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金時豆の甘煮 〜迷惑なほど丁寧なレシピ〜


食品加工を全力で楽しむ人、いしもとめぐみ です。
私が人生で最も作っているもの。
それは金時豆の甘煮です。

大卒で社会人をやっていたときに作り始め、ここ3年くらいは確実に月1ペースで作っています。金時豆のほっくりぽくぽくした食感とやさしい甘味が好きなんです。お弁当のちょっとしたスペースに入れておいて、お昼に金時豆の甘煮をつまみ、仕事で荒んだ心を癒していたあの頃。私の精神安定剤、それが金時豆の甘煮。

作るたびに少しずつブラッシュアップしていて、専門学校時代も金時豆の甘煮を題材に食品加工のレポートを一つ書いていました。
今回は現時点での金時豆の甘煮ベストレシピを、迷惑なほど丁寧な解説付きで公開しちゃいます。

《材料》

金時豆(乾燥) 100
砂糖      60
醤油      4

こちらは配合です!豆の量に合わせて砂糖、醤油の量は計算してください。
(例:乾燥金時豆250g → 砂糖150g、醤油10g)

砂糖はお好みのもので結構ですが、私はいつも素炊糖(すだきとう)というものを使っています。
素炊糖は砂糖の中でも含蜜糖(がんみつとう)という分類に含まれます。含蜜糖は、さとうきびから搾った汁をそのまま煮詰めて作る砂糖のことです。一般的なものに黒糖、和三盆があります。

含蜜糖に対して分蜜糖(ぶんみつとう)というものもあります。分蜜糖はさとうきびの搾り汁を遠心分離機などにかけて、砂糖の結晶だけを取り出したものです。よく料理やお菓子作りに使用される上白糖、グラニュー糖、ざらめが分蜜糖に分類されます。

含蜜糖にはさとうきびの絞り汁の成分がすべてそのまま含まれているので、素炊糖は茶色く、甘いだけでない独特の風味も感じられます。味に奥行きが出てミネラルなどの栄養素も含まれるので、金時豆の甘煮には素炊糖を使っています。

塩味で甘味を引き立たせるために、醤油も加えます。

① 浸漬

豆をよく洗い、豆が十分に浸るくらいの多めの水に浸して水戻しする。

豆にはゴミや汚れが付いている可能性があります。水の中で豆をかき混ぜるようにして、水を変えて2度ほど洗いましょう。

豆は8〜9割ほど戻るくらいに水戻ししてください。

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豆を完全に水戻ししてしまうと、後で煮るときに豆が熱で膨張して皮が破れてしまいます。豆の皮がぱんぱんに張る前、少ししわが残る程度で浸し終わりにします。目安は9時間程度ですが、豆の水分量や気温によって変わってきます。豆は新しいほど水分量が多く、気温が高いほど豆の吸水が速いので、水戻しの時間は短くなります。

② 渋抜き

豆の水戻しが完了したら、浸した水のまま豆を火にかける。沸騰したら中火にして、5分ほど煮たらザルに上げてゆでこぼす。

金時豆の色が抜けて煮汁に移ります。
豆の渋みや灰汁も一緒に流れ出るので、一度ゆで汁を捨てましょう。このとき豆を冷水にさらさないでください。

③ 煮熟

豆を煮ていた鍋を軽く洗い、鍋に付いた灰汁や汚れを落とす。
鍋に熱いままの豆を戻し、別で沸かしておいた湯を、豆が十分浸るまで入れて再び煮る。沸騰したら弱火にして、豆が踊るか踊らないかくらいの火加減にする。
煮汁が蒸発して少なくなってきたら湯を足して、豆が常に煮汁に浸っているようにする。灰汁(細かい泡)が浮いてきたら丁寧に取り除く。鍋底の豆が潰れてしまわないよう、ときどき鍋底から返すようにやさしく混ぜる。

別の鍋を使う場合は洗わなくてよいのですが、工程②と同じ鍋で煮ていく場合は鍋にこびり付いた汚れや灰汁を洗い落としましょう。

この工程で豆を煮るときにはを鍋に入れてください。煮ている間に蒸発して少なくなった煮汁に足すのもです。
熱々の豆に冷たい水をかけると、豆の外側と内側に温度差ができます。外側は冷やされて縮みますが、内側は熱で膨張する方向に力がはたらきます。ここに力のひずみが生じて豆の皮が破れやすくなってしまうので、冷たい水を加えるのはご法度です。

沸騰している熱々の湯でなくても、一度沸いた温かい湯であれば大丈夫です。工程②と同時にたっぷりの湯を沸かしておくのが良いでしょう。

豆が踊るか踊らないかくらいの火加減とは、湯が静かにふつふつと煮え、豆がときどき揺れ動く程度の火加減です
沸騰してぐらぐらと煮え立っている湯の中で、豆が激しく浮いては沈みを繰り返すような状態では決してありません。豆同士がぶつかり、衝撃で豆の皮が破れてしまいます。

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豆を混ぜ返すのは1、2回で十分です。豆の皮を破らないように、ゆっくりやさしく行います。
私はやわらかいシリコン製のおたま(無印良◯)を使っています。硬い素材のおたましか持っていなければ、無理に混ぜ返さなくても構いません。

ここまでの解説で豆の皮が破れることを過剰に恐れているようですが、それも豆の美味しさのためなのです。
煮ている間に皮が破れ、中身が流れ出てほとんど皮だけになった金時豆の悲しさよ。金時豆の甘煮の美味しさは、自分の歯で豆の皮を破り、その中のほくっとしたデンプン質に出会う瞬間に感じると思うのです。

この工程③で豆を煮るのは、硬い豆をやわらかくするためです。
硬い豆がやわらかくなる、というのは手作りタピオカの記事でも説明したデンプンの糊化が起こっているためです。

豆は、たんぱく質が多いものとデンプンが多いものの2種類に分けられます。例えば、前者には大豆・落花生、後者にはあずき・インゲン豆・そらまめ・えんどう豆があります。
金時豆はインゲン豆の仲間なので、デンプンが多い豆のグループにあてはまります。

デンプンの糊化、すなわち硬いデンプンがふっくらやわらかになるためには水と熱が必要になります。金時豆もゆでることでデンプンを糊化させて、ほっくりやわらかくしているのです。

④ 調味

豆を親指と小指ではさんでつぶしてみて、豆の硬さを確認する。豆がやわらかくなったら火を止め、砂糖を1/3量ずつ加える。砂糖をすべて加えたら火にかける。このときも豆が踊るか踊らないかくらいの火加減になるようにする。

「親指と小指ではさむ」というのは力が最も入りにくい指なので、これでつぶれなければまだ硬く、つぶれれば煮上がったということです。(つぶす豆は少し冷まして、やけどしないよう注意してください)
ですが豆のやわらかさの確認は、実際に食べてみるのが一番です。指でつぶれたら食べてみましょう。味付けされていない豆も素朴で美味しいですよ。

砂糖を加えるのは、必ず豆がやわらかくなってからです。砂糖を加えると、豆はそれ以上やわらかくなりません。

これには浸透圧が関係しています。

浸透圧とは、濃度の異なる2種類の液体が薄い膜で仕切られているとき、濃度の薄い方の水分だけが膜を通過して濃度の濃い方へ移動して、2種類の液体の濃度が一定になるようにはたらく力のことです。
マーマレードジャムを作るときに、果物に砂糖をかけてしばらく置いておくと、果物からじわ〜っと水分が出てくるのも浸透圧がはたらいています。

金時豆の甘煮では、砂糖を加えると豆のまわりの煮汁は濃度が高まります。しかし皮で仕切られた豆の中は濃度が薄いままです。
「豆の皮」がさきほどの浸透圧の説明でいう「薄い膜」にあたるので、豆の皮を境にして豆の中の水分が豆の外へ出ていくように浸透圧の力がはたらきます。豆の中に水が入りにくくなってしまうので、豆はそれ以上やわらかくなることができません。だから砂糖を加えるのは豆が十分やわらかくなってから、という訳なのです。

砂糖を1/3量ずつ加えるのも、浸透圧をおさえて豆に味を含ませやすくするためです。
砂糖を一気に全量加えてしまうと、前述のように煮汁と豆の濃度差が大きくなります。水が豆から外に出るように浸透圧がはたらくので、煮汁は豆の中に入りにくくなり、味が染み込みづらくなります。
煮汁と豆の濃度差を少なくするために、砂糖は少しずつ加えるようにしましょう。私は15〜20分程度おいて砂糖を加えるようにしています。

⑤ 仕上げ

10分程度煮たら醤油を加え、さらに5分煮る。火を止めて冷ましながら味を含ませる。

この時間は目安です。煮汁の量と味を見て、程よいところで加熱を終了してください。
煮汁の量は、最終的に豆が少し頭を出すくらいの量がおすすめです。豆全体に均等に味が浸透して、味にムラがなくなります。煮汁は冷ましている間に蒸発して結構減ってしまうので、少し多いかな、というくらいで加熱を終了してください。

お疲れ様でした。
金時豆の甘煮の完成です。

このレシピには、私が今持っている、金時豆の甘煮に対する知識と経験と情熱と愛をすべて注ぎました。
きっと明日も明後日も1年後も10年後も、私は金時豆の甘煮を食べ続けていることでしょう。
Forever 金時豆の甘煮。君といつまでも。

暑苦しくなってきたところで一区切りします。
ちなみに次回投稿も、金時豆の甘煮をお送りする予定です。
ではでは。

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