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卵を使わないメレンゲクッキー 〜◯◯はもう捨てないで〜

食品加工を全力で楽しむ人、いしもとめぐみ です。

先日、お味噌を作りました。と言っても味噌には発酵熟成が必要なので、美味しく出来上がるのはまだ先になります。
今回はお味噌についてではなく、味噌作りの副産物を使ったものを紹介します。

味噌作りには大豆が欠かせません。
大豆は、すぐに料理に使える水煮の形でも販売されていますが、本来は収穫後、乾燥させて乾物として長期保存するものです。前々回の金時豆も同じですね。

実は、以前から気になっていたことがありました。
それは「大豆のゆで汁からメレンゲクッキーが作れる」という話。
味噌を乾燥大豆から作るときにやってみよう、と思っていたのです。
そう、まさにチャンスがやってきました!

1.大豆のゆで汁を手に入れるまで。

乾燥大豆を水戻しするところから、作り方を説明します。

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まずは乾燥大豆を洗って汚れやゴミを落とします。数回水を変えながら、ため水の中でかき混ぜるように豆を洗います。ゆで汁を使うので、豆はよく洗っておきましょう。

豆を水に浸して戻します。
豆の吸水がものすごいので、たっぷりの水に浸しましょう。昔、初めて乾燥大豆を水戻ししたときに、大豆が思いのほか吸水して膨張し、豆が器からあふれんばかりの状態になっていて叫び声を上げたことがありました。
味噌用の麹を購入したお店でもらったレシピでは、大豆の3倍くらいの水に浸すとありました。1kgの乾燥大豆では3リットル程の水です。

水戻しの時間の目安は12〜14時間です。
金時豆の水戻しと同様、豆の水分量や気温によってこの時間は変わってきます。豆は新しいほど水分量が多く、気温が高いほど豆の吸水が速いので、水戻しの時間は短くなります。豆が8〜9割ほど戻る程度まで水に浸します。
今回は17時から翌日の朝7時、14時間浸しました。

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水戻しができたら、豆をゆでていきます。
沸騰したら弱火にして、豆がやわらかくなるまでじっくり煮ていきます。灰汁が出たら取り、ゆで汁が蒸発して減ってきたら、別に沸かしておいた湯を足します。ここで冷水を足してしまうと、豆の外側と内側で温度差ができて豆の皮が破れやすくなり、豆の煮えムラができてしまいます。

味噌に使う大豆であれば6時間程度かけて、豆が十分やわらかくなるまでゆでる必要があります。しかし味噌用でなければ、食べやすいやわらかさになったところで火を止めて大丈夫です。目安は1時間程度ですが、実際に食べて確かめるのが一番です。豆が熱々なので、火傷に注意してください。

今回必要なのは大豆のゆで汁です。
ゆで上がった!という気の緩みで、シンクにそのまま流してしまわないように… いつもは捨ててしまうゆで汁なので、結構やりがちです。大きな鍋やボウルにザルを重ねて受けたり、必要な分だけゆで汁をおたまで取るなどして、ゆで汁を確保してください。
茶色の、少し濁ったようなゆで汁が取れました。

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2.大豆メレンゲクッキーを作ってみた。

ゆで汁を手に入れるまでの道程が長すぎますが、ここからはとっても簡単です。

《材料》
大豆のゆで汁 120g
グラニュー糖 50g

《作り方》
※オーブンを100℃で予熱しておく。
① ボウルに大豆のゆで汁を入れて、ハンドミキサーで角が立つまで泡立てる。

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② グラニュー糖を加えて、メレンゲが安定するまでしっかり泡立てる。

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③ ②を絞り袋に入れて、クッキングペーパーの上に直径3cm程度に絞り出す。絞り袋がなければスプーンを2本使い、1本のスプーンでメレンゲをすくってから、もう1本のスプーンでクッキングシートの上に落とす。

④ 100℃のオーブンで60分焼く。

要は、ゆで汁と砂糖を泡立てて焼くだけ。
しかも卵白のメレンゲよりも泡立ちが早いように感じました。卵白では温度にも気をつけなければなりませんが、その必要もなし。
とてつもなく簡単です。

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写真奥は焼く時間が長くて焦げてしまいました。白い方がキレイですね。
絞り袋がなくスプーン作戦を採用したので形はいびつですが、40個近くできたと思います。焼くとメレンゲが溶けて広がりそうですが、若干大きくなる程度であまり心配はいりません。

3.大豆メレンゲクッキーを食べてみた。

食感はさっくり、とても軽いです。口に入れるとしゅわわわ〜と溶けていき、大豆の素朴な風味を感じます。

食感がおもしろくてぱくぱく食べてしまいます。しかしもとが大豆のゆで汁なので、灰汁などの雑味も多少入っているせいでしょうか、数個食べるとちょっとくどくなってきます…
甘いものの食べすぎ防止になって、ある意味良いかも?灰汁を丁寧に取るなどすれば軽減できるかもしれません。お茶菓子に少しつまんだり、ちょっとしたプレゼントにしたりする分にはちょうどいいのではないでしょうか。

しばらく常温で放置していると、湿気を吸ってメレンゲクッキーの表面がベタついてきて指にクッキーがくっつくようになってしまいました。
密閉容器に入れて冷蔵保存すると、10日程度経ってもベタつくことなく、さくっとした食感もそのままに保存できました。クッキーが冷めたら早めに冷蔵庫に入れましょう。
乾燥剤が入った密閉容器なら常温でも保管できそうですが、大豆の栄養がたっぷり溶け込んだゆで汁から作っているので傷みやすいかもしれません。冷蔵保存がベターです。

4.大豆メレンゲの正体は?

見事に大豆のゆで汁からメレンゲクッキーを作ることができました!
正直に言って、こんなに早くしっかり泡立つとは思っていませんでした。
なぜ、ゆで汁から立派なメレンゲを作ることができるのでしょうか。

大豆メレンゲの正体は、大豆に含まれるサポニンという成分です。
サポニンは水に溶けやすい性質があるので、大豆からゆで汁にたくさん抽出されます。サポニンは苦味やえぐみのもと、つまり灰汁であるのと同時に、抗酸化作用、脂肪の蓄積抑制などの健康効果があることも知られています。
そしてサポニンは、大豆メレンゲに必要な界面活性作用を持っています。

メレンゲはホイッパーやハンドミキサーで液体をかき混ぜ、泡立てることで作ります。そもそも「泡立つ」とはどのような現象なのでしょうか。

液体の表面には「表面張力」という力がはたらいています。
液体の分子と分子が引き合う力で、表面積をできるだけ小さくしようとする性質のことです。コップにゆっくり水をそそぐと、コップのふち以上に水が盛り上がってなかなか溢れない、あの現象です。水は分子と分子が引き合う力が強いので、なかなか溢れないのです。

「泡立つ」ためには液体の中に空気をたくさん抱え込まなくてはなりませんが、表面張力が大きいとなかなか空気を抱え込むことができず、泡立ちません。
つまり、表面張力が小さければよく泡立つことになります。

ここでサポニンの界面活性作用の出番です。
サポニンという物質には液体になじみやすい部分(親水基)と液体になじみにくい部分(疎水基)があります。親水基と液体がなじんで液体の表面をサポニンがおおうことで、液体の表面張力が小さくなります。これが界面活性作用です。

サポニンのおかげで表面張力が小さくなってよく泡立つようになり、大豆のゆで汁でもメレンゲができる、というわけなのです。
本家本元のメレンゲの材料である卵白も界面活性作用を持っています。卵白も大豆のゆで汁も同じ原理で泡立っていたんですね。

5.泡立ちを安定させるためには?

大豆メレンゲが泡立ちましたが、ただこれだけでは泡が少し不安定。

本家本元の卵白は界面活性作用という「泡立つ」力と、さらに「泡が持続する」力を持っています。
卵白の「泡が持続する」力を「空気変性」と言います。卵白には空気に触れると膜状に硬くなる成分(オボアルブミンというたんぱく質)が含まれていて、メレンゲになった泡が安定することができます。

しかし大豆には、空気変性を起こすたんぱく質は含まれていません。
そこでお砂糖の力を借ります!
砂糖は水を含むとベタベタして粘りが出ます。この粘度がメレンゲの泡を安定させるのです。

卵白メレンゲの砂糖を加えるタイミングについては、いろいろなところであーだこーだ言われているので、今回は割愛。
大豆メレンゲに関しては、まずはゆで汁だけで泡立てて、ある程度泡立ってきたら3回ほどに分けて砂糖を加え、少しずつメレンゲの粘度を高めて安定させるのが良いかと思います。最初からゆで汁と砂糖を合わせて泡立てると、粘度が付きすぎて泡立ちしにくい可能性があります。

大豆のゆで汁と砂糖を泡立てて、焼くだけ。
いつもは捨ててしまうものから、ちゃちゃっと手軽にスイーツが作れてしまう、嗚呼なんてステキなことでしょう。
さらに、大豆メレンゲクッキーの良いところがまだあるんです。

6.大豆メレンゲの良いところ。

大豆メレンゲクッキーは卵を使っていません。
通常のメレンゲクッキーは卵白から作りますが、卵白ではなく大豆のゆで汁を使ったこのメレンゲクッキーは、卵NGの人でも食べられるのです。

卵アレルギーは、小学生以下の子どもが発症する食物アレルギーで上位に入ります。
プリン、ケーキ、ドーナツ、カスタードクリーム、アイスクリームなどなど、子どもが大好きなスイーツにはたいてい卵が使われています。しかし大豆メレンゲクッキーは卵を使っていないので、卵アレルギーをもつ子どもでも安心して食べることができます。

この大豆メレンゲクッキーは大豆をゆでる以外は火を使わず、本当に簡単に作ることができるので、おうち時間が増えている今、お子さんと一緒に作るのも楽しいと思います。むくむく泡立ってメレンゲができる様子もおもしろいですよ。

卵NGといえば、動物性たんぱく質を口にしないヴィーガンの方にもおすすめです。そもそも、アクアファバ(Aquafaba)というひよこ豆のゆで汁を使ってメレンゲを作る方法がヴィーガン料理にあるそうです。
砂糖にも気を配る方は、グラニュー糖を黒砂糖や甜菜糖などお好みのものに変えてみてください。

大豆メレンゲは、もちろんクッキーだけでなく他のお菓子にも応用できると思います。ゼラチンを加えてムースに、寒天で固めれば淡雪羹に。

私は普段お菓子を手作りしないのでもうネタが尽きました。すみません。ぜひ、いろいろ作ってみてください。

ゆでた大豆も美味しく食べてくださいね。
冷蔵なら2、3日程度もちますが、大量にできるので冷凍保存がおすすめです。水気をよく切り小分けにして、ラップでぴっちり包んで冷凍すれば、1ヶ月程度もちます。

7.大豆メレンゲについてまとめてみた。

大豆をゆでたときにいつもは捨ててしまうゆで汁には、大豆のサポニンという成分が溶け出しています。

サポニンには、界面活性作用という泡立ちを起こす力があるため、卵白のメレンゲのようにしっかりと泡立つことができ、できた泡を砂糖の粘りによって安定して持続させることができます。

卵を使わないメレンゲなので、卵アレルギーやヴィーガンの方におすすめのお菓子です。もちろん、それ以外の方も不思議な大豆メレンゲ作りに挑戦してみてください。メレンゲクッキーのふわしゅわ食感はかなり楽しいですよ!

大豆のサポニンに泡立ち作用があることは知っていましたが、予想以上にしっかりしたメレンゲができてびっくりしました。今まで何も考えずに捨てていたゆで汁に、こんなすごい力があったことに驚きです。ゆで汁、侮ることなかれ。
ではでは。

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