げ銭。noteの会員じゃなくてもできるらしい。そんな奇特な人には超大感謝&幸せを祈ります。