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心が日焼けしたかのようなヒリヒリとした“余韻”が残る。-映画「aftersun/アフターサン」を観て-

静岡シネ・ギャラリーさんの紹介文をお見かけした瞬間から「これは絶対に見る!」と心に決めていた映画「aftersun/アフターサン」を観てきました。主に観た人向けですが、ネタバレのようなことは書かずに、個人的に感じたことを綴っていこうと思います。

心が日焼けしたような“余韻”

「aftersun/アフターサン」、何はともあれ「余韻」がすごい映画でした。派手な演出やエピソードがあるわけではなく、ラストも「あれ?終わり?」と驚いてしまったくらいなのですが、その分“すべての見方が観客に委ねられる映画”なのかもしれません。とても賛否両論がありそう。

終わった瞬間は「(なるほど、ここで終わり。うわ、リアル。本当に“after sun”だ・・)」と、涙が止まらず。この2時間弱の間に見たことを思い返し、心が日焼けしたかのような余韻に浸りながらエンドロールを眺めていました。

わかっているからこその“危うさ”

「aftersun/アフターサン」は11歳の女の子“ソフィ”と、離れて暮らす若き父親“カラム”が過ごすひと夏のバカンスを撮っている映画なのですが、とにかくずっと危うい。色々な角度からの危うさを感じながら、ずっと観ていたような気がします。

画像出典:映画「aftersun/アフターサン」公式HPより

見終わったあと「なぜ危うさを感じたのだろう?」と一歩引いて考えてみました。言葉が足りないことを承知で書くと、それは多分2人が“全部わかっているから”なんですよね。もちろん、未来のことは誰にもわからない。矛盾しているようだけど“わかっていること”を頭で認識しながら過ごしているわけでもない。ただ、心の奥底で多分2人は“それぞれに見る真実”を全部わかっていた。

少なくとも、この夏が終わったらもうしばらく会えないこと。毎年一緒に夏休みを過ごしているけれど、11歳のソフィは大人になっていくこと。パパの調子が何やら不安定なこと。それぞれの日常も変わっていくこと。

愛しさや大切さは変わらずに増していくけれど、きっと今までと同じではいられないということ。

普段は離れて暮らす2人の心の奥にある、互いを想う愛。全部わかっていながらバカンスを楽しんでいる今。この時間を守りたい気持ち。そんな二重三重の想いが、2人の瑞々しい表情や眩しい太陽の光や波の音からひたすらに漂ってきて、とにかくずっと危うさを感じていたのだと思います。

11歳の無邪気で鋭い“言葉”

“多くを語らず、ミニマリスティックな演出”公式HPに記載があるくらい、ごく自然な瞬間を切り取っているシーンの多い「aftersun/アフターサン」ですが、11歳のソフィが発する言葉に「ハッ」とする瞬間がありました。

11歳の頃、将来は何をしてると思ってた?

「aftersun/アフターサン」ソフィが誕生日を迎えるパパに向けた質問


同じ空を見上げるっていいね。
パパと離れていても太陽を見れば近くに感じられる

「aftersun/アフターサン」ビーチサイドで空を見上げながら

大人の世界の輪郭は見えているけれど、まだまだ無邪気な子どもの感覚が多くを占めている11歳。そんなソフィが発する純粋で真っすぐな言葉は、色々な重圧や葛藤を抱えながら生きているパパ(カラム)だけでなく、多くの大人に鋭く刺さるのではないでしょうか。「aftersun/アフターサン」は、そんな「ハッ」とする瞬間をたくさん味わうことができる映画です。

日常は寝息のような“余白”

最後に、「aftersun/アフターサン」を見て感じたことは“余白”が多い映画だということ。例えば、夏休みを過ごすホテルに到着してソフィが眠ったあとのシーン。寝息がずっと聞こえているだけのシーンが長く続きます。

ストーリー展開の多い映画を見慣れているせいか、どうしても寝息だけが聞こえているようなシーンが長く続くと「これは何か起こるフラグに違いない・・」と勘ぐってしまう私でしたが、そんなことはなく、ただただその瞬間のリアリティが丁寧に描かれていただけでした。

確かに、当たり前ですが現実は「どこかに行って何かをする」イベントだけではないですよね。むしろそれ以外の退屈な時間や何もせず過ごしている時間、ただ生きているだけの時間がほとんど。

静まり返った寝室に「家族の寝息」だけが聞こえている瞬間、夜中に目が覚めた時のデジタル時計の表示が「03:09」だった瞬間。普段意識しないほどに当たり前で、とても小さな、誰にでもある一瞬。

「aftersun/アフターサン」では、そんな“余白”がちゃんと描かれていました。そのせいか、映画が終わる頃には自然と一緒にひと夏を過ごしたような気持ちになっているんです。

観客それぞれが、自分の人生のどこかしらとリンクさせてしまう瞬間がある(であろう)この映画。その秘訣は“余白”にあったのだろうと感じます。“余白”から“危うさ”を感じ、だからこその“余韻”なのでしょうね。

爽快でも鬱々でもなく希望でも絶望でもなく、ノスタルジーとも違う。でも全て含まれている気もする。なんとも表現しがたい“余韻”残る「aftersun/アフターサン」でしたが、個人的には「だからこそ、できることをしていこう」と意外にも前向きな気持ちを抱けた気がしています。人生は諸行無常。誰しも日焼けでヒリヒリした心を抱えながら前を向いていく瞬間があるのでしょう。

・・やはり私の拙い文章では表現し切れないので、気になる方は、ぜひ劇場へ!

「aftersun/アフターサン」、ソフィの笑顔と“余白”と“余韻”が印象的なとても良い映画でした。(とりあえず、我が家は早速夫にレイトショーで見に行くことをすすめました!笑)







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