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私史上最高マーマレードを作る 〜基本編〜

食品加工を全力で楽しむ人、いしもとめぐみ です。

自己紹介でジャムの話が出たので、最初のレポートはマーマレードから。

ん?ジャムからどうしてマーマレードなの?
そもそもジャムとマーマレードって似てるけど同じもの?違うもの?
とお思いのあなた。
ジャムとマーマレードは基本的に同じものです。

日本では食品や農林水産品について、農林水産省が法律で規格を決めています。
これをJAS法(日本農林規格等に関する法律)と言います。
JAS法では、ジャムとマーマレードについてこのように定義しています。

ジャム類
次に掲げるものをいう。
1 果実、野菜又は花弁を砂糖類、糖アルコール又は蜂蜜とともにゼリー化するようになるまで加熱したもの
2 1に酒類、柑橘類の果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えたもの
ジャム
ジャム類のうち、マーマレード及びゼリー以外のものをいう。
マーマレード
ジャム類のうち、柑橘類の果実を原料としたもので、柑橘類の果皮が認められるものをいう。

ジャムっぽいやつで、マーマレードとゼリーじゃないのは全部ジャム!って、なかなか乱暴な言い方。
ひとまずゼリーは脇に置いといて、マーマレードは「柑橘類の皮が入っている柑橘類で作ったジャムっぽいやつ」ってことだそうです。
だからジャムとマーマレードは基本的に同じもの、と言えるのです。

マーマレードって、どんなイメージを持っていますか?
大抵、薄くてひょろっと長い皮が入っているイメージじゃないでしょうか。
それ、食べづらいのは私だけでしょうか。
マーマレードを塗ったトーストにかじりついたとき、うまく噛みきれなくて、長い皮がぺろっと付いてきて、ペタッと唇にはりつきません?
で、唇がマーマレードでベタベタになって朝からいらいら。
噛みきれなくてすみません。私、歯並びが悪いもので…

そこで私はひらめきました!
皮は長くなくていい、小さく切ってしまえばいいんだ!

で、以前作ったマーマレードが見出し画像の写真です。
皮をさいの目に切っています。
なんて食べやすい!自分フレンドリーなマーマレード!
見た目もきらきらして、なんとなくステキじゃないでしょうか。
うん、ステキ♡(自己満足)

ただ、問題がありまして。
それは粘度が低くてたれやすいということ。
マーマレードをのせたトーストを少しでも傾けようものなら、つつつっとマーマレードが広がっていき、トーストを持つ手にポタリとたれて朝から叫び声を上げることもしばしば。

せっかく唇ベタベタ問題が解決したのに、これでは元の木阿弥。
それなら、手にたれてこない、朝から穏やかな心で食べられる私の理想のマーマーレードを作ろうじゃあないかっ!

まず、マーマレードの基本的な作り方を説明します。
専門学校の加工実習のレシピほぼそのままです。先生ごめんなさい。
でもいくつか、私のマーマレード作りの経験から学んだコツも加えておきます。

材料
柑橘類の外皮と果汁 100
グラニュー糖   70
クエン酸     0.3

※この数値は配合です!外皮と果汁の重量を計り、それを100とした場合のグラニュー糖、クエン酸の量を計算してください。


柑橘を流水で洗い、横半分に切ってジューサーで果汁を絞る。ジューサーが無い場合は果肉の房に包丁で切り込みを入れてから絞る。このとき外皮をできるだけ傷つけないよう、房に親指を入れるようにして絞る。果汁は茶こし等でこして種を除き、計量する。


皮の内側の白いふわふわした部分や房の薄皮をはぎ取る。マーマレードに加える外皮部分は包丁で十字に4分割し、内側の白い部分が分厚ければ包丁で少しはぎ取る。へたの周囲は切り取り、外皮を薄切り・さいの目切り等好みの形状に切って計量する。①の果汁と外皮の重量から、グラニュー糖とクエン酸の重量を計算し、計量しておく。

※白いふわふわした部分を「アルベド」、柑橘の房を「じょうのう」、房の薄皮を「じょうのう膜」と言います。アルベドだけなんかかっこよすぎる名前なので、以下白いふわふわで通します。
取り除いた白いふわふわやじょうのう膜、外皮の切りくず等は捨てずにすべて取っておいてください!


外皮を沸騰後10分間数回ゆでる。これを3回繰り返す。最後は外皮をざる上げした後に熱い状態のまま鍋に戻し、グラニュー糖の1/3量を加えてしばらく置いて水分を出す。

※外皮が熱い状態で砂糖を加えることで、 自己紹介で書いた「水の挙動」を利用して外皮から水分を出します。


②で取っておいた白いふわふわ、じょうのう膜、外皮の切りくずを粗みじん切りにして沸騰後10分間ゆでる。ざる上げして鍋に戻し、ひたひたの水を加えて再び沸騰後10分間ゆでる。ゆで汁をボウルで受けて薄皮等をざるでこす。ゆで汁にクエン酸を加えて溶かす。このゆで汁を「粗ペクチン液」とする。


③から水分が出たら、グラニュー糖の1/3量と①の果汁を加えて火にかける。火力は強めの中火(勇気があれば強火)。焦げつかないように常にヘラで混ぜる。沸騰したら残りのグラニュー糖を全て加える。常にヘラで混ぜつつ、灰汁が出たらこまめに取り除く。沸騰後10分程煮たら粗ペクチン液を加える。マーマレードの粘度の状態を見ながら、沸騰後20分を目安に加熱を終了する。熱い状態のまま、煮沸消毒した清潔な瓶に詰める。

※瓶の煮沸消毒については、またいつか取り上げたいです。とりあえず今回はぐーぐる先生に聞いてください。

レポート初回にしてはなかなかハード。
外皮を細かく切ったりふわふわをゆでたりと操作が多いし、強火でがんがん煮詰めて、常にヘラで混ぜつつ灰汁を取るとか、書いてて私も息切れしてます。
仕上がりを気にしなければ構わないのですが、外皮のさいの目切りも結構めんどくさい作業です。
でもめんどくささの向こう側に感動のゴールが待っているんですよね。
うん、がんばるっ。

ジャム・マーマレード作りに関して外せないポイントはペクチンのゲル化です。
これがあるからジャムはジャムたり得るんです。
理想のマーマレードを作るためにも理解しておく必要があります。

はい、ちょっと説明します。

植物の細胞組織にはペクチンというものが存在します。
ペクチンは、植物の細胞と細胞をくっつける働きをしています。
これ、人間や動物にはありません。ペクチンが存在するから、植物の茎は細くてもしっかり自立できるんですね。

ペクチンには2種類あります。
ハイメトキシルペクチン(HMペクチン)とロウメトキシルペクチン(LMペクチン)です。
名前だけ見ると3段変態とかしてみんなの平和を守ってくれそうですが、実は、本当に変態します。それがゲル化です。
ゲル化とは、ジャムのようなどろっとした状態になることです。

野菜や果物を含む植物が持っているペクチンはHMペクチンです。
ジャムやマーマレードを作るときにペクチンを添加することもありますが、今回は柑橘が持っているHMペクチンを最大限に利用したいと思います。

2つのペクチンはそれぞれ異なる条件でゲル化します。
HMペクチンについては
ペクチン濃度 0.5%以上
糖濃度 60度以上
酸度  pH2.7〜3.4(pHは3.0未満で酸性)
という条件が必要になります。
こんな数値、お家でどうやって計るの!?と困惑したあなた、ご安心ください。
要はたくさんペクチンがあって、しっかり甘くて酸っぱければいいんです!

ここでマーマレードの作り方を振り返ってみましょう。
工程④で「粗ペクチン液」というものを作っています。
ゆでる(加熱する)ことで植物の細胞と細胞のくっつきがゆるみ、ペクチンがゆで
汁に溶け出します。そのためゆで汁には柑橘由来のペクチンがたくさん溶けているのです。
これでたくさんのペクチンという条件がひとつそろいました!

しっかりした甘さ…これは砂糖をじゃんじゃん入れて、煮詰めて水分をとばして
濃縮しちゃいましょう。
柑橘って甘いというよりは、酸味があって香りがあって爽やか〜なイメージじゃないですか?
ペクチンをゲル化させるためにはある程度の糖が必要なので、柑橘類100に対してグラニュー糖70という、糖がちょっと多めの配合になっています。

最後に酸っぱさですね。
柑橘には酸が含まれていますが、柑橘の種類によって酸の度合いは異なるので、クエン酸を添加するのが無難かと思います。
またはレモンの果汁を加えるのも良いかと。
酸っぱいと言えば、やっぱりレモンですもんね〜(安直)

さて、ペクチンのゲル化に必要な3つの条件がそろいました。
実はマーマレードには他にひとつ、大きな課題があります。
それは、苦味の除去
グレープフルーツ等がわかりやすいと思うのですが、ほろ苦い味を感じることがないでしょうか。これはナリンギンという苦味成分が含まれているからなのです。
マーマレードを作る工程③④で、どちらもゆで汁を捨てて再びゆでていますよね。
外皮については3回も。これはゆでることでナリンギンをゆで汁に抽出し、苦味を除去しているのです。ナリンギンは特に外皮に多く含まれているので、外皮は3回もゆでているんですね。
この作業を行わないと、せっかくのマーマレードが苦〜いまず〜いものになってしまいます。マーマレード作りにおいては面倒でも必須の作業です。

はい、ここまでがマーマレード作りの基本です。
ポイントは
・ペクチンのゲル化とその3つの条件
・苦味の除去
です。

で、この基本通りに作ったマーマレードが最初に写真で見せたもの。
これだと粘度が低くてたれやすい、朝からべたべたいらいらしてしまう、ではトーストからたれてこない、私の理想のマーマレードを作りましょう!というお話でした。
基本をおさえた上で、私なりに考えて試作してみました。

…え、まだ続くのかって?
いやいや、ここからがほんとに楽しいところ。
でもこの辺で一区切りとしましょうか。

次回、「私史上最高マーマレードを作る 〜実戦編〜」に続く!

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