見出し画像

【料理道】下ごしらえをし過ぎて53年、いまだに完成しない料理を追う男

「小三の時からだったかな」

塩胡椒の塩と胡椒を手作業で分離させながら、調理場に大量に並んだ多種多様なクッキングスケール(はかり)を全て使い、分けた塩を何度も丁寧に量るのは、測量士のピエール・タッキーナ氏(76)。昔から料理が好きで、最初はスープを作ろうと、小学生から始めた下ごしらえ。いまだに完成せず、今では本職そっちのけで下ごしらえを続けている。

「最初はファミレスで働いたんだが、仕事が遅過ぎてクビになってねガッハッハッ!」

笑った拍子に分けていた塩を吹き飛ばしながら、散らかった塩を気にもせずにおもむろに唐辛子を砕き始め、年季の入った底の深い寸胴鍋に放り込むピエール氏。今にも消えそうな弱火と、和風の様なカレーの様な中華の様な何とも言えない香りが印象深い。

「味見はもちろんするさ。だが納得がいかない。その納得のいかない味で一杯やり始める。反省の毎日さガッハッハッ!」

笑った拍子に鍋をひっくり返し、気にもせずに冷蔵庫からアルミホイルに包まれた焼き豚の様な物を取り出し切り始める。

ピエール氏の果てしないこだわりと追及の旅は、まだ始まったばかりの様だ。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

※すべての記事に関しまして、真剣に読まない様、よろしくお願い申し上げます。